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【励まされた本】山口周『仕事選びのアートとサイエンス』後編

双極性障害の人が働く時に必ずと言っていいほど話題になるのが「双極に向いている/向いていない仕事ってなに?」ではないでしょうか。

先生からなるべく変化の少ない仕事をするように言われた、クリエイティブな仕事には就けないのか、責任のある仕事は避けた方がいいのか、刺激を避けるために人と接しない方がいいのか、起業をしている双極の人が多いから起業した方がいいのか、フリーランスがいいのか…

個人的には躁を誘発するような夜勤シフト職は負担が大きいだろうなと考えますが、それ以外は「どの職種に就くか」よりも「どう働くか」の方がずっとだいじではないかと思っています。そして、働き続けて少しずつ経験や信頼を得ることで、自分のできることが増えて、職業選択の可能性が広がっていくのではないでしょうか。

そんな私にとって、山口周さんの『仕事選びのアートとサイエンス』は、「そうそう、そうなんだよね~」と、同意する点にあふれています。著者は「天職とは本来、自己を内省的に振り返ることで見出すものではなく、人生のあるときに思いもかけぬ形で他者から与えられるものではないか」そして、「そのような偶然をより良い形で起こさせるための思考様式や行動パターンこそが、『天職への転職』に最も必要な技術なのではないか」と述べます。

偶然を起こさせる・・・?著者はキャリアカウンセリング理論の先駆者・クランボルツの「ハプンスタンス・セオリー(計画された偶発性理論)」を引いてそのポイントを紹介します。詳細は本書に譲りますが彼はこう考えているのです。

ハプンスタンス・セオリーに則ってキャリア形成を図っていくことを考えるのであれば、まず目の前の仕事を誠実にこなす、いま周りにいる人に誠実に対応する、自分らしく振る舞う、ということが大前提になってくるかと思います。

100%同意、本当に自分のキャリア構築においても大切にしたいことなのですが・・・これってそのまま、双極性障害の人が働くうえで大切にすべきことではないでしょうか?

気分が上がりすぎて突飛な仕事をしたくなってしまったり、目立つことがやりたくなったり、周囲の人と言い争ったり。気分が沈みすぎて自分から一方的に退社を申し出たり、自分を押し殺そうとしたり。

双極性障害を抱えながら仕事をする・仕事を続けるのは大変なことです。なかなか続かなくて、経験が重ならなくて、同じようなところをぐるぐるしてもどかしくなることもあるでしょう。でも、どんなに簡単なことでも・短時間でも、身近なところから少しずつ仕事を継続することで、より興味のある仕事にもつながっていくのではないでしょうか。

私は部下のいるときに双極性障害と診断されて、今は部下がいませんが管理職は続けています。体調の悪い時はほぼベッドに臥せる日が続いたりしますが、元気になってくると新しい業務に挑戦して自分の守備範囲を広げています。それができるのは、同じ会社に15年勤めてそれなりに周囲の信頼を得ているからだと思います。なじんだ環境なので刺激の大き目な業務にもトライしやすいのです。

実は担当業務はとても苦手であまり興味の持てない分野で、所属して3年経つ今でもさして好きではありません。それは次なるリストラ防衛策でもあるのですが、「双極性障害でもキャリアの可能性を諦めたくない」というのが一番のモチベーションになっているように思います。

私にとってのキャリア形成というのは、人より早い昇進とかキラキラした日の当たるポジションではなく、自分のやりたいこと・好きなことでもなく、ただ「自分の可能性を広げてみたい」「その先にある景色を見てみたい」という欲求のようにも思います。

その欲求を果たせる私はとても環境に恵まれていると思います。でも、これまでもそれなりにトラブルはあり、地道に解決してきました。この本を読むと、こんなやり方でよかったのかなと励まされるような気がするのです。

なお、本書が引用しているJ.D.クランボルツ『その幸運は偶然ではないんです!』ではより詳しくハプンスタンス・セオリーを知ることができるので、こちらもおすすめです。


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