29 たとえ明日、母が滅びるとしても私は母を保湿する
「この身体、どうせ焼かれるんだから
もういいんだよ」
私が、母の身体に保湿クリームを塗っているときだった。
そんなこと言わないでくれよ、と思いながらも私は直ぐに返した。
「そんなの、みんな同じだよ。私だって焼かれるんだから。」
明日、母は死ぬかもしれない。
それでも私は母の身体を保湿する。
あれじゃん、ルターが言ってたやつ。
『たとえ明日世界が滅ぶとしても私はリンゴの木を植えるだろう』
同じことしてる、あたし。
でも、あたしだって、みんなだって
生きていたら明日、命が終わるかもしれない。
てことは、みんなルターな毎日を過ごしてるんじゃないか。
この世で唯一、絶対と呼べるもの
それが死だ
「この世の絶対が、この世で一番悲しいことだなんて、なんて残酷なんだろうね。」
私が、母の余命宣告を受けてから友達に漏らした一言。
でも、今だから言えることがある。
明日、もしかしたら数時間後、数分後に、
この世から居なくなってしまう母と過ごしてみえたこと。
2ヶ月半前には分からなかったこと。
「この世の絶対が、この世で一番悲しいことだからこそこの世には、愛があるのかもしれない。」
愛があるから、きっと、
ルターもりんごを植えたくなるんだろうな。
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