キツネなシッポと遊びましょ、の話②
ボクは本当に反省が苦手らしい。
↓新シリーズ、キツネなシッポ編です。哀れな妄想癖のオトコが繰り広げるアホらしさ満載の空想活劇をお楽しみください。よければアルマジロ編もどうぞ。
嵐のような一幕だった。愛しい?黒マスクのオトコは別れの言葉もなく走り去った。余韻にひたる暇もなく、駆け付けた警察官が事情聴取をしたいと言い出した。ボクには大切な用事があるからと一度は断ったが、一人の婦人警官の鋭い視線がボクをそうさせてはくれなかった。う、キレイな女子じゃないか。飲み会でのふんふん作戦第二弾が…とも思ったが、制服プレイも悪くない。後ろ髪をひかれつつも、ボクの妄想は既にどこかへ走り出していた。
警察の方は2名だった。一人はさっきのキレイな女子警官で、もう一人はボクと同世代のイケメン風警官だった。もう一人の客にイケメン君が、ボクにはキレイな女子が話しかけた。ボクは運命の神様に感謝した。
「この店には何をしにいらしたんですか?」
「お金をおろそうと、こちらに伺いました。」
「これからどちらに行く予定だったんですか?」
「はい、会社の友人たちと会食の席を予定していました。」
数年の社会人生活のおかげで、ボクは口先だけは達者になったようだ。
婦警さんの目が時々ボクの背中の方を見ている。何だ?いつしかシッポ様は結構な速度でパタパタし始めていた。ボクは婦警さんが気に入ってしまった。ボクの恋ゴコロは次から次へと待つ間もなく燃え出すようだ。アホな妄想癖ヤロー、そんな声が聞こえてきそうだ。良いんだ、黙れ。黙ってくれ。どうせボクは訳のわからない人生に翻弄される哀れなオトコなのだ。妄想でもいいから、恋の花を咲かせたいんだ。
↓婦警さんのイメージです。日本テレビ、ドラマ「ハコヅメ」より
↓で、中身がこんなオトコが脳内に妄想を満載させて突進してます。
婦警さんは極力シッポ様を無視しようとした。でも彼女の意思に反して、シッポ様のパタパタは容赦なく彼女の意識を奪おうとする。それはまるで彼女の恋ゴコロを射止めんとする恋のキューピッドのようだった。咳ばらいをして、彼女は聴取を続けた。その目元、口元を見つめるうちにボクの妄想恋ゴコロは一層燃え上がろうとした。そしてシッポ様はさらにその激しさを増した。静かな店内の片隅で、パタパタの音が辺りに響いた。イケメン警官は少し離れたところで不思議そうな顔でこっちをチラチラ見ている。
「それ、何ですか?」
ボクの求愛行動に耐えかねたのか、彼女はようやくシッポ様の存在を受け入れたようだ。
「シッポです。」
「それ、動くんですか?」
「ハイ。動きます。」
隣でイスに座って休んでいた店員が、ボク達のやり取りを見てニヤニヤしだした。と、彼女の表情が硬くなった。どうやら元気いっぱいなシッポ様が気に入らないようだ。出会いのアプローチにしては、いきなり激しすぎたのかもしれない。もっと優しくしないと。女子なら気に入るかと思いきや、仕事にホコリがあるのだろう。彼女は目をキッとさせてこちらを見据えた。
「それ、やめて頂けます?気が散ります。」
少し強い口調で彼女が言った。シッポの自由を唱えてもいいが、ボクらの出会いの場にはふさわしくない。ボクはシッポ様のカラダを捕まえた。
「はうっっ!」
やってしまった。敏感なのを忘れてた。ボクの口からイケない声が漏れてしまった…
彼女の目がさらにキツくなった。シッポ様は先っぽだけ激しくパタパタしている。ボクの目はうっとりとコンビニの天井を見つけていた…
監視カメラがまた一部始終を見ている。ああ、寸劇の第二幕だ。ヒトが見たら、きっとボクはイカれた変態野郎なのだろう。彼女の刺すような視線が痛かった。いけない、何かしないと。このままではこの恋は成就しないだろう。ボクは焦った。
「あの…シッポ抑えるの、手伝って頂けます?」
ボクの目を見ると、彼女は表情も変えずに振り向くとイケメン警官を呼んだ。
3人がかりでシッポ様を抑えつけた。怪しげな声を漏らし激しくのけぞるボクの姿を見て、二人は黙ってボクを署へと連行した。
夕方、ようやくボクは解放された。奥さんが迎えに来てくれた。その目は冷たく、怖かった。そう言えば今夜は会議で遅くなるって、ウソついてたんだ…ボクの寿命はそう長くはないように思えた。
良ければBGMとともにどうぞ。吉田美和さん、ゴメンなさい。
(イラスト ふうちゃんさん)
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