夕立

夕立を眺めている。
「晴れていますが?」とでも言いたげな空から落ちる雫たちを、二階の部屋の窓からぼーっと眺めている。綺麗だ。もし今外に出たら、雨の冷たさに打たれてそんなこと言えなくなるんだろうな。この場所から見る夕立が、一番綺麗だ。

外の路地を、母親であろう女性に手を引かれた小さな女の子が通る。女性の持った大きな傘に一緒に入る女の子。その女の子はちょうど私の家の前辺りに来ると、母親の手を振り払って傘から飛び出した。そしてそこでくるりと一回転してみせた。

ああ、この子は、この夕立を心から楽しいと感じているんだな。雨に濡れる寒さと、その後にひく風邪のつらさなんて何も知らなくて、ただこの綺麗な夕立が、楽しいんだろうな。

女の子は母親に手を引かれて傘の中に戻り、そのうちに見えないところに行ってしまった。

ここから見る夕立は綺麗だ。雨に打たれる冷たさも、風邪をひく可能性もなくて、ただただ綺麗なだけの景色。女の子の顔を思い出す。あんな表情を最後にしたのはいつだっただろう。

私はもう夕立が綺麗なだけじゃないことを知っている。冷たくて、寒くて、愛せないものだってわかっている。外の世界に夢なんか抱いていない。あるかもわからない希望になんてすがっていない。

でも私はたぶん、雨の匂いを知っている。夕立が来そうな匂いだって嗅ぎ分けられるし、雨が染み込んだ土の匂いを、ちゃんとわかっている。あの女の子よりきっと、夕立の本当の形を知っている。

雨が上がる前に外に出ようと思う。たまには雨に打たれてみるのもいい。帰ったらちゃんと湯船に浸かって、身体をあたためれば風邪だってひかないだろう。
もう私、ここに夢なんて抱いていない。冷たくて厳しくて美しい世界を真正面から見つめて、自分の足で生きていこうと思う。

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