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阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らしと「お言葉」

ここ最近テレビを見ていると感じること。
強い当たりで一発に力を込める笑いよりも、空気を自分のものにして気づかぬうちにその世界に引き込まれるタイプの笑いが好きだということ。

その中でも特に、阿佐ヶ谷姉妹のおっとりとした雰囲気と、否定しないツッコミ、むしろ優しさでカバーして相手の行動も引き立てながら場を明るくさせる存在感、好きだなぁと感じる事が多くなった。

阿佐ヶ谷姉妹(あさがやしまい)は、渡辺江里子(姉)と木村美穂(妹)の2人から成る日本のお笑いコンビ。「阿佐ヶ谷姉妹」というコンビ名だが渡辺と木村に血縁関係はない。(Wikipediaより引用)

(左が美穂さん、右が江里子さん)

強い言葉に頼ることなく、穏やかな気持ちで見ていられるコンビのことが次第に気になるようになっていた。

もっとそのリアルな部分が知りたくなったので、二人のエッセイ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」を買った。

のほほんふたり暮らし

二人は、阿佐ヶ谷の6畳1間のアパートに同居している。本人たちは自覚がないらしいが、その生活の模様が傍目から見るとどうも不思議で、謎っぽい。
その実生活の一部を、リレー形式で交互にエッセイとして目の当たりにすることができる。

時系列順で進みながら、同じようなスピードで、違った視線から見るとこれだけ違ったものになるのか、と思いながらも、ふたり暮らしってお互いのことをそれだけ知っていて認め合えるところが素敵だと読んでいて思った。

ふたり暮らしに起こるちっぽけな事件、年齢による悩み、ご近所の温かい人たちとのほっこりするエピソードなどが、ふたりの面白さと楽しさが文面から溢れている。楽しみながら、微笑みながらページをめくってしまう。

途中に挟まれているふたりが初挑戦した書き下ろし小説は、溢れてくる語彙と情景描写に引き寄せられて、向こう側の世界に自分も参加しているような気分になった。舞台を座席で見ていると参加しているような感覚になるのと似たようなものがあった。

お言葉

エッセイということで、文章は基本的に日常の些細なことを本人らしい書き方で読者をぽかぽかさせてくれる。

その中でちょっと色が違っていて、わたしが特に好きだった部分を。

姉の江里子さんが番組の企画で、一年の運勢を占ってもらったところ、最下位になってしまった。普段は信心深くないのに、わかりやすく凹んでしまったことがあるという。
翌日には近所の神社に厄除けにいったら、八方塞がりの年回りだったと聞く。
それからしばらくの間、何事にも力が入らず、ずっともやもやが消えなかった時期があった。

そんな時期にふと思い出したのは、数年前に日光に初詣に行って、家族でおみくじを引いたときのこと。

みんなでおみくじを引いて、今年の運勢を見せ合いながら、各々が財布に入れたり、木にくくりつけたりして帰ろうとしていたら、母の姿が見えない。

キョロキョロと母を探すと、小走りで母がこちらに戻ってくる。「は〜今年も大吉出ました、よかった、いい一年になる!」とおみくじを嬉しそうに見せてくれた。

一連の流れから、大吉が出るまで新しいおみくじを引いてきたのではないか?
そんな気がした。でも、真実を追及してその場の雰囲気を壊す必要もなかったので、本人に聞くようなことはしなかった。

あの時の母の笑顔を思い出すに、自分で占い結果を引き寄せる位の前向きさやたくましさがあった方が、楽しく人生過ごしていけるのかもしれない、と気持ちが切り替えられるようになりました。(文庫本p110)

その後にこう続いている。

辛辣な占いやアドバイスに凹んで下や後ろしか向けなくなってしまうよりは、前向きに晴れやかな気持ちになれる「お言葉」を自分なりに取捨選択して励みにする事が、楽しく生きる術の一つなのかもしれない。(文庫版p111)

この一節を読んで、阿佐ヶ谷姉妹が持つ、独特な雰囲気の中心に在るものを垣間見たような気がしつつ、わたしが引き込まれた理由を見つけた瞬間だった。

お言葉で凹んでしまっても、それはお言葉の一面にすぎず、全面ではない。
だから、自分なりにお言葉を取捨選択して励ましてあげる。

人からの言葉を自分のものに変えていける人たちだからこそ、発せられる言葉はこれだけの温もりに包まれているんだ。抱えていたものが腑に落ちていった。

積む

その後の文章では、歳を重ねることでの悩みが書かれているのだが、歳を重ねるって素敵だと感じた。度重なる困難や体の悲鳴もどうにか回避しながら、その経験で誰かを包みこむ。
寂しさと残酷さをもろとも感じさせない強さで、現在の自分を肯定し続けている。

確かに優しさではあるけれど、それ以上に勇気づけてくれるというか、素で生きていてもいいんだと思わせてくれる。

悩みごとは絶えないしその度に落ち込むことはあっても、ふたり暮らしだから支え合って調和していける。ひとりじゃないからこそ、そしてこのふたりだからこそ。

違うからいい

読んでいくと徐々にわかってくるのだが、阿佐ヶ谷姉妹は性格が結構違う。

よく結婚の秘訣は価値観が一致しているかどうかが大事だ、と聞いたりするが、ふたりは似ているようで違う部分もたくさんあるんだと知った。

それでもふたりは一緒に過ごしている。

読んでみて感じたのは、性格が似ているかはそこまで重要じゃなくて、相手の性格を理解してみようとしっかりと見てあげられるかどうか、仮に同じだったとしたら楽に越したことはないが、違ったとしてもそれを認めてあげられるかどうか。
それがふたり暮らしが続いている理由なのではないか。

違う”存在といつも一緒にいるから、価値観が違う人に対しても優しい返しができるのだろう。

この本を読んで、どんな人か、どんなふたりなのかを知って、心を洗われたような気がしたし、より一層阿佐ヶ谷姉妹が好きになった。

あったかい気持ちになった!(GOODキター!のサビ)

これだけ蓄えた温かい気持ちは、誰かに伝えていって、またその人が誰かに伝えていって、、、

そんな連鎖が起きるようなことがあれば、こんな素敵なことはない。

この本に限らず、何かのきっかけで温かみを感じたら誰かに伝えてみてください。温かみはなんぼあってもいいですからね。(ミルクボーイ)

きっとその誰かとも何か良いことが生まれるきっかけにもなるのでは。
余程のことがない限り、幸せなことは幸せなまま、相手に伝わってくれるはず。
あなたの喜びを一緒に喜んでくれる人は必ずいる。

今日あった嬉しかったこと、わたしにも教えてください。いつでも聞きます、聞きたいです。

さて、わたしはこのまま、ずん飯尾さんのエッセイに進みます。こちらもやさしさの人。
楽しみ。

かけているメガネだけを空中に残して、わたしはこの辺で。

ここまでお読みいただき有り難うございました。

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