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特集 ジオパーク

割引あり

石拾いに興味があれば高確率で遭遇するジオパーク。しかし、ジオパークとは何なのか今ひとつわからない人も多いのではないだろうか。かくいう私がジオパークとは何かを理解したのは2021年の夏である。人生に「遅かったー……もう無理」ということは少ししかない。今からみんなもジオパーク博士になれる。

今回は無料部分でジオパークとは何かを解説し、有料部分ではジオパークについての自説を展開する。




ジオパークとは何か

洞爺湖と中島。日本で初めて認定されたジオパークのひとつが『洞爺有珠山』である


ジオパークの概要

まずは言葉から読み解いていきたい。パークはParkであり、公園を意味する単語として認知度は高いだろう。一方、ジオの綴りはGeoで、こちらは馴染みが薄いかもしれない。しかし、我々はこの言葉を知っているはずだ。そう、自然系雑誌界の巨人、National Geographic(ナショナルジオグラフィック、略してナショジオ)のジオである。GeoはGeography(地理学)の頭文字でもあり、地球や大地といった『地』を意味する。では、ジオとパークが組み合わさるとき、どのような言語反応が起こるのだろうか。

ジオパークとは

ジオパークは、地質学的重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・持続可能な開発が一体となった概念によって管理された、単一の、統合された地理的領域です。

日本ジオパーク委員会『ジオパークとは』
https://jgc.geopark.jp/whatsgeopark/index.html

ジオパークは地球の活動の痕跡を破壊することなく残し、過去に何が起こりなぜこのような地形になったかを後世に伝え、それらを意識しながら暮らしたり観光したりしてもらおうという場所である。『教育』には防災や減災が含まれ、『持続可能な開発』には、ジオスポットの紹介、温泉や食、トレッキングといったジオツーリズムが含まれるだろう。ジオパークには、地球やその土地の特徴を体験を通じて理解することを助ける役割がある。


ジオパークには世界と日本の2種類ある

日本にジオパークは46地域あり、それらは2種類に大別できる。

  • ユネスコ世界ジオパーク

  • 日本ジオパーク

ユネスコ世界ジオパークのひとつ『島原半島』。雲仙普賢岳の噴火による被害を受けた場所でもある

ユネスコだと?あの世界遺産の?はい、そうです。あの国連機関のユネスコです。日本にはたくさんジオパークがあれど、ユネスコ世界ジオパークは10地域しかない(2023年5月24日時点)。希少なので近くにあったら僥倖である。

  • アポイ岳

  • 洞爺湖有珠山

  • 伊豆半島

  • 糸魚川

  • 白山手取川

  • 山陰海岸

  • 室戸

  • 隠岐

  • 阿蘇

  • 島原半島

我が北海道には2つもユネスコ世界ジオパークがある。道民の幸福度は114兆3812億かな?九州民も6兆9000億くらいありそうだ。

ジオパークには『ユネスコ世界』と『日本』で区別をつけているように、ユネスコの方は『国際的な価値』『国際協力』といった国境を超えた結びつきが特徴だ。ユネスコ世界ジオパークになるためにはまず日本ジオパークに認定される必要があり、さらに日本ジオパーク委員会によって推薦されなければならないことから認定のハードルは高い。また、認定されたとしても4年に一度(条件付き再認定は2年後)に再認定審査を受け続けなければならないので、さすがユネスコの名を冠しているだけあって厳しい。

ユネスコ世界ジオパークの認定審査には8つもの基準がある。審査基準を見ることで何が求められ何が重要視されているかが理解できるだろう。以下は私が頑張って読み解いて訳したものである。わりとマジで頑張らないと短く訳せなかったので、原文を参照することを強く勧める。

  1. ジオパークの概念に沿っていて、境界線が明確かつ規模が適切で、重要な地質遺産を含む

  2. 地域の自然・文化と関連し、社会の重要課題の意識を高めるべき

  3. 国が法的に位置づけ、ジオパーク地域をきちんと管理できる運営団体があるか

  4. 他のユネスコ認定系と地域が被る場合、ちゃんと独立してブランディングでき、相乗効果も出せるか証拠を示さなければならない

  5. 地域住民や先住民を巻き込み、地域社会と連携して文化的アイデンティティを保全する必要がある

  6. GGN(Global Geoparks Network/世界ジオパークネットワーク)に加盟義務があり、GGNと共同プロジェクトを行うことを推奨

  7. 地域や国の法を尊重し、また法によって保護されなければならない。石を土産屋みたく売買することに直接関わりを持つことは避けるべき

  8. 審査と再認定は上の7つの基準をチェックリストで確認する

(訳した感想としては、7番がやたら長く前半と後半で議題が異なると感じたため、7番は2個に分けても良かったのではと思う)

日本ジオパークのひとつ『桜島・錦江湾ジオパーク』の説明板。右側にジオパークの文字とロゴ(かわいい)がある

続いて日本ジオパークについて見ていこう。こちらは多くの都道府県に分布しているため、ジオパークがないところでも隣県に行けば必ずジオパークに出会える。ジオパークなし県とだけ接しているジオパークなし県はない。それほど日本は地球の活動が可視化されやすい場所であり、その保全に努めようとし、観光への活用に積極的で、総合するとジオパークが好きな国なのである。ちなみに、日本一多くのジオパークがある都道府県は我が北海道である。北海道にはユネスコ世界と日本をあわせて6地域あり、後述するジオパークを目指す準会員地域も1箇所あることからゆくゆくは7地域になるだろう。他県は多くても鹿児島県の3地域なので、北海道の特別感はおわかりいただけるに違いない。

