バイタリティ最強マダム【ヤマシタのおたより#20】
私には、心の中で「バイタリティ最強マダム」と呼んでいる女性がいる。
キョウコさん(もちろん仮名)、年齢は不詳、でも話を聞く限り、母親世代。
彼女とは、出会ってまだ1年弱というところ。
家の近くにあるバーに通うようになり、そこで出会い、お世話になっている。
といっても、会うのはそのバーだけ。
一応LINEも知っているけど、連絡をしたことはないし、来たこともない。
このあいだなんて、「千優ちゃんの連絡先知らないもん」と言っていた。
知ってるっちゅーねん!と心の中で叫びながら、「たぶん御存知だと思います」と返した。
キョウコさんは、何ともパワフルな女性。
まさに、バイタリティ最強マダムである。
見た目は…
何と言ったらいいのか分からない。
ガリガリではない。
かといって、決してダボっとしているわけでもない。
でも、ものすごく存在感はある。
(お店で、入り口を見ていなくても、キョウコさんが来たら分かる)
私のイメージでは、
泉ピン子さん×黒柳徹子さん×(上沼恵美子さんー関西弁)×中尾ミエさん
という感じ。
東西の大物女性芸能人を大集合させて、バランス整えました、みたいな。
キョウコさんは、とにかく元気。
こないだなんて、23時過ぎにバーへやってきた。
これまで何をしていたのかを尋ねると
「○○(飲み屋)でご飯をたべて、買い物して帰って、○○(別の飲み屋)で飲んで、いったん帰って、いまここ」
とのことだった。
皆さんもそうだと思うが、てっきり私は、お昼からの行動遍歴だと思っていた。
するとキョウコさんはこう言った。
「いやいやいや!仕事してたからね、これは18時からの話よ。アハハハハハ!アッハハハハハハ!」
豪快だったし、仕事終わりの18時から、何ちゅうスケジュールこなしてんねん、と思った。
大学生でもこんなスケジュール立てへんと思う。
だいたい飲み屋すでに2軒回ってるし、その間に買い物して帰宅(家事をしてきたらしい)まで挟まってるやん。
どない!?!?!?!?!?!?!?!?!?
固まる私をよそに、キョウコさんは早くも3杯目のジンリッキーを頼んでいた。
…2杯目、いつのまに飲んでてん。
その日、私は、早く帰るつもりだった。
でもキョウコさんの話は面白いし、知っている顔もちらほらやってきて、翌日の仕事がお昼からだったこともあり、もう少し居ることにした。
…気づいたら4時だった。
とっても元気だったけれど、自分でもびっくりした。
お酒の質がいいのか、まったくしんどくはないけれど、私もキョウコさんのことを言える立場ではなく、バーに行くまえの先輩との食事を入れると、通算10杯は飲んでいた。
ちなみに、バーのマスターは「10杯も飲んじゃった…」と言う私に向かって、
「何言ってんの、誕生日なんて16杯飲んでたじゃん」
と冷静なツッコミを入れていた。(ちなみにこれは事実)
そろそろ帰ろうかと支度をする私。
そのとき、キョウコさんが口を開いた。
「あした、例のカレー食べに行くんだけどどう?12 時くらい。」
思いがけないお誘い。
私はすぐに乗った。
なぜなら、「例のカレー」は以前から興味があって、いつか行ってみたいと思っていたお店だったからだ。
内心、
「起きれるかな…カレーのあとに仕事、大丈夫かな…」
と不安になりながらも、その日は解散。
私は徒歩5分の家に帰り、きちんとお風呂に入り、髪を洗い、スキンケアもヘアケアもいつも通り済ませ、5時ごろ眠りについた。(我ながら偉い)
ちなみにキョウコさんは、私の家より、ずっと遠い。
さて翌日。
爽やかな目覚めだった。
ただ、やっぱりちょっと眠たかったし、朝ごはんは要らないかなと思った。
※二日酔いではなかった。
ただ私は、ちゃんと二日酔いになったことがない。のでよくわからない。
その日の仕事は撮影ではなく、在宅だったのでカレーに向けて準備を進める。うーん、やっぱりちょっと、眠たい…
メイクは最小限でいいや、服もこれでいいや、家から徒歩5分だし。
そんなことを思いながら、出発。
一番乗りでお店についた。
すぐにやってきたキョウコさんを見て、私はおどろいた。
めちゃくちゃ、元気。
メイクもヘアセットも、完璧。
お洋服も、キラキラしていてファッショナブル。
…え、昨日、朝まで飲んだやんな…?
