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パイナップル・ウォッカ!? お酒の「熟成」と「キャッシュ」の関係

引き続き、名護パイナップルパーク内にできたパイナップル・ブランデーの蒸溜所『ラ・ピーニャ・ディスティラリー』の見学に行ったというお話です!(前回からの記事の続きです。)

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■パイナップル・ブランデーづくりへの参入

世界的な蒸溜酒(ウイスキー・ジンなど)のブームの中、パイナップルに特化してきた名護バイン園では、パイナップル・ワインから一歩踏み込み、パイナップル・ブランデーの製造を始めることを決めたそうです。
また、コロナ禍でパイナップルパークへの来場者が減る中、新しい事業への進出の意味合いもあったと思います。
 
私が訪問した2022年8月時点で、蒸溜開始からすでに1年半が経過しているとのこと。
スコッチウイスキーなどでは3年以上の熟成が法律で定められていますが、こちらのパイナップル・ブランデーも、「きちんと3年以上、木樽で熟成させてから販売したい」とのことで、発売はまだ1年半後とのことでした。


■キャッシュフローの悪い「熟成させるお酒」

ウイスキーに代表される「熟成させるお酒」のビジネスは、非常にキャッシュフローが悪い経営モデルです。
 
「スコッチウイスキーなどでは3年以上の熟成が法律で定められている」と書きましたが、仮にスコッチウイスキーづくりをはじめるとしたら、

・蒸溜所を建設するのに借り入れをして
・人を雇って給料を払い
・仕込みをするために原材料を仕入れ
・お酒づくりに、莫大な水道・光熱費がかかり
・お酒の熟成ため、倉庫管理から、樽の購入&修繕なども行い
・そのほか会社としての事務経費がかかるのに
⇒ 3年間は『売上=収入』ゼロ・・・

これでは、普通はやっていけないですよね?
では、その売上のない中で、どのようにキャッシュを回しているのでしょうか?


■サントリーの場合

1923年、日本で最初にウイスキーづくりに参入したサントリー。
創業者の鳥井信治郎がウイスキーづくりへの参入を決めた時、全員が反対したと言われています。
それもそのはず、今まで日本で誰もやったことのない事業でしたし、すでに書いていますようにウイスキーづくりのビジネスは、とにかくキャッシュの回転が悪いからです。

そのサントリーが、ウイスキーづくりに参入した際には、当時、絶好調だった「赤玉ポートワイン(現:赤玉スイートワイン)」で生み出すキャッシュを、ウイスキーづくりへ投入しました。
 
ちなみに、赤玉が生み出すキャッシュだけは足りずに、商売の天才鳥井は、ウイスキーの蒸溜を開始した1924年以降に、「歯磨き粉=スモカ」、「ソース=トリスソース」、「醤油=山崎醤油」、「カレー=トリスカレー」、「胡椒=トリス胡椒」、「紅茶=トリス紅茶」、「りんごジュース=コーリン」、ついには「ビール=新カスケードビール、オラガビール」と、次々に発売します。 半端じゃない、バイタリティー!
 
1929年に最初の本格ウイスキー「白札」を発売するも、売上はイマイチ。
サントリーのウイスキーがきちんとキャッシュを生み出すのは、1937年の角瓶の発売を待たなくてはいけません。

金食い虫のウイスキーづくりです。1931年にはついに資金繰りが極度に悪化し、年間を通して仕込みができなくなります。
そのため、サントリーには1931年蒸溜のウイスキー原酒はありません。


■ニッカウイスキーの場合

ニッカウイスキーは、サントリーの山崎蒸溜所の初代工場長の竹鶴政孝がつくった会社です。創業時は「大日本果汁」という社名でした。その大日本果汁を短くして、「ニッカ」という社名となっています。

では、大日本果汁がウイスキーづくりに参入する際、どうやってキャッシュを回したのでしょうか?
答えは社名の通りで、まずは「果汁=リンゴジュース」を販売していました。

