オンナ友だち①
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古い引き戸は大した力もいらず、優しい音を奏でて開いた。見上げると黒く大きな梁が奥の天井高く凛と張っていて、訪れる者の眼を見張らせた。土間の脇にはいつの時代のモノなのか、振り子が大きく揺れる年代物の縦長の巻時計が陣取っていた。歯車が規則正しく時を刻む音は、辺りにそっと響いて静寂を強めるようだった。外見は古びた平屋の日本家屋だが、内部には最近の様式美も取り入れられている。それは古い古民家を改造してできた大家族の家だった。
居間の中央には囲炉裏が残されていて、炭火さえ入れれば今でも使えるようだ。その回りはフローリングに張り変えられ、和洋のコントラストが見事だった。障子の引き戸はそのままで、縁側の外には大きな窓のガラス戸が並んでいて、今の生活にあった様式となっていた。陽の当たる南側の窓際にはお婆さんが二人、静かに座っていた。その後ろで彼女の息子、寛太がひとり遊びをしている。
「ごめんなさい。大したモノは何もないの。」
そう言いながら彼女はティーパックの入ったカップをそっと置いた。どのスーパーにもある、リプトンの安物だ。彼女らしい、ワタシの正直な感想だ。
「気にしないで。いいの、私の方が急に押し掛けたんだから。」
ワタシはそう言って彼女の顔を見つめた。化粧っ気のない、でもきれいな素肌だ。肌のきれいさは学生の頃から変わらないものだ。
「で、どうしたの、急に?何かあったの?」
彼女が話しのきっかけに聞いてきた。
「ううん、別に。久々に会ったから、何してんのかなって。気になっただけ。こんな近くにいたのに、お互い全然気が付かないものね。」
ワタシは何となく話を逸らすように返事をした。別に彼女に何かを聞いてもらいたい訳でもないのだ。
彼女とは中学、高校と一緒だった。物静かで控えめな性格だから、クラス内でも友人は数名といったところで目立つ存在ではなかった。バレー部のエースとして無双をキメていたワタシとは真逆のタイプなせいか、何故か彼女とは気が合って何度となく長く話をしたのを思い出した。ワタシが彼氏との仲が数か月程度しか続かないのに、彼女は地味ながら年上の彼氏と数年間付き合っていた。高校卒業後は会う機会もなかったが、彼女が地方の国立大学を出て何年か働いた後に寿退職に至ったような話を、随分と前に他の女友達から聞かされたのを思い出した。
「立派な家。古びた日本家屋もこんな風にリノベできちゃうんだ。梁なんて田舎の古民家並みね。」
ワタシは天井を見渡して、自分があの梁の真下にいることに気づいた。
「そうかしら。父が建築関係のヒトだから、こういうのスキみたいで。」
彼女は屈託のない笑顔でワタシにそう返事をした。そう、このヒトは裏表のない、笑顔が可愛らしいヒトだった。ワタシは記憶の中の彼女と見比べながら、目の前の彼女を懐かしく眺めていた。
「あのお婆さんたちは?ご親戚の方かしら。お邪魔じゃなかった?」
ワタシが聞くと彼女は少し話しにくそうにしたのだが、ワタシの目を見て何かの覚悟をしたのだろうか、彼女が訥々と話し出した。
(イラスト ふうちゃんさん)
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