……ちょっと待って。ここでは面積に対するジオパークの数の話はしていないよ。北海道の悪口はそこまでだ。

日本ジオパークに認定されるためには以下が評価される。こちらは簡潔に書かれているのでそのまま引用する。

3. 新規認定審査で評価するポイント
・ 活動主体が、ジオパークの考え方を十分に理解しているか。
・ 活動主体が、地域の地質遺産について理解し、保全し、その価値を伝えているか。
・ 活動主体が、ジオツーリズム等の方法によって、地質遺産等の地域資源活用を図ろうとしているか。
・ ジオパークの活動を今後、進めていくための仕組み、体制ができているか。
・ これまでに申請地域で行われてきた研究、保全、教育、ジオツーリズム等の事業や活動が、日本ジオパークになることにより、より発展することが見込めるか。
・ 認定以降に始めようとしている事業や活動が、ジオパークの理念に照らして適切かどうか。
・ 地殻変動や地震活動、火成活動等によって引き起こされる災害の経験・知見を基に、どのような防災・減災活動が行われているか。


日本ジオパーク委員会『募集と審査(要領,ガイドライン)』『ユネスコ世界ジオパークガイドライン』より『和文(試訳)』
https://jgc.geopark.jp/files/20190525_01.pdf

日本ジオパークにはユネスコ世界ジオパークと異なり『国際』の文字が見られない。日本と世界ではやはり求められる基準に違いがある。しかし、日本ジオパークの案内板にも英語表記がある場合が多いので、海外の人と一緒に訪れる場合に必ずしも不便を感じるということはない。

日本ジオパークのひとつ『十勝岳ジオパーク』の説明板。英語も併記されている

ところで、ユネスコ世界ジオパークに少し話を戻すと、中国は42地域、スペインは16地域、イタリア11地域、インドネシア10地域である。GGNはもともとヨーロッパと中国を中心として設立されたため、この2つのエリアにジオパークが多くなるのは必然かもしれない。その中でインドネシアと日本は頑張っている。ちなみに、この記事が公開された時点でアメリカ合衆国にジオパークはひとつもない。


次のジオパークはここだ!準会員地域

準会員地域とはこれから日本ジオパークを目指す地域であり、2024年1月現在7地域ある。

  • 古関東深海盆(千葉)

  • 蔵王(宮城)

  • 飛騨山脈(岐阜)

  • 那須烏山(栃木)

  • 三好(香川)

  • 大雪山カムイミンタラ(北海道)

  • 喜界島(沖縄)

岐阜、栃木、香川、沖縄にはまだジオパークがないため、ぜひ近いうちに認定されてほしい。自県にジオパークがあるのはなんて素敵なことだろうか。飛騨山脈がジオパークになったら絶対行く。飛騨山脈ジオパークは私の作品を恒久設置してくれないかな。


ジオパーク構想を知ろう

茨城県北ジオパーク構想による説明板。大子町を訪れた際はぜひ町が誇る景勝地、袋田の滝に足を運んでほしい。温泉もオススメ

また、準会員地域の他にさらにジオパーク構想もある。私は茨城県大子町にアーティスト・イン・レジデンスで滞在した際、茨城県北ジオパーク構想の方たちと知り合った。地域の地形や地層の特徴に精通し、熱心な活動を行い、何より奥久慈地域の石や地層について聞きたがるこの謎の人物に対し大変親切に接していただいた。茨城県北ジオパーク構想のミュージアムと呼べる場所は廃校を利活用しており、大変美しいところである。読者のみんなにはぜひジオパーク構想にも興味を持ってほしい。自分の住んでいる土地について知ることは災害が起きた時に生き延びる確率を上げる。


ここまでのまとめ

私がジオパークを理解したきっかけは2021年夏にアーティスト・イン・レジデンスで旭川に滞在した際である。まだ十勝岳ジオパークが構想だった時に関係している人と知り合った。兼ねてよりその名前を聞いていたジオパークとは何かをその人に何度も尋ねた。1回聞いただけでは意味がわからなかったからである。ここまで記事を読んだとしてもイマイチ理解できない読者もおそらくいるだろう。凡庸なことを言えば百聞は一見にしかずなので、ぜひ近くのジオパークに足を運んでみてほしい。

私が行ったことがあるジオパーク

  • 洞爺湖有珠山ジオパーク

  • 白滝ジオパーク

  • 十勝岳ジオパーク

  • 三笠ジオパーク

  • 三陸ジオパーク

  • 立山黒部ジオパーク

  • 島原半島ジオパーク

  • 桜島・錦江湾ジオパーク

いずれも公共交通機関を使った。行った当時まだジオパークではなかったところは含んでいない(浅間山北嶺)。公共交通機関で日帰りできるところしか行けない私が行ってきたのだから、ジオパークは自然あふれる僻地にあるものばかりではなく身近なところにもきっとある。

公共交通機関とジオパークといえば立山黒部ジオパーク。私は富山駅から鉄道、ケーブルカー、バス、トロリーバス、ロープウェイ、ケーブルカーと乗り継いで最後は黒部ダムまで行った。黒部ダムまでは日帰り可能

ジオパークという枠組みがあるからこそここが地球の活動によって形作られたことを意識でき、英語併記の説明板が建てられ、地元の食材を使った料理をみつけやすくなり、防災や減災の意識を高められ、地域に人を迎える準備を整えてもらえるという側面がある。災害大国、言い換えれば地球の星としての激しさを感じられやすい日本において、体験を通して宇宙の中の一惑星である地球について学べるジオパークは意味のある概念だろう。


以下の有料部分では、これまでのリサーチで見出したジオパークについての見解を開陳する。


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