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✝§✶ファフニール Fafnir✶§✝ 〜 呪われし強欲の毒竜 〜 Le Dragon maudit ル ドラゴン モディ

♢♢テーマイメージ♢♢
おぉお前、悪いことをしてはいけないよ。
あの荒野へ近づいてはならない。
洞穴へ近づくのはもっといけない。

──ほら、聴こえただろう?
ごぉごぉと低く轟くような唸りが。
いいや、いいや、風の音なんかじゃない。
あれは、近頃目撃されたあいつの声さ。

きっと噂を知っているだろう?
あぁそうさ、あれは本当のことだよ。
なんてったって、俺も目撃したんだ!

あの荒野に、竜が棲み着いたのさ。

伝え聞いた余所の話も合わせると、
とても、とても、
忌まわしく、恐ろしく、悍ましい。
そんなやつに近づくなんてとんでもない

何、噂通りなら光り輝く財宝を
山のように抱えているのだろうって?
そうだ、それだよ。そいつが駄目なんだ。
金貨の山の中の1枚だっていけやしない。
欲に目が眩む馬鹿はどこにでも居るのさ。

竜が守る物に手を出してはならない。
そんなことは誰でも知っているのになぁ。

……あぁ、居たよ。余所の馬鹿らしいがな。
そいつがどうなったのかなんて、
わざわざ言わなくても分かるだろう?
滴る猛毒の如き悪意を知りたくなければ、
あの竜に近づくのは止めておけ。

血と黄金が彩る、強欲に囚われた邪竜。
呪わしき毒竜の、その名は──。

ご存知の方も多いでしょう。
かの有名な北欧神話の悪竜「ファフニール」をイメージに取り入れた作品です。

ファフニールは「指輪物語」にも登場します。ファフニールの神話は現代でも様々なシナリオや物語に取り入れられています。そのためなのか、実に多彩な呼び名を有しています。

ファフナー、ファーフナー、ファフニル、ファーヴニル、ファーブニル、ファヴニル、ファーフニール、ファーフニル… etc.
怪盗二十面相みたいな勢いで色々な顔をお持ちですね、ファフニールさん。(笑)

どうやら元々の神話の描写では、ファフニールは翼のある竜ではなく、むしろ蛇のような姿に近いようだ思われます。字としては “竜” より “龍” のほうが合っているのかもしれませんね。
ファフニールは最初から怪物だった訳ではなく、物語の途中で変身します。

3人兄弟の長男であったファフニールは、次男が他の神々によりいたずらに殺されます。次男の死の賠償には “彼の皮の内外を埋め尽くす量の黄金” が支払われることになります。

想像すると物凄く猟奇的な賠償量の定め方にも思えますが……。(汗)
かつて現実世界にハンムラビ法典があったことを考えると、同じような感覚で “損失と比較した量の定め方” という意味で、実は良識的な要求方法なのかもしれません。

ここで、支払いは「赤い黄金」でも良いとされています。死者の皮に “赤い” とくると、血を思わせます。やっぱり猟奇的な印象が漂いますね……。
ともあれ、賠償は無事に行われました。

賠償にはとにかく多量の財宝が必要になりました。その結果、支払いには「黄金を生み出すリング(指輪または腕輪)」という素晴らしい品さえも含められました。
ですがこれは、素晴らしいだけの宝物ではありません。

腕輪にも、そこから生み出される黄金にも「持ち主に永遠の不幸と死を齎す呪い」があるのです。

ファフニールは財宝に魅了されました。彼は父を殺し、末弟を残し、財宝を持って逃げ出します。グニタヘイズと呼ばれる荒野へ行き洞窟を作り、そこで毒を吐く怪物に姿を変えて宝物を独占するのです。

その後、残された末弟の依頼により、シグルズ(ニーベルングの指輪におけるジークフリート)の手に掛かりファフニールは殺されます。
末弟は竜に姿を変えたファフニールの心臓を食べようとし、シグルズに炙らせます。シグルズはその過程で竜の血を舐めて、叡智と特殊能力を得た結果、末弟がシグルズ自身を殺そうと画策していることに気が付きます。
そして末弟もシグルズに殺されました。

死と不幸が連続する、黄金と腕輪の物語。
これが北欧神話のファフニールの話です。

悲劇でありながら、黄金を生む呪いの装飾品といった魅惑的なアイテムや、竜殺しの英雄の登場など、注目される要素の多い話です。

北欧神話は「エッダ」などに残されている詩歌や散文などを原典とする話です。
神話は元々は口伝であったと考えられていて、ルーン文字の刻まれた石碑など、エッダ以外にも後世に残された神話の断片があります。エッダは主たる原典のようですが、エッダが神話の全てではない、ということですね。
エッダもまた北欧神話の断片なのです。

エッダと呼ばれるものは2種類存在する上に色々な呼ばれ方がされていて、ちょっとややこしいです。(笑)

  • 散文のエッダ =新エッダ、スノリのエッダ、スノッリのエッダ、散文の新エッダ ……1222年頃にスノッリ・ストゥルルソンが著した詩の教本。本来は「エッダ」というと、こちらを示したそうです。

  • 詩のエッダ =古エッダ、歌謡のエッダ、韻文のエッダ、セーンムンドのエッダ、詩の古エッダ ……年代・作者不明。「王の写本」(Codex Regius)の内容が主な詩のエッダの内容とされているようです。当初はこちらのほうが古いと考えられていました。現在では、散文のエッダの後に編纂されたという見方もあるようです。

北欧神話には13世紀以前のキリスト教化される前の文化に基づく、独特で魅力的な世界観があります。
叙事詩 “ニーベルンゲンの歌” や、これをモチーフとしたリヒャルト・ワーグナーによる歌劇 “ニーベルングの指輪” と、その後のJ・R・R・トールキンによる小説 “指輪物語” もこの世界観が下敷きにあるので、実は何となく北欧神話をご存知の方も多いと思います。

物語がありながらも原典が断片的であるからこそ、北欧神話は多くの想像をかき立てるのかもしれません。何だか歴史を楽しむ感性に近いものを感じます。

あなたも、古き異世界に想いを馳せてみませんか?

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