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貴きもの。『誤解のBar』〈2階目〉観劇記録1会目

令和5年夏、水面下で「1月に何かある」と情報を得ていた私は、この日をずっと楽しみに待っていた

令和6年1月11日〜1月28日、三栄町LIVE『誤解のBar』〈2階目〉

令和5年5月、同じく三栄町LIVEで上演された『誤解のBar』のシリーズ化である

初演(以下〈1階目〉)の感想は記事に残しているが、春名イチカのキャラクターから自分自身の記憶を辿り、胸を抉られる感覚になった

太田守信氏の黒薔薇少女地獄シリーズ全般に言えることだが、死生観を問う内容にいつも過去の出来事を振り返らされ、必ずと言ってよい程、自分自身の傷や弱さと向き合わされることになる

しかしその感覚は嫌いではなく、むしろ大切にしたいと思う

キャスト陣では、〈1階目〉にも出演し、特に初見で心を掴んできた人がいた

今野美彩貴さん

美彩貴さんと出会ったのは昨年5月17日、〈1階目〉B班初日のオペレーションで、奥山佳奈さんを介してお話ししたのが最初だった

5月28日、A班観劇で美彩貴さんのお芝居を初めて観ることになる

令和5年5月28日 『誤解のBar』 A班
キャストの皆さん、太田さん
全員からサインをいただいた宝物

美彩貴さんが演じた夏木フタバには、温和な雰囲気からは想像できなかった力強さと、ラストの演説シーンの豊かな感情の表現で涙腺を刺激されたことをはっきり覚えている

その後、『トラブルシューターズ』『きゅうきょくのニタク』『大日本非リア充同盟 最期の一日』と、美彩貴さんには注目して観劇を続けてきた

6月25日『トラブルシューターズ』A班:ミク
8月26日『きゅうきょくのニタク』B班:ミク
9月10日『大日本非リア充同盟 最期の一日』B班:飯田町柚菜

シリアスなキャラクターも、明るいキャラクターも、そしてリコーダー芸や声色の使い分けと、回を重ねる毎に様々な表現で楽しませてくれる

私にとって初見からお芝居に引き込まれ「この人のお芝居が好き、観たい」と思える人は片手で数えられる程度だが、美彩貴さんは確実にその中に入って来た

その彼女からの知らせに、期待しない訳がなかった


そして迎えた令和6年1月、『誤解のBar』〈2階目〉

1月12日、B班初日

キャストの一人、梶谷さんの降板と、美彩貴さんも体調不安を感じていた中で、幕は開く

昨年の『ラチカン』でもキャスト降板の事態を目にしているために、1月の三栄町には魔物でも潜んでいるのかと、私も不安を感じていた

既に休日の予約は済ませていたものの、美彩貴さんはじめキャストの皆さんと共にこの舞台の成功を願う想いで、観劇を決めた

「後悔のない選択」のために

この時間に出られれば19時30分開演には間に合う

予定を前日まで見極めて予約を取ったことは今までに何度もあるが、当日というのは初めてのことだ

またこのnoteを書く間に、23日の東北新幹線の架線トラブルによる運休を経ているため、当たり前の日常が当たり前でなくなる、行きたくても行けないということもあると痛感している

12日は様々な好条件が重なって当日観劇を実現できた、奇跡とさえ思っている

三栄町LIVE
令和6年1月12日 B班初日

実際、〈2階目〉は期待以上の作品となっていた

B班は前作に続いてりこさんがマスターを演じ、懐かしさや継続性を感じられる部分があった

しかし今回のバーの客は〈1階目〉よりも癖のある人物ばかり

最初に真実のカクテルを振る舞われたのは、美彩貴さんが演じた冬川あかね

エキストラとして数々のドラマに出演している女性だ

このパートでは、あかねが撮影中に妹の朝比奈まどかに刺される事件が起こる

冬川あかね:今野美彩貴さん
朝比奈まどか:日向彬さん

あかねは瀕死の重症を負いながら、叫ぶ

「止めるな!」

「キャメラを、止めるな」

美彩貴さんの今まで観たことのないパワー型の芝居で強烈なインパクトを受けたこの場面、20日に二度目の観劇を経て、私の脳裏には堂本光一主演『Endless SHOCK』1幕のラストにおける、コウイチの姿が浮かんだ


"Show must go on."(何があってもショーは続けなければならない)を信念として突き進むコウイチと、カンパニーとの間に生じた亀裂が決定的になるのが1幕の大まかなストーリーだ

1幕のラストは、コウイチに一矢報いたいライバル(出典の2020年版はタツヤ:上田竜也)が殺陣の最中にわざと刀を落とし、差し出される予備の刀を予め本物にすり替えておき、ショーをストップさせようとするものだ

しかしコウイチは本物の刀をライバルに取らせ、こう言い放つ

「続けろ!」

『Endless SHOCK 20th Anniversary』より JEBN-0306

コウイチはライバルを挑発し続け、錯乱したライバルに本物の刀で斬られ、1年後絶命する(2幕では実体とも霊体とも判別がつかない状態で現れる)

あかねは決して日の目を見ることのないエキストラ役者、コウイチはブロードウェイに進出した天才と、立場としてはまるで正反対なのであるが

他のすべてを犠牲にしてでも"続ける"ことに対して狂気的な執念を見せる姿は、あかねとコウイチに共通している気がした

ついでに言うと『Endless SHOCK』のラスト、天に昇ったコウイチは言う

『Endless SHOCK 20th Anniversary』より JEBN-0307

「……走り続ける背中を見せることが、皆を繋げることだと思っていたんだ。でも、少し違っていたのかもしれない……」

こうして観ると、『Endless SHOCK』の2幕は、コウイチにとっての壮大な〈しちかい〉だったのではないか、とも思えてくる


『誤解のBar』あかねに話を戻す

彼女の本音は決して今の状況に満足はしていないであろうが、努力の方法を間違えていたり、居心地が良くなってしまったりした

ここに私は「将来こうなりたい」という目標がありながらも、どう動いてよいか分からず、立ち止まってしまった過去の時間を思い返し、胸を抉られる

それは単に自分が弱いせいなのかもしれない

今でこそ目標を実現したものの、思い描いていたものと現実の狭間で別の苦しみを感じ、逃げ出したくなることがある

しかしそれでも希望を見失いたくはない

使用前→使用後

美彩貴さんのパワーとネタの引き出し(配信を観る度田中邦衛のものまねで吹き出してしまっていたことも添えておこう)は私の心を掴み、一気に引き込んでいった

美彩貴さんのお芝居がますます好きになり、「また観たい」という希望、生きる力を与えてくれた

初日、無事に舞台に立つ姿を見届けることができ、そして千穐楽まで駆け抜けられたことが本当に嬉しかった

素敵な物語と、心を掴んだお芝居に感謝とリスペクトを込めて

「ありがとう!」

A班冬川あかね:石井鈴音さんと
C班冬川あかね:松本みのみさんと

(2会目に続く)


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