竹鶴はサントリー(当時の社名は寿屋)の出身です。そして寿屋が発売した「りんごジュース=コーリン」の開発・発売にかかわっていたようです。
竹鶴がウイスキーづくりを開始する北海道では当時、北海道の開拓に向け移住した会津藩士によってリンゴの栽培が行われていたそうで、それらからの発想のようです。

ただ、このリンゴジュースは、本格的すぎて、当時一般的だったジュースのように甘くなかったため、当時の日本人の口には合わず、あまり売れなかったそうです。


■新規開業のウイスキーのクラフト蒸溜所の場合《パターン①》

3年間までは熟成させていない「若い原酒を売る」という方法を取っているクラフト蒸溜所が、結構多いです。

まず、「全く木樽熟成をさせていない透明なウイスキー原酒」(ニーポッドといいます)を、そのまま「ニューポッド」として発売するケースがあります。
ただ、これは蒸溜所に行った際のお土産的な販売で、熟成させていない「荒々しい・刺々しい味わい」のため、あまり大々的に売り込むケースは多くはないようです。
 
一方で、「3年未満であるが木樽熟成させたウイスキー原酒」を売るというケースもあります。
「ニューポッド」の販売より、こちらの方が多いように思います。これは「ニューボーン」というネーミングで売られることが多いです。
(日本では、法律として3年以上熟成が規定されているわけではありませんので、3年未満でもウイスキーとして販売しても法律違反ではありません。しかし、クラフト蒸溜所がウイスキーを新発売する場合は、世界の通例に倣って、3年以上の熟成をさせてから発売することが一般的です。)
 
ニューボーンならば、その蒸溜所の将来のウイスキーの「味わいの方向性=ハウススタイル」も、うっすらとわかってきます。
また、通常は蒸溜開始4年目以降には、こういった「ニューボーン」を発売することはなく(通常のウイスキーとして販売する)、希少性もあるので、結構人気があるイメージです。

また、「この新規蒸溜所をサポートしたい!」というウイスキーファンが購入するケースも多いと思います。


■新規開業のウイスキーのクラフト蒸溜所の場合《パターン②》

原酒の製法はウイスキーと似通っているので、木樽熟成の必要のないお酒=「ジン」を売って、キャッシュを得るというやり方があります。
これは、世界中の新規開業のウイスキー蒸溜所の定番パターンになりつつあります。

本場スコットランドで、2013年に、当局を説得しやっとのことで開業した、前例のない「小規模」クラフト・ウイスキー蒸溜所である『ストラスアーン蒸溜所』で、この「まずはジンを販売する」というやり方が行われました。
これが成功し、日本を含め、世界中のウイスキーづくりへの参入の際には、「まずはジンをつくる」という流れができました。


■ラ・ピーニャ・ディスティラリーの場合

パイナップル・ブランデーができあがるまでは「ジンをつくるのかな?」と思いましたが、答えは「ウォッカ」です! 
パイナップル・ウォッカ!!
ジンではなくウォッカという、ちょっと斜め上を行っている感じが良いですねー。
 
ご案内いただいたスタッフさんにお聞きした話では、以下の通りです。

蒸溜したての木樽熟成させていないパイナップル・ブランデーを「ホワイトブランデー(ウイスキーでいうところのニューポッド)」として売ろうとしたところ、味がトゲトゲしく、「売りモノ」としては厳しいと判断し、販売を断念。 

ここでウォッカのことが頭をよぎります。
ウォッカも元来、蒸溜したてのものは飲みづらい酒質ですが、白樺でろ過することでマイルドになり、ウォッカというお酒カテゴリーが確立されました。

じゃあ、「白樺でろ過してみれば?」と白樺ろ過を実施したところビンゴ!
商品化できる味わいへと仕上がりました!!

「売りモノ」として成立する酒質となり、パイナップル・ブランデーの前に、パイナップル・ウォッカが誕生したというわけです!
このパイナップル・ウォッカ、すでにこの蒸溜所限定で、売られています!


■次回は・・・

うんちくばかりで、なかなか蒸溜所見学の報告にたどり着けませんが、次回は、いよいよ見学報告です!

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