加藤右馬

加藤右馬

記事一覧

黒岩徳将『渦』30句撰

 本年で34歳を迎える黒岩氏は同級生。黒岩氏は高校生のときに俳句甲子園を通じて俳句を始め、『天の川銀河発電所』に名を連ねた後、現代俳句協会青年部の部長を務めてい…

加藤右馬
1か月前
15

阪西敦子『金魚』30句撰

はじめに 阪西敦子氏の句歴は、幼少期から数えてなんと40年。自分の5倍近くのキャリアを積み重ねている大先輩だ。俳句界では大凡50歳あたりまでが“若手”とされる風…

加藤右馬
4か月前
8

鈴木総史『氷湖いま』40句選

はじめに 鈴木総史氏とはちょっとした御縁がある。氏が星野立子新人賞を受賞した2023年の春先、私はちょうど自身の句作の行く末について思い悩んでいて、氏に多作多捨…

加藤右馬
5か月前
11

中西亮太『木賊抄』30句撰

はじめに 何を置いても、まずは中西亮太氏の第一句集出版のお祝いを述べなければならない。謹呈を頂いてから数ヶ月越しということで、随分をお待たせしてしまって申し訳な…

加藤右馬
7か月前
9

松野苑子『遠き船』30句撰

薄氷に縄文土器の模様かな 脚痙攣しつつ羊は毛を刈られ 草雲雀りりりと誰の恋敵 猫の恋巨大スクリュー影を生み 雪解けて甲骨文字のやうに草 鶯の鳴く方向よ正面は 吹雪く夜…

加藤右馬
8か月前
5

飯田龍太『百戸の谿』30句撰(+予撰)

 今年(二〇二三年)の五月一日、現代俳句協会青年部主催勉強会『飯田龍太の風景 他郷を故郷のごとく』にてパネリストを務めさせて頂いた。三月の半ばに飯田秀實氏(一般…

加藤右馬
1年前
4

街同人・西澤みず季 句集『ミステリーツアー』三十句撰

雪の中少女のままで二百年 一族の顔吊られをり糸瓜棚 静脈に針全身が春の海 滴りの一打虚空にショパン満つ 新月の鋤鍬鎌や子を孕む 冬灯円錐形の中に馬 番号で呼ばれし漢風…

加藤右馬
1年前
1

岩田奎『膚』四十句撰

千手観音どの手が置きし火事ならむ 耳打のさうして洗ひ髪と知る をりからの夜空の色の日記買ふ かんばせは簗の光のなかに泣く うつし世を雲のながるる茅の輪かな しりとり…

加藤右馬
1年前
3

山河同人・小池義人 句集『星空保護区』20句撰

行く春やカーブミラーの魚の目 黄沙降る対の駱駝の夢を見る 聴覚のたとえば野火の絡みつく 筆立てに金の耳搔き鳥帰る ラッパーの脛のほころび草青む 草餅や悪人面のパスポ…

加藤右馬
1年前
1

角川『俳句』二〇二三年一月号 柳元佑太氏『対話ー結社意識の変遷とハラスメント対策についてー』における形式面の失敗について

本記事執筆の意図 角川『俳句』二〇二三年一月号に、掲載された柳元佑太氏の『対話ー結社意識の変遷とハラスメント対策についてー』(以下、当時評と記す)は、プロタゴラ…

加藤右馬
1年前
13

鈴木光影句集『青水草』私見

先日、句集『青水草』を鈴木光影氏より謹呈いただいた。 遅ればせながら、感想と私見を述べさせていただこうと思う。 まず、身近なモノ・出来事の把握に光影さんの個性が…

加藤右馬
2年前
4

IRORI中村苑子『水妖詞館』鑑賞 ~遠景まで

前書き  俳句オープンチャットIRORIにて、週次の中村苑子鑑賞をさせていただいている。週に三句づつなので進みはあまり早くないが、元より底知れない中村苑子の詩的世界…

加藤右馬
2年前
8

黒岩徳将『渦』30句撰

 本年で34歳を迎える黒岩氏は同級生。黒岩氏は高校生のときに俳句甲子園を通じて俳句を始め、『天の川銀河発電所』に名を連ねた後、現代俳句協会青年部の部長を務めている。知名度・俳句界への貢献度を鑑みれば、30歳まで第一句集が出版されなかったことの方が不思議に思える。『渦』の上梓が俳句界に与えた影響は大きく、既に多くの方がブログ等で取り上げている上、出版イベントも企画されている。3年前、野良犬のように俳

もっとみる

阪西敦子『金魚』30句撰

はじめに

阪西敦子氏の句歴は、幼少期から数えてなんと40年。自分の5倍近くのキャリアを積み重ねている大先輩だ。俳句界では大凡50歳あたりまでが“若手”とされる風潮にあるみたいだが、毎年の俳句甲子園審査員に加え、今年は北斗賞の選者も務めるなど、キャリアの上でも実力の上でもまさしく若手俳人のトップランナーと呼ぶに相応しい。
しかしながら、『金魚』はまさかの第一句集であるという。同年代俳人の何倍ものキ

もっとみる

鈴木総史『氷湖いま』40句選

はじめに

鈴木総史氏とはちょっとした御縁がある。氏が星野立子新人賞を受賞した2023年の春先、私はちょうど自身の句作の行く末について思い悩んでいて、氏に多作多捨のパートナーをお願いした。お互いに評を入れ合ったりもしたので、そのときのフィードバックを参考にしつつ句作に活かし、まさかの一年後に私自身が氏と同じ賞に輝くこととなった。そんな先達の第一句集とあって、技術的な洗練には唸らされるばかりであった

