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二つの世界が重なりあう

今までも時々ご紹介してきた、上橋菜穂子さんの守り人シリーズ。
今さら説明するまでもないほど有名な作品です。

守り人の舞台設定では、物語の舞台となる世界の他に、別の世界ナユグ(ノユーク)が重なり合うように存在しています。主人公(の一人)、チャグム皇太子は、二つの世界を見ることができる珍しい存在です。

ごく、ごくまれに、地上の民に、そういう者が生まれると聞いたことがある。ノユークとこちら側と、両方に身体を置いて、生きていくものがいると。……あんたは、それだろう?あの岩山では気づかなかったが、今ここで見ると、あんたの身体が両方の世界に重なっているのが、よくわかる。

上橋菜穂子『天と地の守り人』偕成社

作品のあちこちに、二つの世界が重なる描写が登場し、ビジュアルな描写が展開されます。

私の勝手なイメージですが、noteの中で、守り人の2つの世界のイメージとよく似ている、という作品に出逢いました。今日はそれをご紹介したいと思います。

水の中なのか空中なのか

「ここは、濃紺に近い暗い青の、澄んだ水の中です。ここは海の中なのです。さっき、外にいた時に、気づきました。私たちの世界ではここは山の底ですが、ノユークでは、ここは海なのです。春か彼方まで、海が広がっているのを見ました。
 今、ここでは、ぬるい海水の中を、たくさんのふしぎな形をした精霊たちが、ぼんやりと光りながら、舞うように泳いでいます。その……。」
ちょっと口ごもってから、チャグムは、赤くなりながら、早口に行った。
「……彼らは、つがっているように見えます。」

上橋菜穂子『天と地の守り人』偕成社

チャグムが、ナユグの様子を問われて、彼だけが見える目の前の光景を語る場面です。

存亡に瀕した自国を救わなければならない皇太子チャグムは、時に、生命が躍動する美しい異世界に引きずり込まれそうになります。それほど美しい海の中の景色と、チャグムが立っている山の中の景色が重なり合うこの場面。もちろんそんな景色を本当に見ることはできませんが、note の中で、この場面をイメージさせる写真に出逢いました。

ウグイの産卵行動が始まる時期を狙い、望遠ズームレンズを装着した一眼レフで、魚が跳びはねた瞬間を捉えたウグイの姿です。
紺青の水と白い水飛沫、朱色の婚姻色に身体を染めたウグイの姿がカメラにとらえられています。
「ウグイが泳いでいるところが水の中なのか空中なのか錯覚してしまいそうな写真」と、記事にも書かれています。そんな魚の姿が、守り人に出てくるナユグ(ノユーク)の生き物たちを彷彿とさせます。

豊かな実りをもたらす川

もうひとつ、別の場面をご紹介します。

ノユーク、ナユグ、ナユーグル。……この世のむこうにある異界を、人はさまざまに呼んできた。われら呪術師でさえ、しかと見ることのかなわぬ世界。おなじ1つの世界なのか、そうでないのかさえ、さだかでないのは、おまえならよく知っていることだろう。
……
ノユークが春になると、膨大な雪どけ水が生じる。母なる神アファールは、その豊かな滋養に満ちた水を、ほかの世界に流し、恵みを分けあたえているのだと。
 実際、目には見えなくとも、ノユークから流れきた川がうるおした大地は、それまでより豊かな実りをもたらした。

上橋菜穂子『神の守り人』偕成社

ナユグに流れる見えない川が、こちらの世界にも流れてきて大地を潤すことが語られる場面です。

現実の世界でも、川を見ていると、水面に映る景色や、透明な水の底に見える水底の景色など、別の世界を見ているのではと錯覚しそうな気持ちになることがあります。
2つの世界を流れる川を見ているような気持ちになる川の絵をご紹介します。


今回ご紹介した写真と絵、表現媒体は違いますが、どちらも拝見した時に、語る言葉を失うほど感動しました。画面ごしに見てもこれだけのパワーを持って迫ってくる作品たち。実物はさぞかし、と思います。

大好きな守り人シリーズと一緒に、大好きなnoteクリエイターさんたちの作品を紹介させていただきました。

もしご覧になっていない方がいらっしゃいましたら、どうぞリンク先を訪れてください。この世のものでありながら、異世界のように思える景色を垣間見ることができます。

参考:クリエイターさんたちのプロフィール


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