ブランド戦略を、ブランド戦術に落とし込む
効果的なブランド戦術を構築するためには、ターゲット顧客の行動を深く理解し、適切なメディアを選択することが重要です。顧客の行動分析から具体的なメディア選定まで、ブランド戦術構築のプロセスを網羅的に解説します。今回はコミュニケーション部分にフォーカスしています。チャネル(売り場)開発の部分にはあまり触れていません。
戦略を戦術に落とし込む方法
ブランド戦略を構築した後、戦略を戦術に落とし込む作業が実戦ということになります。戦略は方針であり、この方針に従って具体的に売り上げが上がり、コストが安く早く結果の出る方法論を考える。もちろんブランド価値が高まることも意識します。このプロセスでは、可能な限り多くの戦術アイデアを出すことが重要です。
戦略を戦術に変換する際には、戦争に例えると、多くの武器(戦術案)を持つことが求められます。そして、多くの武器の中から最も攻撃力が高いもの、もしくは最も安くて早く効果が出るものを選び出すのが戦術策定です。つまり、戦略が方針を示すものである以上、その方針に従って最大の利益を上げるやり方を考え出すことが戦術を策定するということです。
さらに、戦術の実行段階では、戦略策定時に考えたブランド・パーソナリティを中心に据え、消費者とのコミュニケーションにおけるトーン・アンド・マナーを一貫性のあるものに整えて進めることも具体的な作業の一つになります。
1. カスタマージャーニーは必要か?
ブランド戦術を展開する前に、まずターゲット顧客の行動を詳細に分析し、理解することが不可欠です。これをカスタマージャーニーと呼びます。
カスタマージャーニーとは
顧客が商品やサービスに出会い、興味を持ち、購入を決断するまでのプロセス
ターゲットの日々の行動パターンやメディア接触のタイミングを把握することが重要
顧客行動の分析ポイント
平日と週末の行動パターンの違い
平日:仕事や学校の合間のスマートフォン利用、通勤時のソーシャルメディア閲覧など
週末:外出中の広告接触、長時間の動画コンテンツ視聴など
購買までのきっかけとなる行動
オンライン検索
レビュー確認
SNSでの他ユーザーの意見確認
実店舗での商品確認
顧客の行動分析の一つの方法
仮説の立案:1日24時間の過ごし方を詳細に想定
インタビュー調査:実際の顧客の意見や行動を把握し、仮説を検証
タイムスケジュールのシミュレーション:
メディア接触のタイミング
商品購入の感情や動機
購買行動を促進する情報とそのタイミング
私はカスタマージャーニーの専門ではないので、自己流ですが、顧客を深く理解すると、ターゲットにリーチしやすく、効果的にブランドのコミュニケーションができるメディア戦略やプロモーション施策を講じることができます。
カスタマージャーニーって
数年前に、ある会社のマーケティング担当がカスタマー・ジャーニー・マップを苦労されて作られていました。実際に実行した戦術はジャーニー・マップ作製前の案をそのまま実行したにすぎませんでした。
カスタマー・ジャーニーとペルソナ設定は似ています。顧客理解を深める有効な手法ですが、マーケティング活用時には課題もあります。
理想化と単純化: カスタマー・ジャーニーもペルソナ設定も、顧客を類型化するため、多様性や複雑性を捉えきれない場合があります。
静的な視点: 顧客の変化や成長を考慮せず、定期的な見直しが必要です。
画一的なアプローチ: 特定ペルソナに焦点を当てすぎ、他のペルソナや潜在顧客へのアプローチが疎かになる可能性があります。
データの偏り: 既存顧客データに基づくため、新規顧客や潜在顧客のデータ不足が生じ、分析精度に影響する可能性があります。
時間とコストがかかる:データを見て分析するので作業時間がかかります。
これらの側面を考慮しつつ、カスタマー・ジャーニーの有効性を見極めることが求められます。要するに使える部分を使いましょうということです。
2. ブランド戦術の考え方
効果的なブランド戦術を展開するためには、ブランド戦略の各ステップで得られるアイデアやインサイトを最大限に活用し、限られた予算で最大の効果を引き出すことが重要です。
ブランド戦略立案時のポイント
課題抽出、ターゲット・インサイト調査、価値整理の各場面で戦術アイデアの元となる情報を収集
各ステップでの情報を付箋やメモに残し、後の戦術立案に活用
戦術立案時の考慮事項
売上の早期向上
ブランド価値の向上
