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大学生自転車日本一周旅二十三日目:南宇和郡愛南町から高知駅へ

本編

 すっきりとしない寝起きだった。はぁはぁ、という息遣い、運動靴のソールが潰れる音、上下に揺れる懐中電灯。全ては、このおっさんが生み出している。激しめなウォーキングだ。道の脇で寝ていたから、気付かれているのかは分からない。時刻は5時を回っていなかった気がする。何度か再度寝を試みた。昨日は1時まで話込んでしまったから寝足りない。しかし、そのおっさんが通るたびに目が覚める。朝っぱらからようこんな激しく動けるよな。睡眠はもうあきらめてもう起きることにした。徐々に視界は明るくなり始めていた。

 前日が快晴だったせいだろうか。結露というか霜というか、とにかく激しい。自転車のサドルやグリップ、ライト、枕代わりのバッグ、どれもこれも雨が降ったわけじゃないのに立派に濡れている。極めつけはこの寝袋。とにかく夜が寒くなる。初めて試した寝袋だったけど、中がびちょびちょになって夜中冷えた。簡易的なやつだから仕方ないのかもしれないが、寝袋が無かった頃とは違う原因で寒さを叩き込まれた。自然は本当に厄介。とりあえず、朝飯でも食べるか。

 やはり、野宿した日の朝は早く、この日も6時過ぎには出発した。まだ体は起きていないけど、朝日で強制的に目覚めさせる。寒さも残っているが、それも動いて温める。野宿したし、睡眠時間は減ったし、いつもより疲れがたまっているように感じる。今日も一日ハードだ。

 高知県には早い段階で突入することが出来た。やることもないからせっせと進んでいると、前から笠のような帽子をかぶったひもじい服装の人が歩いてきた。もしかして、あれがお遍路さん?もしそうだったら、初めて見たお遍路さんになる。近づいて会釈だけしておく。だが、なんか引っかかる。あの人スーパーかコンビニの白いビニール袋を持っていたし。お遍路さんだったらつくはずの杖が無かったし。あれ、ただのひもじいじじいか。会釈したの恥ずかし。

 南宿毛駅という駅を通ると、そこには愛称「早稲田・梓駅」の文字が。こんなところで母校・早稲田の文字に出会うなんて。何の下調べもしていなかったからこそ、たまたま出会えたことに驚き。記念に写真も撮っておく。こういう偶然にこそ旅の魅力がある。だから、計画性はなくたっていいのだ。

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 宿毛市を抜けると、次は四万十市へ。宿毛から四万十は山を越えることもなく、あまり苦労もなかった。初めての四万十川を眺め(眺めただけ)、ゆっくりするわけでもなく次へ向かった。川に浮かぶ橋みたいなのがあるみたいだったが、正直場所がよくわからなかったからスルー。四万十川はそれ単体でまた楽しんでみたい。有名な鮎の塩焼きも食べたいし。

 お次は黒潮町へ。この日初めての海側に出る。昨日までは瀬戸内海に沿っていたのに対し、この日からは太平洋に沿って走ることに。海という点では同じなのに、作り出される景色は違う。波によって削られた岩の形や削られ方からもう違う。四国は本当に景色がきれいだ。

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 しかし、喜びも束の間、黒潮町からは一辺倒な道のりが続いた。海沿いに出ては、山というか崖みたいな道を登らされ、また海沿いに下りては登らされる。そんな道の繰り返し。何度も何度も登るから、体力をどんどん消費してしまう。さらに、景色がほとんど変わらない。似たように削られた岩、似たような波や浜、同じ色合い。もちろんきれいではあるのだが、誇張なしに飽きる。昨日を含めると、何時間も、そして無数の海岸を見た。この面白みのない景色のために登っては下っていると、だんだんと無力になってくる。ご褒美であるはずだった景色が、二日目にしてもうご褒美ではなくなっていた。ただただ疲れる。

 そもそも、四国は高知さえなければ、瀬戸内海側を走ればいいだけの簡単な旅だった。しかし、高知が山地を越えて太平洋側にあるせいで、わざわざまるっと一周しなければならなくなっていた。だから、最初は高知の存在がウザかったし、楽しみでもなかった。しかし、四国一周した人の声をサイトで見てみると、「高知が一番良かった」という声が多い。その声を真に受け、高知の景色には期待が高まっていった(マイナスからスタートした恋愛のほうが楽しいってやつと同じ原理)のだが、全然そんなことは無かった。

 もちろん、高知単体で旅行に行けば、この景色を存分に楽しめると思うし、実際景色はとてもきれいだった。だが、自転車でずっとその景色を見るってなると話は違うのよ。おいしいからといって、一日に5杯も10杯もラーメンは食べないじゃん。

 飽き飽きする景色も我慢しながら進み、黒潮町で見た景色を土佐佐賀というところでも見ながら(心では目を逸らしている)、昼ご飯にするか迷う。ここら辺はカツオの産地らしい。しかも幸運なことに、今の戻りガツオの時期ときた。だけど、時間がまだ早かったからここはスルーすることにした。中土佐町もカツオで有名らしかったから、そこでのランチに賭けることにした。

 土佐佐賀の浜を抜けると、うんざりしていた海沿いの道としばしのお別れ。せいせいする。だが、次の四万十町(四万十市とはぜんっぜん違う)までの、うんざりする山道が今度は始まっていく。あらかじめ地図で確認しておいた際に、四万十町は標高がある程度あり、登らざるを得ないということは理解していたが、そんなにだろうと思っていた。

