途中下車
13時に最寄駅の改札を通る。13時7分に到着した電車は、長い座席の真ん中を空けていて、間を埋めるように乗車率が高まっていく。どことなく目的地を決めずに揺れに身を任せる。鞄に入れている本を手元に用意しておきながら、瞼を閉じて微睡む。しばらくして降りたくなる駅の一駅前を発ったところ。開きもしなかった本をそのまま鞄に入れ直しながら、窓の外を眺めながら席を立つ準備を済ませる。
突然、身体が沈むような重さに襲われる。座っているのがやっとで、動こうと思えなくなる。降りられそうにない。
頭からのたれるように落ちる。どうにか倒れるのだけは回避して、座席の中で小さく頭を押さえる。下車してベンチに腰掛ければよかったかもしれないが、この足でまともに動けなさそうだったから、やむを得ずその場で安定するまで時が進むのを待つ。本当は蹲りたいが、人の目を気にしいな私にはそんなことはできない。
どこで降りるかも、どこが目的地なのかも、互いに知らない有象無象に干渉してしまったら、もうここには戻ってこれなくなる気がして、ただならぬ殺気を感じた。
鈍痛は思考を蝕み、苦難を与えた。
乗り越えるも何も、耐久を強いられる他なく、ギュッと絞られるかのように頭を押さえつけられている。
第一関門を越えたあたりで、全身の痺れが治まり、緊張感がグッと解れる。時間にして15分は経っただろうか。降りたかった駅から四駅離れたところを電車は無人格に走行している。
第二関門があるのがわかるのは、二年前にも同じ経験をしたから、その時の記憶があまりにも鮮明だから。
「もう、諦めよう。」
音には出さない程度で口を動かした。
行ったこともない、あてがあるわけでもない、知らない土地のど真ん中で途中下車。
これが「パニック障害」なのかもしれない。
社会と社会を結ぶ電車は、私を放り捨てながら、苦い思い出だけを乗せて、線路の上を真っ直ぐに走り去っていった。
自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。