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★東京の地下鉄は川をどのように越えているか?:①日本橋川を越える銀座線

日本で最初に開業した地下鉄は、銀座線です。地下鉄銀座線は、戦前に今の東京メトロの前身である、東京地下鉄道が浅草から新橋の間を開業させました。この区間には、いくつかの河川があり、そのうちいくつかは既に埋められてしましましたが、日本橋川と神田川は今も存在しています。

Googleマップで銀座線を書かせてみました。
日本橋~三越前間で日本橋川、神田~末広町間で神田川と交差します。

地下鉄の工事において、川はちょっとしたハードルのような存在かと思います。地表面から掘る場合も、水が流れている川はそのままの形では掘削できません。それ以外にもいろいろな障壁があるもの、です。今回は、そんな地下鉄と川の交差部の話を掘り下げてみたいと思います。

■銀座線は日本橋川をどう越えているか?

銀座線は、中央通り沿いに南北に走っています。日本橋川と中央通りが交差する場所には、みんながよく知っている、

日本橋

がありますね。ということは、銀座線は日本橋の下を走っているのでしょうか?下の地図は、Googleマップです。確かに、この地図では、銀座線の黒い線は、日本橋の真下を通っていることになっています。

日本橋付近のGoogleマップ。銀座線が日本橋の真下を通っています。

いや、ちょっと待ってください。日本橋は、銀座線の開通よりもさらに古い、明治末期の完成のはずです。ということは、このアーチ橋の下に、銀座線はトンネル構造で存在するのでしょうか?

日本橋は、明治末期に完成したアーチ橋。重要文化財に指定されています。

もう一つ地図を見てみましょう。国土地理院の地形図では、銀座線はどう描かれていますでしょうか?

地理院地図を見てみると・・・
何と、銀座線は日本橋を避けて迂回しています。

銀座線は、実はGoogleマップの記載とは違い、日本橋を避けて敷設されているのでしょうかね?それを確かめるために、実際に駅を訪ねてみました。

■銀座線を歩く

銀座線日本橋駅。ここから、三越前駅を目指してみましょう。

こちらの動画をご覧いただくと、銀座線の電車が日本橋を出てから、国土地理院の地図の形状のように、左に大きくカーブし、その後右にカーブし、また左カーブに戻るような、S字カーブを描いていることがわかります。

こんどは、三越前駅で降りて、コンコース階を歩いてみましょう。

三越前駅。何だか風格漂う駅です。
三越前駅から日本橋方面に伸びる通路。
半蔵門線への乗り換え通路でもあります。
江戸時代の日本橋付近の絵図が展示されています。
なかなか見ていて飽きない絵図です。
この案内図では、銀座線は日本橋の真下に描かれています。
半蔵門線との交点周辺。不思議な階段があります。
ひょっとして銀座線はこの階段の下でしょうか。
結構複雑な柱形状です。銀座線はこの方向にカーブしているのでしょうかね。
やはりちょっと不思議な空間です。


地上から南を見たところ。実は結構くの字に曲がっています。
銀座線はさらに右に折れ、日本橋を避けて通っているようです。
銀座線はこの写真の真下付近を走っているようです。

■日本橋付近の銀座線を工事誌から読み解く

銀座線の建設当時のことが詳しく書いてある書物が、公開されています。この文献、なかなか秀逸な内容なので、ご紹介したいと思います。

ずばり、その図書の名前は、「東京地下鐡道史 坤」という書物です。国立国会図書館デジタルコレクションに収蔵されています。これを見ると、日本橋を避ける線形で計画し、日本橋川を締め切って抜いた状態で銀座線を掘削した様子がよくわかります。

戦前の貴重な図書が共有されているのは、素晴らしいものです。
日本橋付近の地質図。全線の土質試験結果をつなげて作っています。
これを戦前に作っていたとは驚きです。
日本橋付近の平面図。見事に日本橋を避けて通る形になっています。
こちらは断面図です。日本橋川の両側を閉塞し、水を抜いて河底を掘削したのだとか。
こちらは、「日本橋川河底隧道工事下流側締切鉄矢板打」
とあります。今となっては貴重な記録写真です。
「日本橋川河底隧道工事中」

銀座線に交差する、半蔵門線を工事した当時の工事誌も残っています。それも公開されているのです。東京メトロさん、素晴らしい!!

「東京地下鉄道 半蔵門線建設史(渋谷~水天宮前) 帝都高速度交通営団」
これによると、半蔵門線と銀座線の連絡通路は、
銀座線の線路とは違う線形になっているようです。
やはり、先ほど地下道で見た形に似ているような気がします。
銀座線と交差する半蔵門線は、何と地下5階構造です。
構造の標準断面図。とても深いことにびっくりです。

■終わりに

地下鉄は川底をどうやって通したのか?という疑問から始まった今回の調査。謎が解けたのは、公開されている昔の工事誌がきっかけでした。こういう記録をみんなが見られる状態にしてもらえていることは、とても貴重なことだと思います。実はこの問い、他の場所でも調べていますが、とても面白いことになっていますので、また改めてご紹介したいと思います。

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