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帰りのうた

私の通っていた小学校では、帰りの会(ホームルーム)の最後に「帰りのうた」という時間があった。
音楽の時間に流すような童謡ではなく、Jポップなど流行りの曲を流してクラスみんなで歌うコーナーである。
例えば、当時流行っていた岡本真夜の「TOMORROW」などをみんなで合唱して非常に朗らかで牧歌的な時間が流れた。
曲のセレクトは基本は挙手制。生徒がアイデアを出して決め、しばらくその曲を使うルールであった。

そんな中、当時お笑いが大好きでダウンタウンのごっつええ感じにハマっていた私は、「ああエキセントリック少年ボウイ」という歌を推挙した。
男の子たちから絶大な人気を得て決定し、CDを持ってきて流した。

今聞くと小学生には少しおませな内容だなと思うが、クラスは爆笑につつまれ私は悦に入った。

ところが、翌日担任の先生から待ったが入った。「ニイハオはアホほど湯を沸かす、ニイハオはアホほどティッシュを使う」というフレーズに使われている「アホ」というワードが不適切というものだった。
そういえば、この曲を聞いている時の先生の顔はまさに苦虫を噛み潰したような顔をしていた。もはや、タガメくらいの昆虫を噛み潰していたような感じだった。
私はせっかく自分が好きな曲をみんなで歌って、みんなが笑顔になってくれたのにそれを取り下げるのは悔しくて抗議したが、結局は大人の強権によって取り下げられた。

「帰りのうた」は非常に人気コーナーで、自分のリクエストが採用される機会も少ない。そんなチャンスをふいにされてしまい、失意のどん底に落とされた。
その後も納得のいかない私は、もう1度自分の好きな曲を帰りの会で流したいと思い、リクエストを続け、そしてついに、再び私のリクエスト曲が採用された。

選ばれた曲は、B'zの「さまよえる蒼い弾丸」だった。

当時おませだった私は、親の影響で小学生ながらB'zのファンクラブに入っていた。
大好きなB'zの曲をみんなで歌って、「きみ、センスいいね!」と言われたい!「ああエキセントリック少年ボウイ」の汚名返上を果たしたい。
私のB'z愛、帰りの会をハックしたいという野心が、蒼い弾丸となって帰りの会を撃ち抜こうとしていた。
そして、ついに待ちに待った帰りの会。意気揚々とラジカセのスイッチをONした。

ところがどうしたことだろう、クラスの反応がよくない。
あまり盛り上がっていない。
そう、「さまよえる蒼い弾丸」は小学生の合唱曲には不向きだったのだ。

この時のクラスメイトの表情をみて「困惑」という言葉を覚えた。
稲葉さんの高音と、ロックなテンションに誰もついて来れていない。
そんな光景をみて自分もなんだか恥ずかしくなってきて、声を発せなかった。蒼い弾丸は黒板に跳ね返って、私の胸を撃ち抜いたのだ。

「帰りのうた」は、なんだか気まずい雰囲気のなか、「さまよえる蒼い弾丸」をありがたく聞くコーナーと化してしまった。
しかも、この曲には待ったがかかることなく、その後しばらく「帰りのうた」として採用された。

この出来事を通し、自分の好きを発露する責任や、強い気持ちを持たないといけないことを学んだ。
そんなこんなで、私はSNSに投稿するのが苦手だ。

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