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  • 笑ってくれないあさひくん

    まとめました。

記事一覧

【笑ってくれないあさひくん】 #23

勇太の過去 6  知らない人がお家に入ってきた。  その人はキッチンでお茶を飲んでいる僕を見て、少しびっくりした顔をしてから「ハウスクリーニングで参りました」とお…

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【笑ってくれないあさひくん】 #22

勇太の過去 5  新しい生活。新しいベッド、新しい勉強机。  ベッドの周りには新幹線のぬいぐるみが、机の上には見たことのないゲームや本が置いてある。  前に泊まり…

悠木ゆに yune
2週間前
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【笑ってくれないあさひくん】 #21

勇太の過去 4  気がついたら、布団の中だった。  昨日、あのまま眠ちゃったんだ。隣を見たらじいちゃんがいなかった。眠い目をこすりながらじいちゃんを探しに行くと、…

悠木ゆに yune
3週間前
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【笑ってくれないあさひくん】 #20

勇太の過去 3  それから、じいちゃんと僕の生活はあっという間に過ぎていった。  じいちゃんは入院の準備を、僕は『お父さん』の家に行く準備を。じいちゃんはいつ帰っ…

悠木ゆに yune
3週間前
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【笑ってくれないあさひくん】 #19

 次の夏、ばあちゃんが死んだ。  ばあちゃんに「畑からきゅうり取ってきて」と言われ、畑で大きいきゅうりを見つけたからばあちゃんびっくりするぞ、とスキップしながら…

悠木ゆに yune
3週間前
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【笑ってくれないあさひくん】 #18

 静かな家、読めないラベルの酒、テーブルの上に置かれた金。週に一回、小学の頃は五千円、中学の頃は一万円、高校に入ってからは月に五万円が置かれるようになった。  …

悠木ゆに yune
4週間前
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【笑ってくれないあさひくん】 #17

 今日はバイトが休み。  ママとリビングでゴロゴロしながら映画を観ていたら、玄関からドアを開けるような音がした。  パパは凪の試合を観に行っているはずだし、ハルは…

悠木ゆに yune
1か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #16

 翌日、学校終わりに駅裏のカフェに寄ってあさひくんと二人、わたしは抹茶のパフェ、あさひくんはチョコのパフェを頬張っていた。抹茶とチョコで悩んでいたわたしに「二つ…

悠木ゆに yune
1か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #15

 次の日、学校もバイトも休みだけど部活の試合がある凪のお弁当をつくるために早起き。  いつもつくっているママが不在だから、代わりに私がつくる、といってもおにぎり…

悠木ゆに yune
1か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #14

「いらっしゃいませ。サブさん、こんにちは」 「柚ちゃんヤッホ〜。いつものくださいな」 「は~い。サブさん、昨日、家でパウンドケーキ作ってきたんだけど食べる?」 「…

悠木ゆに yune
1か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #13

 学校が終わって久しぶりに四人揃って帰宅。  ちーちゃんが入っている調理部は月に数回しかないから一緒に帰ることが多い。  あさひくんと勇太くんは週に数回サッカー部…

悠木ゆに yune
2か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #12

「柚ちゃん、ごめん、今日お昼一緒に食べられないや」 「部活?」 「そう、集まってご飯食べるんだ。もし良かったら柚ちゃんも一緒に食べる?」  朝の登校中に駅のホーム…

悠木ゆに yune
3か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #11

 ちーちゃんとカフェに行く約束だったけど、急遽バイトが入ったらしくて延期になった。  雨も降ってるし、することないし、ベッドの上でゴロゴロ。夕方まで降るのかなぁ…

悠木ゆに yune
3か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #10

「ちづ、誕生日おめでとう」 「ちーちゃん、誕生日おめでとう」 「姉ちゃん、誕生日おめでとう」 「ありがと~!!」  ちーちゃんの誕生日会。  本当は来週が誕生日だけ…

悠木ゆに yune
3か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #9

 ホームルームが終わり、ちーちゃんがわたしの席に来て「柚ちゃん、今日バイトも委員会もないよね?」「みんなでファミレス行かない?」って。 「あれ、あさひくんたち部…

悠木ゆに yune
3か月前
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【笑ってくれないあさひくん】 #8

「……ず……ゆず!柚!」 「……ん、なに」 「いつまで寝てんの、もう14時だけど」 「え、もうそんな時間……まだ寝れる……」 「買い物行くんじゃねーの?」  ん~、と…

悠木ゆに yune
3か月前
8

【笑ってくれないあさひくん】 #23

勇太の過去 6  知らない人がお家に入ってきた。  その人はキッチンでお茶を飲んでいる僕を見て、少しびっくりした顔をしてから「ハウスクリーニングで参りました」とお辞儀をした。僕も「こんにちは」ってご挨拶をしたら「さっそく始めさせていただきます」とすぐに掃除の準備をする。  僕は急いで自分の部屋に戻る。  知らない人がお家にいるって、何だかソワソワする。部屋の中にある本を読んでみようかな、おもちゃで遊んでみようかな。いろいろ考えてみるけど、違うお部屋で音がすると気になっちゃ

