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大学生自転車日本一周旅三日目:宇都宮駅から福島駅へ

本編

 やはり、ホテルはぐっすりと眠れる。しかも、テレビも好き放題見れるしYouTubeだって自由に見ることが出来る。野宿だった前日とは対照的に、この日は朝からゆっくりしていた。三日目にして完全に旅以前の生活に戻ってしまったわけだ。

 だけど、この日の目標である福島駅まではまだまだ距離がある。さくら市で野宿する予定だったのに宇都宮市で泊まったから、予定よりも長くなってしまっている。というわけで、準備が出来たら出発。だらだらはしていられない。

 さくら市、那須塩原市と上り坂が続く。国道4号でいけば市街地に行けたものの、スマホのマップが出した最短距離ルートで行ってしまったためにコンビニすら見当たらない。本当に飽き飽きしてしまうほど田舎道が続いた。その後徐々に登りが始まっていった。東北地方が近づいてきた証拠。

 東北地方にはこれまで一度も行ったことがないから、これが初突入となる。正直、出発前は東北地方が一番しんどい地方だろうと予想していたから、いざ突入するとなると怖さはあるが、初めて踏み入れる地方に期待も膨らむ。まずは栃木県の北部地域を越えなければ。

 福島県が近づいてくると同時に、道は完全に山道になった。ひたすらに登り。先ほども言ったようにここまでにコンビニを見つけることはできなかった。休憩はおろか飲み物も買い足せず、残りは少なくなってきていた。追い打ちをかけるように山道が続く。だけど、踏ん張って漕ぐ。昨日はホテルで眠った以上匙を投げて逃げるわけにはいかない。甘えた分は厳しくもしないと。ただ必死に漕いでいった。飲み物も尽き、体力にも限界が近づいてくる。最後は昨日足が攣ったのことも考えて、押して登っていった。日差しも強かったから、汗もだらだらと流れ落ちる。熱中症が怖い。今回初めての本格的な山登りということも、しんどさをプラスする要因なのかもしれない。

 幸運なことに自動販売機が道のそばに見つかった。2本購入し、1本は一気に飲み干す。少しづつ体に元気が戻ってきた。もう福島県は目の前に迫ってきている場所だった。最後の坂を上り切って、いざ福島県へ。県境を超えるときにはもう下を向いていなかった。関東地方にお別れも告げずに、東北へ踏み出していく。体力は削られていたからこそ、下りの気持ちよさは何倍にも増した。

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 坂を下っていくと白河市街に到着した。時刻はすでに14時を回っており、ランチサービスも終わっている時間帯。しぶしぶ駅前のコンビニで軽食を買い集め、歩道に座って食べた。なかなかにやばい奴だったと振り返ってみて思うが、もう立って食べたくはないほどに疲弊しきっていたのだ。ちなみに、白川郷が近くにあると思って場所を調べては、それは岐阜県ということをマップに教えてもらったのはここだけの秘密で。

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 白河市からは国道4号線へ。もう広い道。さすがに山登りはないだろうと信じて再スタートを切った。

 山とまでは言わないまでも、上り坂はチョコチョコあったとは思う。ただ、白河までの道のりと比べるとまだ楽なほうではあった。郡山市まで行くと、もう17時を過ぎていた。次の二本松市までは距離があるから、ここで早めの夜ご飯を食べることにした。食べ終わって再出発したら、さっきより向かい風を感じた。日ももうすぐ落ちる。さあ、ここからが勝負だ。

 19時を過ぎると、あたりはほとんど真っ暗になった。おそらくバイパスを通っていたと思うが、街灯がちらほらとしか無く、さらに店がほとんどないゾーンは非常に暗かった。自転車についているライトは決して明かりが強いものではなかったから、見えにくい場所が増えていた。だけど、暗いとはいえ見えにくい場所も想像で埋め合わせできるし。

 しかし、だんだんと危険が増えてくる。地下に迂回路が回路がある道を通ったが、その存在に気が付かず、そのまま通過したら行き当たりにぶち当たってしまった。その直前で、歩道をふさいで歩いていたおばさんがいたせいでスピードを落としていたから、事故を起こさずに済んだけど。じゃまくせえなと思っていたけど、ありがたやありがたや。しかし、これだけでは終わってくれなかった。