認知度の向上
費用対効果の高さ
結果の早さ
ブランド戦術を考える際には、多くの戦術案を考えること自体に大きな意味があります。豊富な選択肢を持つことで、柔軟な視点でアイデアを比較・検討でき、安価で効果の高い戦術を見つけ出す可能性が高まります。
このプロセスは、単に最初に思いついた戦術を実行するのではなく、多くのアイデアの中から「最も費用対効果の高い」戦術を選び出す作業でもあります。
例えば、広告戦略の選定では、テレビCMや新聞広告といった従来型メディアだけでなく、ソーシャル・メディアやインフルエンサーを活用したデジタル戦術も検討します。これにより、予算内で最適なメディアミックスを構築でき、ターゲットへのリーチを最大化することが可能となります。
3. メディアの種類と特性
ブランド戦術を効果的に展開するためには、適切なメディアの選択が重要です。以下、主要なメディアの種類と特性を解説します。
3.1 従来型メディア(ATL:Above The Line)
テレビ広告
全国放送のCMは非常に高額
ローカルテレビやケーブルテレビ広告は、特定地域向けの低コストオプション
ラジオ広告
比較的低コスト
地域密着型プロモーションに適している
新聞・雑誌広告
大規模広告は高コスト
地域フリーペーパーや業界特化型雑誌は低コストでターゲットにアプローチ可能
3.2 ターゲット型メディア(BTL:Below The Line)
ダイレクトメール
低コストでパーソナライズされたメッセージを直接届ける
クーポンや特典でレスポンス率向上
プロモーションイベント
小規模イベントやポップアップストアで効果的にアプローチ
商品体験で深い印象を与える
インストアプロモーション
店舗内での
プロモーションで即時購入を促進
店舗オーナーとの協力による共同プロモーションも効果的
OOH(アウト・オブ・ホーム)広告
看板広告や交通広告で日常生活環境での接触機会を創出
地域密着型の小規模広告で予算を抑えつつ効果的に認知拡大
3.3 デジタルメディア
ソーシャルメディア広告
Facebook、Instagram、Twitter、TikTokなどでターゲット層に直接リーチ
予算に応じたターゲティング設定が可能
インフルエンサー連携で低コストで大きな影響力
YouTube広告
視覚的インパクトが強い
短いバンパー広告やスキップ可能なTrueView広告で低予算でも効果的
検索エンジン広告(SEM)
顧客が情報を求めるタイミングでリーチ可能
クリックごとの課金方式で無駄な費用を抑制
メールマーケティング
非常に低コストで実施可能
定期的なニュースレターやプロモーションメールでターゲットとの関係維持
4. メディア選定の基準
効果的なメディア選定のために、以下の要素を総合的に考慮します。特に予算の制約とターゲットへのリーチを重視します。
ターゲットの特性
メディア利用傾向
接触時間帯
商品特性
視覚的訴求の重要性
詳細情報の必要性
予算
限られた予算の場合、デジタルメディアを中心に戦略構築
メッセージの内容
シンプルなメッセージか詳細な情報か
市場の競争状況
競合のメディア利用状況分析
ニッチなメディアや手法の探索
5. 総合的な戦術施策の構築
ブランド戦略の各ステップで得られたアイデアやインサイトをもとに、複数のメディアを組み合わせ、一貫性のあるメッセージをターゲットに届けることが重要です。
効果的な組み合わせの例
SNS広告でのアプローチ
YouTubeでの製品デモ動画展開
地元イベントや小規模看板広告での地域認知強化
まとめ
ブランド戦術の構築は、顧客の行動予測など顧客理解から始まり、適切なメディア選定と組み合わせによって完成します。限られた予算の中で最大の効果を得るためには、ターゲットや商品特性に最も適したメディアミックスを慎重に選択し、デジタルメディアと地域密着型メディアを効果的に活用することが重要です。
元P&Gヴァイスプレジデント和田浩子さんの言葉を借りれば、すべての戦術は「寝首を掻っ切る」ようなゲリラ戦であり、常に相手を出し抜くため奇抜だけど、本筋を突いているアイデアが求められます。
この考え方を念頭に置きながら、柔軟かつ効果的なブランド戦術を構築していくことが、ブランドの持続的な成功につながるのです。
ちなみにATLとBTLという表現はふた昔前の広告業界で使われていた言葉です。知らなくても、人生に何の影響もありません。