【笑ってくれないあさひくん】 #22

勇太の過去 5  新しい生活。新しいベッド、新しい勉強机。  ベッドの周りには新幹線のぬいぐるみが、机の上には見たことのないゲームや本が置いてある。  前に泊まりに来たことがあるお家とは違う、もっと広くて大きいお家になっていた。「ここが勇太の新しいお部屋だよ。前のマンションだと狭いからね、少し前に引っ越したんだ」これからここで暮らす勇太のために、新しく何から何まで揃えたんだよ、と『お父さん』が話してくれた。 「お腹空いてない?お父さんたちは仕事に行かなくちゃいけないんだ

【笑ってくれないあさひくん】 #21

勇太の過去 4  気がついたら、布団の中だった。  昨日、あのまま眠ちゃったんだ。隣を見たらじいちゃんがいなかった。眠い目をこすりながらじいちゃんを探しに行くと、じいちゃんは縁側に座って、畑を見ながらコーヒーを飲んでいた。外は夜か朝か分からないけど、じいちゃんがコーヒーを飲むのは朝だけだから、きっと朝だ。ゆっくりじいちゃんの背中に抱きつくと、じいちゃんは身体をビクッとして「なんだぁ、勇太かぁ。びっくりしたぁ」と僕の腕を優しく撫でる。 「じいちゃん、早起きだね」 「んだよ

【笑ってくれないあさひくん】 #20

勇太の過去 3  それから、じいちゃんと僕の生活はあっという間に過ぎていった。  じいちゃんは入院の準備を、僕は『お父さん』の家に行く準備を。じいちゃんはいつ帰ってくるか分からないって言ってたけど、きっとすぐ帰ってくる。  じいちゃんは大きい鞄に洋服を、小さい鞄には三人で撮った写真と僕が描いた絵がいっぱい入っていた。 「じいちゃん、この絵も持っていくの?」 「これはじいちゃんの宝もんやけ」 「ぼくも宝物欲しい。じいちゃんのなにか欲しい」 「じいちゃんのかぁ?」  そう

【笑ってくれないあさひくん】 #19

 次の夏、ばあちゃんが死んだ。  ばあちゃんに「畑からきゅうり取ってきて」と言われ、畑で大きいきゅうりを見つけたからばあちゃんびっくりするぞ、とスキップしながら戻ると、じいちゃんが大きい声を出していた。どうしたんだろう。  声がする台所に行くと、倒れているばあちゃんの横でじいちゃんが大きい声を出していた。じいちゃんが僕に向かって何か言ってる。こわい。ばあちゃんが倒れてる。こわい。  それからのことはあまり覚えてない。  お家にお客さんがいっぱい来たし、知らない場所にも行っ

【笑ってくれないあさひくん】 #18

 静かな家、読めないラベルの酒、テーブルの上に置かれた金。週に一回、小学の頃は五千円、中学の頃は一万円、高校に入ってからは月に五万円が置かれるようになった。  この金を見ても、なんの感情も湧かない。  仕事第一の人たちの間に生まれ、幼稚園の頃までは、じいちゃんとばあちゃんに育ててもらった。  『あの人』たちと違って、じいちゃんたちからは愛されてたと思う、とても。  じいちゃんはいつも「勇太はじいちゃんの息子や」と言ってたし、ばあちゃんも「ここが勇太の家」と言ってたけど、その

【笑ってくれないあさひくん】 #17

 今日はバイトが休み。  ママとリビングでゴロゴロしながら映画を観ていたら、玄関からドアを開けるような音がした。  パパは凪の試合を観に行っているはずだし、ハルはここにいるし、玄関の鍵かかってるよね、とママと顔を見合わせていたら、今度は庭からリビングに通じる窓を開けようとしたり、コンコンとノックをしたり。 「え、誰?」 「柚見てきてよ」 「やだよ、ママ行ってよ」  二人でビクビクしていると、さっきまでソファーで眠っていたハルがのっそりのっそりと歩きながらカーテンをくぐって

【笑ってくれないあさひくん】 #16

 翌日、学校終わりに駅裏のカフェに寄ってあさひくんと二人、わたしは抹茶のパフェ、あさひくんはチョコのパフェを頬張っていた。抹茶とチョコで悩んでいたわたしに「二つとも頼んでシェアすりゃいいじゃん」と魅力的な提案をされ、ありがたくそうさせてもらう。 「そういえば、昨日ちーちゃんにラインしたの?」 「ちづに?なんて?」  放課後、あさひくんから職員室に行くから教室で待ってて、と言われたので、ちーちゃんと一緒に待とうとしたら、ちーちゃんは「柚ちゃん、じゃあね」とわたしの横を通り過

