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2020.04.08 淡々東京ぐらし#9 そこのけそこのけ賞味期限が通る

入社と同時にリモートワークが始まって丸一週間が経った。一日中ずっと仕事をしていると、昼休みの使い方次第で身体や心の調子が変わる。

社内のビデオ通話ツールで話しながら昼ごはんを食べると、雑談への飢えが少しばかり解消される。ここ二日はそうしてきたが、今日の昼休みはまた過ごし方が違った。

まず、朝のうちにお米をといでセットしておいたので、炊きたてのご飯をよそってラップでくるみ、冷凍庫に放り込む。次に、作り置きのおかずをお皿に盛って電子レンジにかけながら、お湯をわかして即席スープを作る。そうして準備したお昼ご飯を食べたら、大急ぎで洗いものをして、家を出た。

昨晩から、今日は何としても散歩をしたいと決めていたのだ。往復5分で戻ってくると決めていたから、近所の住宅街のまっすぐな道を行って帰ってくることにした。

昨日は気づかなかったが、歩道の植え込みのツツジがもうだいぶ咲いている。例年より早いのではないか? 日差しも風も暖かいので、上着もいらないくらいだ。春が進んでいる。

今日はここと決めた道の向こうに、白い花水木の花が見えたので、じゃああれを折り返し地点にしようと適当に決めて、家に帰った。

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節約しようと決めて、できるだけ自炊をするように努めていたら、引っ越してきてから今日まで一日も欠かさず自炊をしていることになっていた。目論見通りというかそれ以上の節約効果なのだが、それはひとえにリモートワークが始まったからだ。

その代わり、「毎日三食食べてたら、食材の消費ペース速いかな……」と不安になって、汎用性の高そうな食材を少し多く買いすぎてしまう。そうすると、冷蔵庫の中では、賞味期限が迫っているのに、保存容器の空きがなくて料理にしてあげられない材料が増えていて、頭を抱えている。

トマト缶を半分だけ使った余りをお椀に移したやつ、早く使わなきゃ。あ、いや、それより、ずっと居座っている人参を使うほうが先か? ピザ用チーズってどれくらい冷蔵庫に入れっぱなしでも大丈夫なのかなー……そうそう、常温で出しっぱなしにしているりんごがそろそろ傷んできそうだ。

とりあえず、このタッパーに早くどいてほしい。どいてくれる先は私のお腹の中だから、傷ませないためにできるだけ早く。

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ニュースを見ていると心が削られる。本質的でないところでとんちんかんなことを言ったり、やったりしている人ばかりが目立っているような気がしてならない。

緊急事態宣言が出されて、休業を要請された産業に携わっている知人友人が何人もいる。COVID-19の終息がいつになるかもわからないし、皆が皆いつも生活防衛資金を潤沢に持っているとは限らない。そんな中で、政権は宣言を出すだけ出しておいて何の責任も取らないというのは、あまりにも酷だ。

SNSも、誰もが言いたいことを言いたい放題で、しかも文字数も限られているから、強い言葉で断言したり、自分が敵とみなす人々への非難や差別を表明したりする投稿が目を引き、拡散される。ニュースサイトのコメント欄や、もしかしたらある種のテレビ番組もそうかもしれない。

しかし、現実の複雑さと膨大さを舐めないほうがいいと思う。自分が摂取できる範囲の情報だけが、正しい世界のありようだと思ってしまうのは、きっと危うい。所詮自分ひとりが思い描くよりもずっと現実は多様で複雑で、たくさんのものごとが絡み合っているのだということに、私は常に自覚的でいたい。そういう態度で世界に向き合えば、そうそうたやすく断言したり、自分とは異なる立場の人を執拗に貶めたり、人命や人権を軽んじる政権に政治を明け渡すことも、──なくなるとは言えないが──少しは減るんじゃないか、と思う。

だが、現実の複雑さに気づき、そのありさまを知ろうと努めている人ほど、一言で歯切れよく答えてくれないし、発言力も相対的に低くなりがちな気がする。

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NHK Eテレの「2355」(石澤アナウンサーの声がいい)と、TBSラジオの「at home QUIET POETRY」(詩人の菅原敏が詩のリーディングをしてくれる)の時間帯がまるまる被っているので、どちらに目や耳を向けようか悩んでしまう。今のところ、気分で決めている。

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