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アルマジロなボクの末路

シリーズ化第6弾。アルマジロなオトコが繰り広げる、くだらなくも不思議で不条理な世界。最終回です。

ココロの底から思った。ボクは反省が苦手だ。何度となく失敗と反省を繰り返した。ボクはりないのだろうか。得られるよろこびの大きさが増すほど、ボクはより大胆になった。そして失敗のレベルもよりヤバくなっていた。

【深夜渋谷の脱出劇】
恍惚こうこつと絶頂の中、ボクはヒトのカタチに戻っていた。しまった、マズい。これは未だかつてマズい。大歓声が悲鳴に変わる中、ボクは慌てて神輿みこしとなった若者達の手から逃れると、通りの端から建物の隙間へ、小路こうじへと駆け込んだ。

ボクは今、リアルに変態全裸オトコだ。変態仮面なんて言ってる場合じゃない。どうする。どうすれば良い?逃げ場のない渋谷の街中で、ボクは意識を冷静に保つように大きく息を吐いた。一つ向こうの大通りでは、相変わらずの大騒ぎが続いている。きっとアホなオトコがストリーキング*でもキメたんだろう。そんな風にでも思ってるんだろうか。都会の夜の喧噪けんそうは静まる様子もなく続いていた。

作者注:ストリーキング英語 streaking、ストリートキングは誤り)とは注目を集めるため、あるいは強い非難の意思を表現するために公共の場を全裸で走り抜ける行為である[1]パフォーマンスの一環として行われるもので的な意図はなく、露出狂とは区別される。1973年から1974年にかけて流行した。

wikipediaから。楽しそうなヒトが
映ってました。捕まるぞ。

裸足はだしの皮膚にアスファルトの小石がささった。でも痛みよりも焦りの方が強いようだ。ボクは辺りを見回しながら、狭い小路を彷徨さまようように歩いた。

ふと道の先に古びたロッカーを見つけた。脇に隠すようにカバンが置いてあって、上にはスカートとTシャツを見つけた。コスプレした後にしまい忘れたのだろうか。ゴメンね、借りるよ。ボクはサイズも構わずに手当たり次第に服をまとうと、そばにあったサンダルも頂いた。サイズの合わない女装コスプレだが背に腹は代えられない。そしてボクは変態全裸オトコから、身なりの怪しい変態コスプレ野郎となった。

ハロウィンの喧噪を背に、薄暗い住宅街を突き抜けて進んでいく。街灯の明かりを避けるようにボクは住宅街を抜けて家を目指してひたすらに歩いた。


【逃走劇の果てに】
夜もすっかりと更けた頃、ボクはようやく家に着いた。階段を上がって部屋のドアを開けると、ようやく生きた心地がした。帰ってきた。色々あったが、ギリセーフ。ボクはアルマジロとして崇められ、ナウシカのように群衆に囲まれ陶酔の時を迎えた。そしてボクは変態全裸オトコとなり、今ではただの変態コスプレ野郎だ。興奮の後に訪れた恍惚と陶酔。その後に味わった絶望、そして必死の逃走劇。激しい感情の起伏を思い返して、ボクは脳が空へと突き抜けていくような感覚を味わっていた。

朝になった。無事に朝を迎えることができた。背中を丸め、伸びたツメを眺めながら、ボクは思った。相変わらず背骨が痛い。でも良いんだ。これで良い。ふと視線を感じた。部屋の入口で奥さんが鬼の形相で震えていた。

【哀れアルマジロの最後】
手にはスマホが握られていた。見せられたのは投稿動画のサイトだった。
「コレ、アンタでしょ?何してんの?」
そこには昨夜渋谷で撮影された、全裸変態オトコのあられもない姿が映っていた。アップになった画像では左のお尻に大きなヤケドの跡が映っていた。ボクが幼稚園の頃に負ったキズだ。
「いや、だから、これはね…」
ボクは必死に言い訳しようとした。ボクはアルマジロで、途中からヒトになって、気付いたらああなってたんだ…

奥さんの視線は冷たかった。また煉獄れんごくの炎に焼かれるのだろうか。それとも正座して土下座の姿勢で叱られるのだろうか。そもそも今ボクはどっちなんだ?アルマジロの仕出しでかした責任をボクが負わされるのか?不条理だ。そんなのは不条理だ。でも中身は同じだし、ボクはボクのまま楽しんでいた。

いや、いっその事、もうどうでも良いのかもしれない。多少背骨が痛む程度だ。この甲羅もこの状況では何かの役に立ちそうだ。まさか奥さんも甲羅を叩き割ったりはしないだろう。

ボクは背中を丸めると防御の姿勢をとった。不条理と恍惚の間で脳が揺れていた。そしてボクは静かに昨日のことを思い返して悦に入った。



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