もっとみる

中西亮太『木賊抄』30句撰

はじめに

何を置いても、まずは中西亮太氏の第一句集出版のお祝いを述べなければならない。謹呈を頂いてから数ヶ月越しということで、随分をお待たせしてしまって申し訳ない気持ちだ。
中西氏とは現代俳句協会の青年部でご一緒させて頂いている。私が初めて参加したときの勉強会(2021年1月31日・2月6日 第168・169回勉強会「2021句集読書リレー」)にご登壇されていて、Zoom越しに聳える本棚の威容か

もっとみる

松野苑子『遠き船』30句撰

薄氷に縄文土器の模様かな
脚痙攣しつつ羊は毛を刈られ
草雲雀りりりと誰の恋敵
猫の恋巨大スクリュー影を生み
雪解けて甲骨文字のやうに草
鶯の鳴く方向よ正面は
吹雪く夜の密告の舌ならば切れ
出目金のいつもどきどきしてをりぬ
凍滝の全長光る木霊かな
アロマ一滴硝子全面緑さす
灯の電車人を零してクリスマス
耳鳴りの呪文の中を去年今年
削げば刃に鱗飛びたる寒の晴
炎心の透明バレンタインデー
露の玉一瞬眩み

もっとみる

飯田龍太『百戸の谿』30句撰(+予撰)

 今年(二〇二三年)の五月一日、現代俳句協会青年部主催勉強会『飯田龍太の風景 他郷を故郷のごとく』にてパネリストを務めさせて頂いた。三月の半ばに飯田秀實氏(一般社団法人山廬文化振興会 )のお導きの下、「山蘆」にもご訪問させて頂き、貴重な体験となると共に、機会があればまた訪れたいと思った。なるほど「山蘆」は俳句をやるにはこれ以上ないというくらいの環境で、良し悪しはともかくとして湧き上がるように句が出

もっとみる

街同人・西澤みず季 句集『ミステリーツアー』三十句撰

雪の中少女のままで二百年
一族の顔吊られをり糸瓜棚
静脈に針全身が春の海
滴りの一打虚空にショパン満つ
新月の鋤鍬鎌や子を孕む
冬灯円錐形の中に馬
番号で呼ばれし漢風花す
オリーブの切断面に父の顔
人恋うて肺の悴む音すなり
落款に真紅の卍花の冷
足元一村杏の花の海
太陽を追ひ詰め泰山木咲けり
鮠の腹裂くや夕虹溢れ出す
夏館森は夜中に迫りくる
夏つばめ緋の稜線となりにけり
砂場から乳歯一本敗戦忌

もっとみる

岩田奎『膚』四十句撰

千手観音どの手が置きし火事ならむ
耳打のさうして洗ひ髪と知る
をりからの夜空の色の日記買ふ
かんばせは簗の光のなかに泣く
うつし世を雲のながるる茅の輪かな
しりとりは生者のあそび霧氷林
榾の宿闇のどこかにオロナイン
ぺるしあに波の一字や春の星
搔敷に油の移る花疲
バーベキュー森の何者からも見え
秋日燦川面をたばしりて去らず
にはとりの骨煮たたする黄砂かな
煮るうちに腸詰裂けて春の暮
なかぞらに楚の

もっとみる

山河同人・小池義人 句集『星空保護区』20句撰

行く春やカーブミラーの魚の目
黄沙降る対の駱駝の夢を見る
聴覚のたとえば野火の絡みつく
筆立てに金の耳搔き鳥帰る
ラッパーの脛のほころび草青む
草餅や悪人面のパスポート
蟇交る金の蒔絵のボールペン
古民家の庭にハーレーあめんぼう
上る蟻下る蟻居てプラタナス
白地図の折目どおりに紙魚走る
緑陰や楷書のような手話を聴く
丁寧に長靴洗う沖縄忌
魚屋に道訊く秋の扇風機
エッシャーの水の自在や小鳥来る
山肌

もっとみる

角川『俳句』二〇二三年一月号 柳元佑太氏『対話ー結社意識の変遷とハラスメント対策についてー』における形式面の失敗について

本記事執筆の意図 角川『俳句』二〇二三年一月号に、掲載された柳元佑太氏の『対話ー結社意識の変遷とハラスメント対策についてー』(以下、当時評と記す)は、プロタゴラスとパイドロスという、プラトン対話篇の登場人物をクロスオーバーさせたパロディ形式を採用した時評だ。内容としては、明治以来の結社システムに由来する“俳句コミュニティ”の閉鎖性に言及し、その最たる現れとしてのハラスメント問題へと話題を展開してい

もっとみる

鈴木光影句集『青水草』私見

先日、句集『青水草』を鈴木光影氏より謹呈いただいた。
遅ればせながら、感想と私見を述べさせていただこうと思う。

まず、身近なモノ・出来事の把握に光影さんの個性が強く表れていた。
自分自身のフィルターを通して世界を把握し、自分自身のことばで五七五定型に落とし込む姿勢こそ俳句の王道であると改めて実感した。

 殖えてゆく鬼節分の雑踏に
 遠足の列にいつしか紛れ込む
 冷房を消しもう一人居るごとし
 

もっとみる

IRORI中村苑子『水妖詞館』鑑賞 ~遠景まで

前書き

 俳句オープンチャットIRORIにて、週次の中村苑子鑑賞をさせていただいている。週に三句づつなので進みはあまり早くないが、元より底知れない中村苑子の詩的世界に深く踏み込もうというのだから、ライフワークと捉え腰を据えるしかない。今回は、『水妖詞館』「遠景」の章までの観賞をまとめたいと思う。
 同じく俳句オープンチャットIRORIでは「ゲッパチ読書会」という俳論読書会が行われていて、そこで坪

もっとみる