見出し画像

だれかの「新大陸」を見つける

<はじめに>

コロンブスは、1492年10月12日に『新大陸』を発見したのかも知れないけど、負けずに私は、2021年6月1日(昨日ね)に町子さんの『新大陸』を発見した。


2つの共通点は、コロンブスの新大陸も町子さんの新大陸も元々そこに在ったものだったということ。つまり、誰かがそれを発見して認識してくれなきゃ、無いってことになってしまうということ。

<町子さんのこと>

町子さんは、70歳代の女性。息子様一家と暮らしている。脳梗塞後の言語障害(構音障害)や誤嚥性肺炎がある。現在、ベッドに寝たきりの生活となっている。「あ、はい」「あ、そうですね」という簡単な言葉は出てくる。1日中、栄養の点滴に繋がれ、日中は、ワイドショーか韓流ドラマのDVDがアニョハセヨーと流れている。来る日も来る日もその繰り返し。


受け持ち制ではないので、以前はよく行っていたけど、最近は、年に数回程度しか私は訪問の機会がなかった。
血圧が低かったり検査データが芳しくない状態とは聞いていたけど、久々にお会いした町子さんは、いつものようにいつもの場所で品よく笑顔で迎え入れてくれた。

<町子さんの新大陸発見>


尿管カテーテルの交換や口腔ケアなどの一連のケアが済んだ後、ベッド上でできる簡単なリハビリをやってみた。グーパーをしてみたり手を組んで上に挙げてみたり、私の動きをよく見て、一生懸命ついてきてくれていた。指折りもしてみると辿々しい感じはあるけど、ご自分の指をじっと見つめながらゆっくり順番に折ることができていた。

その時、また、私の打ち出の小槌から何かが飛び出してきた。
ん?これができるってことは、何かできるんじゃね?(すぐ、若者言葉を遣おうとする)と思った。

そして訪問バッグの中をガサゴソ探し、A4のコピー用紙を1枚取り出して、チョキチョキと正四角形に切ってみた。
そして、「町子さん、これで鶴を折ってみませんか?」と提案したら、町子さんは、キラキラお目目で頷いてくれた。
その四角い白い紙を手に取った町子さんは、指折りの時には、辿々しかったのに普段の町子さんからは想像がつかないくらいのテキパキした感じで鶴を折り始めた。

黙々と、指も止まることなく折っていた。
「町子さんの病気が良くなるように元気な鶴を折りましょうね」というと「あ、そっか・・・」と折り鶴の意味を思い出したような表情になり、さらに一生懸命折っていった。
みんなにもこの奇跡的な瞬間を分かち合いたくて、動画を撮らせて頂いた。
もう、すっかり嬉しくなった私は、〈キッチンの換気扇の下でのんびりタバコを吸っている場合じゃない息子さん〉を呼び出した。吸いかけたばかりのタバコを消して、お母さんが鶴を折る姿を見てもらった。

〈キッチンの換気扇の下でのんびりタバコを吸っている場合じゃなかった息子さん〉もびっくりしていた。「こんなことができるんですねぇ。毎日DVDばっかり見せてるだけじゃダメでしたねぇ」と言いながらずっと見ていた。
途中、町子さんが折り方を少し間違えると、〈キッチンの換気扇…中略…息子さん〉が優しく「そこじゃなくてこっちを折るんだよ〜」と。
町子さんは、「あ、そっか」と言った。〈キッチン息子さん〉が、折り鶴の折り方を知っているのもなんだか微笑ましかったけど、きっと小さい頃に町子さんに教えてもらったんだろうなぁ。それが、時代を経て、今は、町子さんに教えてあげている。

そして、お二人の合作の町子さんの記念すべき鶴の第1号が完成した。
白い鶴もいいけど、町子さんは女子なのでちょっと可愛いハートのシールも一緒に貼った。町子さんは、なんでそこに貼る?というちょっと見えにくい鶴の首の後ろにハートを貼っていた。
(その日、シールは、2回目の登場で、さっきも味気ない尿管カテーテルの蓄尿する袋に柔らかい色合いの星印のシールをデコったばかりで、町子さんにこの袋、可愛いでしょ?と自慢して見せていた。)
鶴とのツーショット記念写真も撮った。

画像1


最初は、町子さんに教えてあげながら鶴を一緒に折れたらいいなぁと思い、提案したけど、結局、私は手を出す場面はなく、全部ご自分で折り上げた。
なんという過小評価をしていたのだろう!と思った。
こんな宝、いや新大陸がありながらずっとずっと眠らせていたなんて。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

職場に帰ってから、最近、訪問によく行っていたスタッフのみんなに動画を見てもらった。
一同、目が点になっていた。
三つ子のようにみんな「え〜!!!!!す、すごい!!!」と。そして、みんなも新大陸発見を祝福してくれた。