【笑ってくれないあさひくん】 #15

 次の日、学校もバイトも休みだけど部活の試合がある凪のお弁当をつくるために早起き。  いつもつくっているママが不在だから、代わりに私がつくる、といってもおにぎりだけ。特大おにぎり二つ。昨日は足りなかったみたいだから、もう一つ追加するつもり。  いつものようにハルに朝の挨拶をして、ソファーで快適そうに寝ている人、ソファーの下で居心地悪く寝ている人、二人の顔を覗き込むと、小さい頃から寝顔が変わってないことに気づく。  普段寝顔をガッツリ見ることなんて中々ない。そうだ、写真撮ってち

【笑ってくれないあさひくん】 #14

「いらっしゃいませ。サブさん、こんにちは」 「柚ちゃんヤッホ〜。いつものくださいな」 「は~い。サブさん、昨日、家でパウンドケーキ作ってきたんだけど食べる?」 「食べる食べる~♪」  ほぼ毎日いるであろう常連のサブさん。  喫茶店の目の前にある古本屋の店主で、ここのオーナーのてるさん、八百屋のブタさんととっても仲良し。  初めて会ったとき、てるさんとブタさんはニコニコしながら話しかけてくれるけど、サブさんはずっと怖い顔をして黙ってコーヒーを飲んでいて、この人はとても怖い人な

【笑ってくれないあさひくん】 #13

 学校が終わって久しぶりに四人揃って帰宅。  ちーちゃんが入っている調理部は月に数回しかないから一緒に帰ることが多い。  あさひくんと勇太くんは週に数回サッカー部の練習に参加してるけど、正式に入部しているわけじゃないらしい。入部すればいいじゃんと言ったら、中学で散々しごかれたからもうこりごり、だって。ただ、身体が鈍りそうだから、という理由で参加させてもらってるらしい。 「サッカー部もゆるいんだね」 「いや、顧問に会うたびに入部しろって脅されてる」  部員でもない一年生が好

【笑ってくれないあさひくん】 #12

「柚ちゃん、ごめん、今日お昼一緒に食べられないや」 「部活?」 「そう、集まってご飯食べるんだ。もし良かったら柚ちゃんも一緒に食べる?」  朝の登校中に駅のホームでちーちゃんからお誘いがあったけど、さすがにその勇気はないので「大丈夫、図書室で食べるよ」と言った。  実際、図書室での飲食は禁止だから違う場所で食べなきゃいけない。教室は騒がしいし、空き教室を探してササッと食べて図書室で時間を潰そう。  こういうとき、周りを気にせずに一人で食べる強さがあったらいいのに心底思う。ち

【笑ってくれないあさひくん】 #11

 ちーちゃんとカフェに行く約束だったけど、急遽バイトが入ったらしくて延期になった。  雨も降ってるし、することないし、ベッドの上でゴロゴロ。夕方まで降るのかなぁ、ハルの散歩のときには止んでほしいなぁ、お腹空いたけどさっきご飯食べたばっかだしなぁとか考えてると、遠くからサイレンの音が聞こえる。  あ、救急車だ、と思ったらすぐにラインの音。送り主を見なくても、内容を見なくても分かる。近所で事故があったりサイレンの音がすると、決まってわたしに連絡をしてくる、定型主と定型文。 【

【笑ってくれないあさひくん】 #10

「ちづ、誕生日おめでとう」 「ちーちゃん、誕生日おめでとう」 「姉ちゃん、誕生日おめでとう」 「ありがと~!!」  ちーちゃんの誕生日会。  本当は来週が誕生日だけど、みんなが集まれる休日に前倒しをしてお祝い。いつもは誕生日が近い陸兄も一緒に祝っていたんだけど、どうしてもバイトが休めないみたいだから今回はちーちゃんオンリー。  今回の主役が韓国料理をお腹いっぱい食べたいというリクエストで、前日から、いや、一週間も前から、ママたちが張り切って準備していた。  チーズダッカル

【笑ってくれないあさひくん】 #9

 ホームルームが終わり、ちーちゃんがわたしの席に来て「柚ちゃん、今日バイトも委員会もないよね?」「みんなでファミレス行かない?」って。 「あれ、あさひくんたち部活じゃないっけ?」 「あいつらじゃなくて、クラスの子たちで。仲良くなったからみんなで話そ~って。駅の近くにあるとこ」 「え、わたしもいいの?」 「もちろん!でも無理しなくていいよ!」  といいつつ「柚ちゃんが来てくれたらいいなぁ」なんて、両方の人差し指を合わせてツンツンしながら言われても……  しかも、きっと一緒に

【笑ってくれないあさひくん】 #8

「……ず……ゆず!柚!」 「……ん、なに」 「いつまで寝てんの、もう14時だけど」 「え、もうそんな時間……まだ寝れる……」 「買い物行くんじゃねーの?」  ん~、とまた寝始める柚を見てため息が出る。  とりあえずは生きてた。  柚は疲れが溜まると一日中寝て過ごすことがある。トイレにも起きず、ひたすら寝る。  昨日、柚と喫茶店から帰宅後、用事があって柚にラインしたけどいくら経っても既読がつかず、きっと疲れて寝てんだなと思っていたけど、結局朝になっても未読のまま。【まだ寝てん