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【第38回】企業とコミュニティが連携した地区防災計画づくり【大塚製薬工場】

質問 企業が中心になって地区防災計画づくりを進めている例があるんですか。


概要

 ①地区防災計画の作成主体である地元企業
 ②大塚製薬工場の地元コミュニティと連携した防災活動
 ③地域ぐるみで防災対策を行う事例として注目

解説

①地区防災計画の作成主体である地元企業

 災害対策基本法に規定されているように、地区防災計画づくりの主体は、コミュニティの住民と企業です。そして、地区防災計画づくりの作成主体は、コミュニティであることが多いのですが、ここでは、企業が中心になって、事業継続活動やCSRの一環として、コミュニティと連携して地区防災計画づくりを行い、地域防災力を向上させている事例を紹介したいと思います。
 企業は、防災に関するノウハウ、人材、資金等を有している場合も多く、それらを利用して、日頃から地元コミュニティと連携して防災活動を実施することは、大きな地域貢献になり、当該企業の社会的な評価を高めることにもなります。

②大塚製薬工場の地元コミュニティと連携した防災活動

 徳島県鳴門市にある(株)大塚製薬工場は、輸液事業を中心とする企業です。
 同社の工場は、海岸に近くの地区にありますが、当該地区は、1946年の昭和南海地震で死者を出したほか、家屋倒壊や地盤沈下等の被害を受けました。そのため、南海トラフ地震発生時の津波で被害を受けることも想定されています。そこで、災害をはじめとする緊急時でも優先して継続すべき事業やそのための手段について検討を行い、事業継続計画(BCP)を作成しました。
 また、同社は、BCPについて、同社の地区内にあるコミュニティ(川東地区自主防災会、里浦町自主防災会連合会等)の住民に説明するとともに、当該コミュニティの住民と連携して、コミュニティの防災活動を実施しています。
 例えば、同社では、南海トラフ地震の際の津波に備えて、コミュニティの住民の避難場所(津波避難ビル)として同社の工場の屋上を解放し、同社とコミュニティが協力して、津波避難訓練等を実施しています。なお、同社の屋上では避難者600人を受け入れることができます。
 訓練の中では、緊急時の工場の門扉の解錠方法、救急セットや簡易トイレをはじめとする同社の倉庫に準備された資機材の取扱い等について、同社の社員から住民に対する説明が行われたりもします。
 また、この訓練の結果等も踏まえて、地元コミュニティでは、徳島大学の支援を得て、ワークショップを開催して、津波発生時の個々の住民の役割や行動等を記した「災害時アクションカード」を作成しました。

③地域ぐるみで防災対策を行う事例として注目

 このように企業とコミュニティが密に連携できた背景としては、同社の地区内にあるコミュニティには、同社の社員・OBとその家族が多数居住しており、人間関係が形成しやすいほか、地元行政とも災害時の協力協定を締結する等緻密に連携している点があげられます。
 同社は、地元のコミュニティと日頃から良い関係を築き、いざというときにコミュニティや住民を守ることが、同社の事業継続にとっても重要であり、将来の復興の際にも重要になると考えて取組を行ってきました。
 同社の取組は、企業、コミュニティ及び行政が連携して、地域ぐるみで防災対策を行う事例として注目されており、内閣府の2015年度地区防災計画モデル事業の対象地区になり、2017年3月には地区防災計画を策定しました。なお、2020年以降のコロナ禍の中でも、住民が自宅で津波避難ビルへの避難をイメージできるように、避難方法を説明した映像を作成したりもしています。

文献
内閣府,2016,「平成28年版防災白書」
内閣府,2017,「地区防災計画モデル事業報告―平成26~28年度の成果と課題―」
・室﨑益輝・矢守克也・西澤雅道・金思穎,2022,「地区防災計画学の基礎と実践」弘文堂.




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