アルマジロな大作戦
シリーズ化第5弾。アルマジロなオトコが繰り広げる、くだらなくも不思議で不条理な世界。そろそろ最終回です。
本当にボクは反省が苦手だ。
【はじめに】
みんなボクに呆れていることだろう。構わない。それでもボクは一向に構わない。ボクは若い女子にチヤホヤされたいんだ。男子の皆さん、ボクの言うことを否定するのか?キミがボクの立場なら、きっと同じようにカワイイ女子の胸でふんふんしたいはずだ。違うかい?
蓮池から蜘蛛の糸を垂らしたお釈迦様がボクを見ていたら、きっとため息をついたことだろう*。でも構わない。ボクは日本中の男子の願望を体現する情熱に溢れた愛玩動物なのだ。
【そしてボクは考えた】
なんでボクはあの時ヒトに戻ったんだろう。共通するのは…興奮し過ぎて「死んでもいい」って、そう思った。これだ。ボクははっとした。変身の発動条件、失効条件が分かったんだ。これでタイミングは自由自在だ。そしてボクは一世一代の計画を考えた。
舞台はハロウィンの渋谷だ。コスプレの集団に混じればボクの被り物?も目立たない。それでいてカワイらしさでは誰にも負けない。ホンモノ感はきっとハンパない。ボクだって見た目は一応ホンモノだ。この時期ならきっと電車に乗っても大丈夫だろう。
ボクはきっとふんふんしたさに自分を見失ったバカなオトコだ。でも良い、それで良い。変態全裸オトコとして世間に糾弾される前に、ボクは甘美な世界を堪能したかった。
【渋谷にて】
思ったよりもヒトでいっぱいだ。見た目も鮮やかなコスプレのヒトたちで街はごった返していた。中にはボクより奇妙な出で立ちのコスプレ強者もいた。ボクはワクワクが抑えられずに興奮していた。
「コレだ、コレなんだ。ボクが求めていたのはコレだ…」
マズイ、気分が高揚しすぎた。あぶないトコだった。気をつけないと。ボクはウハウハな心を鎮めようと、盛り上がるヒトの群れを離れノソノソと歩き回ってみた。
通り過ぎる人たちはボクに気付くと何度も振り返った。何度も歓声があがった。浮かれた女子はボクの姿を見て嬉しそうに叫んでいた。ああ、ふんふんし放題じゃないか。ボクの心はいつしか不純な動機で満たされていた。
【陶酔と恍惚のなか、そしてボクは途方にくれた】
ふと太い腕に脇を抱えられる感触がした。気づくとボクは若い男子数名に担ぎあげられていた。みな酔って目がいってしまっている。
「マジ、スゲエ。アルマジロ。マジ、ヤベエ」
コレは日本語なのだろうか。カタコト英語なのだろうか。不思議なリズムで連呼され、ボクは通りの中心で一番目立つ存在となった。
「アルマジロ!、アルマジロ!」
いつの間にか手拍子と大合唱が起こっていた。6本の手で高々と持ち上げられたボクは熱狂する群衆の中、彼らが掲げる掌や拳の野原を悠然と進んでいた。それはまるでナウシカのクライマックスシーンのようだった。
ボクのヨロイは街のネオンに照らされて青く輝いた。声援は止むことはなかった。それはまるでボクの被り物?を崇めたてまつる祭りのような大合唱だった。コレはさすがに応えた。ボクには初めての経験だった。「最高だ。ふんふんよりも気持ちがいい。最高に心地よい。生きてて良かった…」
多くは聞かないで欲しい。できれば、聞かないで欲しい。
やがて訪れる阿鼻叫喚の大合唱の前、ボクは刹那の快楽に酔いしれていた。
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