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異質の「オトコギ」左腕が譲れない思い/高校野球ハイライト特別篇・滋賀学園

スコアボード表記は「高橋侠」。「侠」の字は、正確には「俠」と書く。
「『オトコギ』という意味が込められています」と話す高橋俠聖こそ、春の県大会決勝で近江打線相手に96球での完封を成し遂げた注目のサウスポーである。

そんな高橋をヒトコトで表現するなら、「異質」という言葉に尽きる。
大津市の出身だが、中学は京都のチームでプレーした。県外生の多い滋賀学園をあえて選んだのは、「友達と野球を分けたかったから」。自身の性格を「とにかく飽きっぽい」と分析し、「テレビでほとんど見ない」という野球の好きな部分は「同じ場面が2度と来ないところ」。ちなみに帽子の裏には「抵抗できないくらいの力を付けたい」という理由で「不可抗力」と書いた。
何を質問しても、何を答えさせても、過去に取材した誰ともカブらない。同級生で今大会の注目ショート・岩井天史にも「めちゃくちゃ変」と言わせる左腕が第1シードの投手陣を支えていた。

飄々とした空気をまとう高橋は、名前と違って「熱血」や「豪快」と無縁に見える。ただ取材中に家族の話が出ると、言葉に力を込め始めた。
「母を病気で亡くしたのは保育園の頃。『お父さんを野球で支えてあげてね』という言葉を忘れたことはありません」。
チーム練習が少なかった中学時代は学校から帰るとカバンを置き、卒業した小学校のグラウンドに毎日1人で行って壁当てと素振りを繰り返した。巧みに使い分ける8種類の変化球や野手顔負けの打撃は、決して「飽きっぽさ」から生まれたものではない。高橋自身が家族を思い、ひたすらに積み上げた努力の賜物である。

いまは支えてくれた父親と再婚した母親、4人の弟と2人の妹の9人家族になった。
「自分の影響で野球を始めた弟もいる。9人で家族旅行に行ったことがないので、甲子園に出場して全員で応援に来てほしい」。
「場所自体に特別な思いはない」と話す異質の左腕にも、甲子園を譲れないオトコギあふれる理由があった。

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