 二本松市に入ったころだろうか。国道4号は基本的には坂がちの道で上っては下る、また上っては下るを繰り返していた。そして、その時は上り終えて下っているところだった。福島駅がだんだん近づき、テンションも目的地までの距離とは反比例に上がっていたころ。急に段差から落ちてしまった。本当に突然のことで全く予期していなかった。サドルから振り落とされて大けがをしそうになり、グリップを強く握りしめて何とか耐える。しかし、前輪に思いっきり負荷がかかってしまった。パンクしたら嫌だな、そう思うのと同時に空気が抜けていく感覚を味わう。しぼんでいくタイヤ。おそらく原因は過重だろう。その歩道はおそらく右斜めに走ればスムーズに行けるやつだったのだろう。暗くて全く気が付かなかった。

 時刻は19時30半を回っていたと思う。自転車屋を急いで調べてみるも、近くには見当たらない。あっても個人の自転車屋で20時を過ぎたら店を閉めるだろう。その時点で諦めた。今日は修理が出来ない。いったん状況と気持ちを整理するためにコンビニに寄った。心は焦っていた。

 福島駅までは順調に漕げたとして一時間半の距離だった。歩いていくと4時間半。ちょうど30分ぐらい前にホテルを予約したばっかりだったのに。しかもチェックインの時間は順調にいったと想定して決めていた。歩いていくのは論外。遠すぎるし、日付をまたいでしまう。かと言ってこんなに危ない道をパンクした状態で漕ぐのは危険すぎる。パンクした自転車はスリップしやすいから。民家に突っ込んだ奴を見たことがあるし。だけど、漕いでいくしかないか。とにかく安全に気を付けながら。

 これが冷静な判断だったかは分からないけど、その時出せるベストな回答ではあったと思う。生きて辿り着けると信じていくしかない。突然やってきた死の恐怖。車道に一回でもスリップしたなら、その先に待つは死。ここまでで最も困難な試練が降りかかってきた。乗り越えなくちゃ、意地でも。

 一人の夜、知らない道、縁もゆかりまない場所、誰にも助けは求められない。襲ってくる孤独感は、暗くて周りがあまり見えないせいもあって、尋常ではなかった。逃げ出したい。自転車を置いて電車にでも乗れたらな。そんな思いも頭をよぎるほどだった。旅を始めた時、簡単に○○まで行けとか逆境に打ち勝てなんて簡単に言ってきた奴らの顔が浮かんでは、一発殴っておきたい衝動に駆られる。そういうやつらは地図だけ見て物を語ってくる。もしくは描かれるストーリーのきれいさだけを見て。だけど、そんな表面には映らない苦しみがここにはある。死んでも今日を乗り越えるしかない。ここで負ける玉じゃない。

 変に熱くなった心を頑張って冷ましつつ、自分が運転をミスしなければ死なないという当たり前の視点に立ち返った。とにかく安全に。自分がミスしなきゃ大丈夫。ひたすら自分にこう喋りかけては、孤独感を満たし前へ進む力に変えていった。傍から見たら気持ち悪いとは思うけど、こうでもしなきゃ心が居場所を見つけられなかった。泣いて救われるなら泣きたかったぐらい。

 二本松から福島までは、残念なことに山道のような場所もあったし歩道がない場所もあった。とにかくミスしないように、それだけを努めて進んでいった。

 また、自転車についているライトは前輪の回転のおかげで電力を得て発行するタイプのものだったんだけど、パンクしてからキュルキュルと大きな音を立てるようになってしまった。もしかしたらその時変なところに当たってしまっていたのかもしれない。段差で落ちた衝撃でライトの位置がズレてしまった可能性は十分にある。おそらくそのせいで、急に電気がつかなくなった。幸いなことに、その時には福島の市街地に入り始めたところで、街灯もあったし、周りにちらほら明かりのついた店があったので、先ほどに比べたら安全度は増していた。明日修理すればいいや。

 タイヤとライトに故障があったものの、必死な自分による励ましの甲斐もあって、何とか2時間もかからずに福島駅にに到着することが出来た。本当に死を覚悟したからこそ、安堵の気持ちも大きかった。嬉しいというよりは、ほっとしたという方が近い。自分ではどうにもできない「アンコントローラブル」な環境に身を置き、乗り越えたことで、確かな成長を感じていた。こうやって一つ一つ成長していくんだと当たり前のことを再確認した。

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 駅の駐輪場は無料だった。出来るだけ現金の出費を抑えたい立場からしたらこれもある種のプレゼント。

 運よく駅前のホテルだったから、到着後すぐにチェックインできた。設備はきれいで大満足。これもある種のプレゼント。

ルート

 宇都宮市から福島県白河市までは直線的に行った。おそらく国道4号ではない。白河市から福島駅までは国道4号線を走った。

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