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医者というイキモノに瞳孔が縮んだの巻

看護師になりたてのころ。
すでに腰痛持ちの私と、
誰がどうみても妊婦の先輩が、
ヘルプを呼ぼうと周囲を見まわした。
ガタイのいい患者を、
ストレッチャーからベッドへ移さないといけない。
 キョロリとしたら、男性の主治医が目配せをして寄ってきた。
(おお。キザだがカッコいい。)
哲学者のようにこなれた白衣。
クールで知的な表情。
アメフト選手だったというがっしりした腕。
先輩と、ホッと視線を交わした瞬間、
2人ともそのまま瞳孔が縮んだ。
(瞳孔は緊張すると縮みます)
主治医が「手伝うよ。」と言って、
手際よく点滴のボトルをつかんだからだ。
白衣はよれて見え、
すきま風が流れ、
無神経な醜いカエルに変わった。
そう、大きな患者を抱えて移すのは、
カッコいい王子様ではなく、
腰痛だろうが妊婦だろうが「看護師のお役目」なのだと一瞬で思い知らされたからだ。

若い女子としては、
コンビニの袋ですら男性が持ってくれたので、衝撃だった。

高校生の時、
中流の普通の女の子が
ヨメというイキモノにならず、
包丁一本サラシに巻いてどこでも生きていく仕事は、
看護師しか思い浮かばなかった。
そこそこ理系も得意だったし、高い倍率の入学試験を勝ち抜ける自信もあった。
世の中を知らない小娘にとって、
社会で初めて出会う頭脳優秀高学歴勝ち組の医者は眩しかった。
 この一件で魔法は解けたのか、
医者というイキモノへのキラキラしたフィルターが消えた。

*書き足し*
先輩とぶぅぶぅ文句を言ったので、
主治医があわてて先輩にボトルを渡し、
私と患者を移動してくれたことを
弁解しておきます。
その後、イキモノではなく「人」として
一緒にお仕事できました。

また、私もその後、ヨメと呼ばれる人になっています。


 

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