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趣味で随筆や雑文を書き溜めていきたいと思っています。

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最近の記事

毛マインダー

僕には一本だけ生える胸毛がある。 身体の中心から少し左、心臓がある辺りに一本だけ生える。 それって胸毛なのか? 「当たり前だろ、おれは胸毛だ」 そう主張するように、やつは何度抜いても生えてくる。 「おう なつだぜ おれは げんきだぜ」 「どきどきするほど ひかってるぜ」 おれはかまきりのかまきりのように、それはそれは堂々と、生えている。 僕は毎日ボディラインをチェックをするような人間ではないので、一本の胸毛に気づくまでにある程度の時間がかかる。 数週間か、数ヶ月かはわからな

    • ホットミルクファントム

      朝寝坊した。 正確には家を出る時間の十五分前に目が覚めた。 急げばまだ間に合う時間だ。 僕は朝ごはんをしっかり食べるタイプなのだが、今日は食べずに我慢するしかなかった。 まだ目覚めていないフラフラした頭で、なんとか無事に下の子を保育園に送り届け、その後は仕事まで少しだけ時間がある。 久々に、駅前のパン屋に行ってみることにした。 パン屋は楽しい。 トレーとトングを手に取り、カチカチやりたい気持ちをグッと堪え、忙しい朝のパン屋で静かにパンを選ぶ。 しょっぱいパン二つ、甘いパン

      • 氷室は前、TERUは後ろ

        あれは10年以上前。 僕がブラック企業で営業マンをやっていた頃だ。 いつものように社長と一緒にキャバクラで取引先の接待をしていた。 当時20代中盤だった僕は、しょっちゅうキャバクラでカラオケを歌わされていた。 選曲は社長の好みで「愛が生まれた日」が定番だったが、その日は取引先がGLAYファンだったこともあり、GLAYを歌わされた。 時はさらに遡り今から20年以上前。 世紀末。 当時僕は中学生。 クラスのみんながヴィジュアル系バンドに夢中になり、ラルクとGLAYが人気を二分

        • なんでもないような事が

          なんでもないような事が幸せだったと思う。 今日はなぜか頭にそのフレーズが浮かんできて 仕方なく一日中虎舞竜のロードを聴いていた。 途中三船美佳の結婚当時の年齢を考えて複雑な気持ちになったりもしたが、曲に罪はない。 思えばその通りだった。 一緒にいることに一切の疑いもなく、一緒に歳を取り、ずっとそばにいると思っていた。 毎日太陽が昇るとか、夜が来たら眠くなるとか、そういう次元で信じ切っていた。 目が見えることや耳が聴こえることと、一緒にいることは同じくらい、僕にとっては普通の

        毛マインダー

          世間を知ろうキャンペーン

          あれは30歳を目前にした、29歳の頃だった。 ただ1つ歳を取るだけなのだが、なぜか節目の年はセンチメンタルだ。 かくいう僕もそうだった。 このまま大人になっていいのだろうか。 いや、とっくに大人なのだが、30歳ってもっとこう、渋さみたいなものがなかっただろうか。 例えばビーチボーイズの頃の反町隆史は23歳だ。 世でいう新卒の年齢である。 怖すぎる。 あんな新卒扱える自信がない。 さらに2年後、GTOを経て25歳。 その頃にはすでに世の中への不満(ポイズン)を内に秘めている。

          世間を知ろうキャンペーン

          好きの反対は無関心という嘘

          よく言われるこんな言葉がある。 「好きの反対は嫌いではなく無関心」 かの有名なマザーテレサの(他の作家の言葉との諸説あり)、愛の反対は憎悪ではなく無関心という言葉が少し歩いて変化したものだろう。 嫌いという感情を認知した時点で関心があることになるから、嫌いという感情は好きに内包されるものであるという理屈だ。 不倫に特別な嫌悪感を抱く人が、嫌いならば見なければいいのに、ついつい有名人の不倫のニュースを調べてしまう。 そしてまるで不倫をされた当事者かのようにそれを叩く。 そうし

          好きの反対は無関心という嘘

          まるで老婆はエイリアン

          あれは22歳。 団地で一人暮らしを始めた頃だった。 一人暮らし自体も初めてであった上に、訳あって通っていた専門学校を辞めて働かなくてはならなくなり、取り急ぎ地元の広告会社に就職した。 慣れない一人暮らしと、勝手のわからない仕事。 大人の階段をダッシュで駆け上がるような、目まぐるしい日々。 お金も体力の余裕もなく、帰ったら食事を取って寝るだけの生活を送っていた。 両親が近所に住んでおり、心配なのであろう、定期的にやってきては米を置いていってくれた。 両親は米農家でもなんで

          まるで老婆はエイリアン

          マックのポテト分の怒り

          近所のマックはいつも忙しい。 僕はそこそこのマックファンで、手軽さもあって毎週のように通っている。 週末は特に混んでいて、家族連れやらウーバーイーツやら出前館やらがとめどなく訪れて、店内はさながら戦場の様相だ。 注文をうけるカウンターのすぐ後ろでは、ある店員が大量のドリンクやポテトを作っている。 その隣ではまた別の店員が、出来上がった品物を渡すために注文番号を叫ぶ。 その忙しさは映画、1917 命をかけた伝令のワンシーンのようだ。 そんな中落ち着いて食事などできるはずもな

          マックのポテト分の怒り

          初恋の夢と古畑さん(雑文)

          小五の春、僕は転校した。 前の学校に未練があった僕は、通学路の爛漫さえも疎ましく思う程不貞腐れたまま、登校初日を迎えた。 形式的な始業式を終え、教室に入る。 黒板の前に立たされると、一斉にクラスメイトの好奇の目線を浴びた。 ふと隣を一縷すると、もう一人転校生がいた。 色白で背が高く、肩くらいの黒髪ストレートで、分厚い眼鏡をかけた女の子だった。 緊張していたのもあるだろうが、凛として先生からの紹介を待っていた。 古畑さん。 その大人びた雰囲気に僕は釘付けになり、窓の外のソメイ

          初恋の夢と古畑さん(雑文)