するとその五分後、根岸さん(仮名、バー仲間、男性、年齢はたぶん父と同じくらい)もやってきた。
根岸さんもバーにいて、約束していたのだ。
めっちゃしんどそうだった。
彼も、3時半くらいまで飲んでいた。
まあ、なにはともあれ、メンバーは揃った。
張り切って、店員さんを呼ぶ。
私の声はよく通る。
どんな賑やかな居酒屋でも、私が呼べば1回で店員さんが来る。
ささやかな自慢だし、特技だと思っている。
たまに3人くらい一気に来てびっくりするけど。
到着する、店員さん。
私「カレープレートを3つください」
キョウコさん「あとハイボール」
根岸さん「俺はビール」
固まる私。
え、朝まで、飲んでたやんな…?
「千優ちゃんは?」と私を見つめる、キョウコさんと根岸さん。
私「あ、えっと、アイスチャイで…」
キョウコさん「飲まないの?」
私「このあと仕事で…」
根岸さん「なんだあ、残念」
いやいやいや!
仕事じゃなくても!飲まない!
昨日朝まで飲んだやんな!?!?!?!?
あれは幻やったんか!?!?!?!?!?!??!?
私は思わず言ってしまった。
「お二人ともすごい…朝まで飲んでいたのに…」
へへへっと笑うに留めた根岸さんをよそに、キョウコさんはこう言った。
「朝?朝じゃないわよ~
朝は7 時を過ぎてからよ。飲んでたのは、夜よ、夜♡」
全国の朝の情報番組制作陣に聞かせてみたい、と思いながら、やっぱりキョウコさんはすごいと思った。謎理論だけど。
そのあとで彼女は、
「あ、でも朝ごはんは控えめにしてきたわ」
とそっと一言をこぼした。
「朝ごはん…何食べたんですか?」と尋ねると、
「焼肉丼!娘が今日仕事忙しいっていうから、ランチ食べ損ねてもいいように、焼肉丼にしたのよ。で、私は、カレーがあるから控えめにしたの。アハハッハハハ!!!!!!!!!!」
どこから突っ込んだらいいか分からなかったので、私も一緒に笑った。
肝心のカレーは、めちゃくちゃおいしかった。
そしてカレーを食べている間に、キョウコさんと根岸さんは、色んなお客さんに声を掛けられていた。みんな知り合いらしい。
私はもしかしたら、この地のドンにお世話になっているのかもしれない。
あと、まったく何も知らない人から見たら、どう見ても私たち親子。
どんな家族なんだろ…と、恐れられていたかもしれないなと思った。
結局、キョウコさんはハイボールとチューハイを計4杯、根岸さんはビールとハイボールを計3杯飲んでいた。
カレー屋のランチでお会計が3000円になる人を、私は、初めて見た。
彼らを見て、私は二日酔いじゃないと思っていたけど、お酒を欲しない時点で、もしかしたら二日酔いだったのかなとさえ思った。
概念が、総崩れしそうになった。
お会計を済ませ、外に出ると、キョウコさんはこう言った。
「ああ~まだ14時かあ。○○(飲み屋)まだ空いてないじゃん」
耳を疑っていると、根岸さんが
「じゃあさ、それまで□□(飲み屋)で時間潰そうか」とアシスト。
ふたりは、そうねと合意し、また街へ消えていった。
カレー屋に現れたときはしんどそうだった根岸さんも、すっかり元気になっていた。
え、昨日朝まで…もとい、夜遅くまで飲んでて、またお昼からはしごするん…?
心の中で彼らの無事を願い、バイタリティ溢れる強さに感動し、私はさっさと家に帰り、仕事モードへと切り替えた。
バイタリティ最強マダム、キョウコさん。
これからも、お世話になります。
完
あとがき
キョウコさんの何がすごいって、まったく酔わないし、翌日お酒が残ることもないという点。
よく、呑兵衛なんて表現をしますが、似合わない。
めちゃくちゃスマートに、がぶがぶ飲んで、シャキッと帰ります。
おつまみなしで永遠に飲めるらしい。
超人です。バイタリティ最強・超人マダムです。
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