すぐに調子に乗る私は、次なる作品を作って欲しくて、思わずポチった。



翌日、届くらしい。Amazonさんありがとう。


<横道にそれてちょっと「自立」と「自律」の話>

この折り紙の中から町子さんに選んでもらおうと思う。この選ぶとか、或いは、町子さんにハートのシールを貼る位置を決めて貰うのは、省きたくないプロセス。

何故なら、町子さんのような身体状態だとご自分では、動けない為、日常生活動作を「自立」することは難しい。

でも、「自律」はできる!
動けなくて「自立」が困難な方には、せめて「自律」できるよう支えて行けたらいいなぁと思っている。

「自立」とは
他の助け、支配・介助無しで一人で物事を行うこと
「自律」とは
自分自身で立てた規範に従って行動すること

町子さんの場合、折り紙を買いに行くことはできないけど、ご自分の意思で折ってみたい折り紙を選んだり、折ってみたいものを決めることはできる。自分で決めるということが大きなポイント。

1つ、例をご紹介したい。難病の50歳代の女性。話せないし、手もほとんど動かない方がいらっしゃる。言葉は話せないけど、私達が言っていることはちゃんとわかっていらっしゃるかた。常に顔の筋肉が緊張状態にあるため、わかりにくいけど、まばたきか、或いは、指の数ミリの動きでYes、Noを判断している。永久気管孔のガーゼエプロンを毎日交換している。このエプロンの種類が豊富でポップなものから女性らしい花柄のものまで20枚くらいストックがある。私は、彼女がこの選ぶ時間を楽しみにしてくれているような気がして、毎回、時間をかけて彼女に選んでもらっている。20枚を1枚ずつ伺っていくのは、きっと彼女も疲れるので、グループ分けして聞くようにしている。一生懸命まばたきをしようとされるけど、中々、読み取れない時もある。でも、いざ最後の1枚が選ばれると「いいですね。今日は、赤い花柄にしたんですねぇ。私もそれいいなぁと思っていたんです」っていう会話をする。彼女が選んだ気に入ったエプロンを毎日付けて欲しい。

車椅子でお散歩に行くときにも右に行きたいか左に行きたいかを聞く。ちゃんと行きたい場所があり、教えてくれる。
病状によって自立ができない人はたくさんいるけど、「自律」はこうやって支えることができる。意思疎通がはかりにくいかたは、押し付けのケアになっていることだってあるかもしれないと、常に思っておくくらいがちょうどいい。

私たちが、良かれと思って勝手に作り上げるものではなく、その人自身が選ぶ作業に参加してご自身も一緒に作り上げたその人らしい生活に近づける気がする。

・・・・・・・・・・・☆・・・・・・・・・・・☆・・・・・・・

〈おまけの新大陸〉

話を新大陸に戻そう!

新大陸繋がりでもう一つ、おまけに。

町子さんの訪問と同じ日、認知症があるテツさん(仮名)のところに訪問して、入浴介助を行った。同じ日に2つの新大陸発見!

この方の訪問も半年ぶりくらいだった。テツさんは、大黒様のような風貌とご性格(ま、大黒様の性格は、よー知らんけど)でいつもニコニコしているけど、ほぼほぼ居眠りをされている。声をかけると「あー」と言ってにっこり笑って我にかえるという繰り返し。

そんなテツさんに浴槽の中で若い頃にやっていた詩吟を歌ってくれないかとリクエストした。「え〜、詩吟ですかぁ」と目をクシャっとさせて照れた。照れてたかと思っていたのに次の瞬間、テツさんは、目を瞑りえっらい気持ち良さそうに歌い始めた。紋付き羽織袴で登場する人みたいな感じで、これまためちゃくちゃ素敵な立派な声で歌い始めた。

私は、のけぞる、のけぞる!!浴槽なのでエコーもきいていて伸びもよく、心不全はどこへやら。あんなに長いブレスができるなんて。さっきまで椅子に座ってウトウトゆりかごに入っていたテツさんとは別人になっていた。

入浴後、奥様に報告すると、「あら、私なんて何十年も聞いてないのに。そんなにすごかったの?」と羨ましがっていた。へへ…、いいでしょ。

・・・・・・・・・・・・☆・・・・・・・・・・・☆・・・・・・・

<まとめ>

看護とかは関係なく、人は、宝物をいっぱい持っていると信じている。
だけど、高齢になったり、心身の病気になったりするとそれが発見されにくい場合がある。本人も気づかないし、周りも気づかず、或いは、諦めてしまっている場合もある。
その「思い込み」は、予測として必要なこともあるけど、時として邪魔をしてしまうことがある。
せっかくそこに在るのに。

医療•介護の世界では、その人の残存能力に気付き、最大限にのばしていく援助が必要と言われている。

きっと、新大陸を発見しようと思っている人の前には、きっと輝かしい新大陸が待っているはず。

そして、当然、発見して終わりではなく、その新大陸を輝かせていくことが双方の喜び!本来のその人に近くにいけそうな気がする。

✳︎イラストは、コロンブスの卵より進化した『コロンブスの目玉焼き』仕様にしてみました。





ありがとうございます😭あなたがサポートしてくれた喜びを私もまたどなたかにお裾分けをさせて頂きます💕