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言葉には生死を分ける力がある


2015年アメリカ、
サウスカロライナ州チャールストンの
伝統ある黒人教会で起こった銃乱射事件。
差別主義者による犯行で
その日聖書勉強会に参加していた
何の罪もない9人の人々が犠牲になった。

その犯人の保釈審問で遺族たちは
次々に犯人を「赦す」と宣言する。


どのようにこの残酷な事件は起こったのか
その時、彼らにどのようなことが起こり
その後、本人や遺族、周囲、世の中に
何が起こりどんな影響があったのかを書き出す
地元紙記者によるノンフィクション。


タイトル:それでもあなたを「赦す」と言う
    著者    :ジェニファー・ベリー・ホーズ
    訳者    :仁木めぐみ
  出版社  :亜紀書房
    価格    :2500円+税



ほとんど発売のタイミングで手にして
読まなくちゃ、読みたいと思ってたのだけど
中断せず一度に読みたかったのでまとまった時間と
疲れてないときにと思っていたらこんな時期に。


読んでて何度もしんどくなって
ところどころ泣きながら読んだ。


銃乱射や人種差別の問題はずっとあって
自分も全く関心がないわけではなかったけれど
以前から強い関心を持っていたわけではなかった。


なのでそういう情報に
そんなに積極的に触れにいくわけでもなく
いくつかの事件の情報には触れていても
そのひとつひとつを深く知ることもないし
忘れてしまうものも多かった。


なんとなく過ごすことが辛くなった頃から
興味や関心はあるけどそのままになっていた
いくつかのことに触れたいと思うようになり
その中のこういう問題についてがあった。


小説だけれどジョディ・ピコーの作品を
読んだことも関心を増させた。


アメリカの人種差別は日本でもこのところ
以前よりニュースなどで取りあげられるようになり
SNSでも話題にするひとが増えたと感じる。
スポーツ選手の示した姿勢も大きかった気がする。


大統領の発言とか前からずっとひどいし
もっと前から話題になっても良かったのに。


そして、もう忘れてしまいはじめている気がする。


ニュースやSNSや有名人の発言からでも
関心を持った人々がこういう本を手にとって
またそのことについて考えてみるような
そんな機会が増えていったらいいのにと思う。



この一冊には事件前、犯人を含めた
その日集まることになった当事者たちが
教会に集い事件が起こるまでから始まり
犯人の判決が出るまでのことがかかれている。


繰り返す日常として集まり
その日の予定として参加したり
たまたま残って参加したり用事があって帰ったり
そうして参加した12人の信心深い人々が
飛び込みの来訪者をあたたかく迎え入れた。


まさかその数時間後にそのうちの9人もの命が
失われてしまうことになるなどとは思わずに。



事件は白人至上主義に影響を受けた青年が
あえて罪のない善良な黒人をターゲットに選び
それを自分の使命だと信じて起こした。


身勝手で歪んだ思想による犯行なのだけど
彼をその凶行におよばせた思想のはじまりが
あまりにも些細なきっかけで驚く。


それがとても恐ろしい。


それまで本人や周囲にそんな兆候や環境がなくとも
私たちの身近でも起こってしまう可能性があり
きっかけの瞬間を目撃することはなくとも
おそらくそうした状況で歪んだ思想に
のめり込んだのであろう人々の言動は
日々目にすることが現実にあるからだ。

凶行におよばないにしても
そうやって歪んだ借り物の思想に染まって
自分の思想としてしまうひとが次々と生まれる。



そんな 理不尽で残酷な事件で生き残ったものや
大切なひとを失った遺族たちが犯人に
「あなたを赦す」と言ったことにまた驚かされる。
事件から時を経た裁判後中や裁判後のことではなく
逮捕後間もない保釈審問での出来事だからなお。


なぜ?恨んで、憎んで当然の相手に。


普通ならそう思ってしまうし
遺族の中でもこの発言に反発するものもいるなか
その当事者であったりいちばん身近な遺族である
人々がこの場で「赦す」と言ったのか。



傷つきながらもその心を憎しみに呑み込ませない
それほどまでに強い信仰心を持っている彼らに
教会や教会の人々が事件後何をしたのか。




歴史、信仰、人のあり方などいろいろなことについて
考えさせられ、知りたいと思い、心を動かされる。



心に留めておきたい言葉。




アンソニーは人々に、種の寓話では肥沃な地面に落ちた種がたくさんの果実を実らせたことを思い出させた。今日ここに集まっている人たちの誰か、あるいはみながその種になることができる。
(p.296)


自分の発言になど誰も注意を払っていないだろうと思ってしまうことがある。しかし、じっさいにはその言葉に影響される者がいるのだ
(p.429)エピローグ



歴史は不公正を正当化するための刃ではなく、過去の過ちを繰り返さないため、悪循環から抜け出る方法を知るためのマニュアルにしなければなりません。よりよい世界への道筋を知るためのものとして。
(p.441)大統領の弔辞より

















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