 実際、最初はそんなにという予想は当たっていた。途中で川に入れそうな場所があったから、迷いなく入る。真昼が近づいて結構暑くなってきていたし、いいアイシングと思ってひざ下まで川に入った。前日野宿したから体は汚いし、天然シャワーということにもした。超気持ちいい。

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 ただ、問題はこの後。だんだんと登りがしんどくなっている。しかも、全然平地も下りも来ないわけ。あれ?まだ登るの?日差しで体力は奪われるし。この日の登りを舐めていたこともあって、バックに入っている飲み物は500mlも無かった。しかし、あまりのしんどさに体は水分を渇望し続けている。我慢しつつ進んでいったけど、いつまで登るのかが全く分からないという状況が、しんどくなってくる精神に拍車をかける。やっぱり人間未知で分からないことに一番消耗する。飲み物もついには飲み干してしまった。だが、いまだに終わらない登り。これで死んだり熱中症になったりしたらシャレにならん。ただ、神様なのか何なのかは分からないけど、乗り越えられる試練しか与えてこないはず。何とか粘れば耐えれると信じる。限界が近づいている感覚はあったが、何とか登り切って下りに入ることが出来た。

 あぶねー!ぶっ倒れなくて良かった。コンビニがまだまだ無いみたいだから我慢は続くけど、下りに入ったら風を切る分涼しくなるから多分大丈夫。ぶっ飛ばしていると、必死に逆方向からこの山を登っている女性のお遍路さんとすれ違った。しんどいけど頑張れよ、みたいな先輩風を心の中で吹かせながら応援の意を込めて会釈。

 下り終わったら最寄りのコンビニへ直行。冷たい飲み物をがぶ飲みしまくる。沁みるぅぅぅ。次の中土佐町で昼ご飯を食べたいと思っていたけど、山登りに時間を取られてしまって、到着するころにはもう14時を過ぎていそうだった。さらに、体力を使い切った感があり、おなかも減ってしまっていた。だから、このコンビニで昼ご飯も済ませることにした。

 そして、この四万十町、田んぼに囲まれた高地で何も無い。おい、四万十町民の祖先。何でこんなとこ住んだ。こんなことに町があるから通る羽目になったんだぞ。

 中土佐町でもあの海岸沿いの景色は健在だったけど、人間慣れるもんよ。毎日ラーメン生活もできるしね。ここではうまいカツオ食いたかったんだけどなあ。仕方がないか。そのまま、次の須崎市へ行くことに。

 もともと、四国一周のルートは四国一周のサイトがおすすめしてるルートを参考に決めたんだけど、土佐久礼から須崎までは海沿いを行くはずだった。しかし、通行止めという不穏な文字が。だけど、ここを通らなかったら山道の可能性大だし、もしかしたらの可能性に賭けてそのまま進んでみる。最初は写真スポットみたいなのもあって、「あれ、いけそうじゃん」って思ってたけど、そこから1㎞ぐらい進むと、完全な通行止めに出くわした。最悪じゃん。でもどうしようもない。これで無視して進んで死んだら誰もが失笑する。土佐久礼の中心まで戻って正々堂々須崎へ行くことになった。疲れているのにわざわざ通行止めのところまで行くなんて、この男、相当の阿呆だ。

 案外須崎市まではすんなり行けた。須崎からは半島みたいなのがあるんだけど、さすがにそっちには回らずに(この先に明徳義塾中高があるというから驚き)半島じゃない方の海側を通っていった。途中、土佐市に入ってから宇佐という場所を通ったとき、「USA」の文字があった。嘘つくな。嘘でもないけど。騙される奴居らんぞ。

 さあ、土佐市までくればあとちょっと。ここからは海沿いの道をひたすらに真っすぐ。桂浜まではいかないところで90度折れて北上。そうすればほぼほぼ高知の中心部。途中にバカ長いトンネルがあったが、きれいに整備されていたからとても走りやすかった。きれいなトンネル、ありがたやありがたや。

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 高知についてからはカツオを食べられる場所を探した。しかし、食堂みたいなところはコロナの影響で閉まっており(高知の感染者数どうせ少ないやろ)、調べてみたら出てくるのは居酒屋ばっか。まだ未成年だったから、ちょっと行きにくい。一人だし。しかも居酒屋でカツオのたたきだけ食べるってちょっとあれだよな、とか後ろ向きな想像をしまくった挙句、店で食べるのを断念。スーパーで天然のカツオ、しかも今日通った土佐佐賀産の立派な奴を買って、ホテルで一人で塊のカツオにかぶりついていた。それなら土佐佐賀で昼めし食っとけばよかったのに、とかは言わないお約束。

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 高知県庁の看板が高知家ってなってて萎え。

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ルート

 南宇和郡愛南町からは国道56号線を走って高知県に入り、宿毛町→四万十市→黒潮町→四万十町→中土佐町→須崎市と移動していった。須崎氏からは土佐市の中心部にはいかず、県道23号線を通って海沿いを走った後、県道14号線と合流し高知市の南側へ。県道14号線に従って北へと進路を変え、トンネルを二つ越えたら桟橋通りに乗り、高知駅へ。


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