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小説

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#ミスiD

【小説】お正月と女子

2022年1月1日午後2時、明治神宮は人の海だった。気を抜くと知らない誰かと肩がぶつかり、鞄すらどこかに行ってしまいそうだったので肩にかけたトートバッグを左手で直して歩く。右手はこの間のクリスマス前にできたばかりの彼氏、タケルの左手を掴んでいた。昼前に集合していつものようにサイゼリヤでご飯を食べたあと、話の流れで初詣に来ることになったけどこんなことになるなら来なきゃよかった。お互い実家住みだけど、

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【小説】クリスマスと女子

クリスマスは嫌いだ。
毎年この季節になるとスーパーでは浮かれた音楽が流れ、心なしか手を繋いで歩くカップルが増えるような気がする。みんながみんな浮かれていて、少しでもそこに水を差すようなことを言えば「斜に構えている」と取られてしまうようなそんな時期。私はクリスマスが嫌いだ。

そんな私は今、所狭しと並べられたクリスマスの飾りに囲まれて、ぼんやりと店内を眺めながら座っている。閉店後の店内は薄暗く、クリ

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夕立

夕立を眺めている。
「晴れていますが?」とでも言いたげな空から落ちる雫たちを、二階の部屋の窓からぼーっと眺めている。綺麗だ。もし今外に出たら、雨の冷たさに打たれてそんなこと言えなくなるんだろうな。この場所から見る夕立が、一番綺麗だ。

外の路地を、母親であろう女性に手を引かれた小さな女の子が通る。女性の持った大きな傘に一緒に入る女の子。その女の子はちょうど私の家の前辺りに来ると、母親の手を振り払っ

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革命

「歴史の教科書は起こされた革命だけでできているけれど」と彼女は言った。時間がゆっくりと進む水曜日の放課後。卒業式のリハーサルだけで終わった1日は物足りなかったのだろう、クラスメイトはみんな仲の良い友達を連れてゲーセンに行ってしまった。西日が彼女の黒髪を撫でる。
「たとえ成功しなくても、革命を起こそうとしたその瞬間だけは、変わらない事実なんだよね」
「なにそれ」
笑う俺に彼女は少しムッとした表情を見

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【小説】六人家族

お父さんが二人になった。お母さんが家を出ていった次の日のことだ。

七時の目覚ましが鳴って一階に降りたら、お父さんが掃除機をかけていた。僕は大きめの声で「おはよう」と声をかけると振り向いたお父さんはいつもの笑顔で「おはよう」と言った。僕は掃除機をピョンと跨いでリビングのドアを開けた。
「おはよう」
そこにはエプロンをしたお父さんがいた。お父さんが持っているお皿の目玉焼きがぷるんと震える。振り返ると

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【小説】花火師

コンクリートを打つ雨がキラキラと音を立ててまわった。タキはそのなかで歌い、踊りながら笑った。

俺の仕事はカタマリを地上に落とすことだ。そして跳ね返ってきたカタマリを回収すること。カタマリはすぐに跳ね返ってくることもあれば、100年くらい経ってから跳ね返ってくることもあった。忘れた頃に雲の隙間からぽーんと飛んでくるカタマリを、慌ててキャッチすることもある。

カタマリのことを人間は「命」と呼んだ。

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【小説】ファイター

ハァ、ハァ、ハァ、
荒い呼吸で、これでもかという量の酸素が全身を駆け巡る。真っ暗な闇の中をひたすら走る。後ろから数人の男が迫ってくる。
やめてくれ、追い詰めないでくれ、助けて、助けて…

「助けて!!!」
突然聞こえた叫び声で目が覚める。低い天井に、電球と紐。もう12月だというのに俺は全身にびっしょりと汗をかいていた。肩で息をしながら、ゆっくりと上半身を起こす。カーテンの向こうはまだ暗い。時計を見

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【小説】文章のない世界で

2221年、文章がなくなった。
文章のコンテンツの衰退は2100年代から始まったらしいが、詳しくは知らない。文章がなくなった、という言い方をするのは世界で最後の本屋が潰れたからだ。本屋と言っても紙に冒頭だけ印刷された書籍見本が並ぶ店である。客はそこで電子書籍を買っていた。

電子書籍が流行っていた時代があったらしい。そしてその昔は分厚い書籍を嗜んでいたらしい。俺の親が10代の頃、「若者の文章離れ」

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【小説】改札になった男

誰も喋らないくせに「うるさい」という言葉がぴったりの雑踏をぼんやりと眺める。俺の両脇を早足で通り抜ける人、人、人。地球上のどこに収容されていたのかと思うほどの人数が同じ方向に進む様はまるで軍隊、いや何かの儀式のようだった。その異様さも今では慣れたものだ。頭上で鳴り続ける「ピッ」という音をBGMに目を閉じる。

24歳の誕生日翌日、俺は事故で死んだ。
飲み過ぎないでよ、と見送ってくれた彼女、ユイの忠

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文章のない世界(仮)

はじめに

これは未完成の小説です。100の完成形を出したかったのですが、0よりは1を、何もしないよりは足掻くことをと思い、公開します。弱くても愚かでも、泣き喚くことならできます。よろしくお願いします。

2221年、文章がなくなった。
文章のコンテンツの衰退は2100年代から始まったらしいが、詳しくは知らない。文章がなくなった、という言い方をするのは世界で最後の本屋が潰れたからだ。本屋と言っても

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【小説】宇宙レター

彩花はいつも宇宙と交信している。
俺はペンを置いて、便箋を二つ織りにした。
彩花は俺の幼なじみである。
便箋を封筒に入れ、のりで閉じる。
彩花の宇宙との更新方法はなかなか斬新で、科学者もびっくりすることだろう。
俺はその手紙を持って玄関を出た。

「ほい、来てたぞ」
「海斗!ありがとう」
近所の公園で先に待っていた彩花に先ほど作ったばかりの手紙を渡す。彩花はそれを受け取ると、俺に背を向けてびりびり

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【小説】お子さま天使

「君の翼をもぎたい」

チアズの配信に来てくれた人と、ゼロからお話を作りました。とても楽しかった!その節はありがとうございました。

■原案者(五十音順)
おーすかさん
デコポンさん
はしこ。さん
ひいらぎさん
ぽれしさん
ゆらぐまりあ(先生)さん
無限
(もし見落としてしまっている方がいらっしゃいましたらすみません、名乗り出てくださると嬉しいです)

■肉付け
無限

テーブルに置いていたスマホ

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【小説】夜をつくる人

この世界には沢山の職人がいる。
そば打ち職人、鍛冶職人、左官職人、挙げればきりがないが、生活に必要なものを作り出す職人は、この世界にとってなくてはならない存在だ。
しかし、この世にはもうひとつの職人社会があることをご存じだろうか。俗に言う職人が生活を回す職業を意味するのであれば、こちらは地球そのものを回していた。これは比喩ではない。その中の1人が私だ。

私は夜をつくる職人だ。
もちろん反対に、朝

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【小説】ギャルの定義

あたしはギャルじゃない。
そりゃ見た目はギャルかもしれない。今時こんなに短いスカートを履いてるのはあたしくらいだし、週一でルーズソックスも履く。朝イチで担任に没収されるから、正確には週一の通学路のみ。今年の夏休みには初めて髪の色を抜いた。それで青くした。めんどくさいからそのまま登校日を迎えたら、担任の顔が一気に真っ青になって笑えた。親に連絡したけど、結局繋がらなかったらしくて、次の日までに黒くする

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