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2022年7月の記事一覧

『消失の惑星』 ジュリア・フィリップス

『消失の惑星』 ジュリア・フィリップス

少女の誘拐という不穏な出来事を通奏低音にして、様々な女性達の心の叫びが、息苦しいような旋律を奏でる。
その楽曲のテーマは、人生の喜び、悲しみ、そしてままならなさ。

この小説を大きく特徴づけているのは、その舞台がカムチャツカ半島であるということだろう。
カムチャツカ半島。土地名としては、日本人には耳馴染みのある響きだと思うが、そこがどんな場所であり、どんな人々が暮らしているのか、きちんと知っている

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『奇跡の自転車』 ロン・マクラーティ

『奇跡の自転車』 ロン・マクラーティ

中年デブッチョの「ぼく」ことスミシー・アイド。
スミシーにはべサニーという美しい姉がいたが、ベサニーは精神を病み、長い間行方不明になっていた。
姉から「フック」という愛称で呼ばれていた少年時代のスミシーは、痩せて、川釣りと自転車を愛し、いつも走っていた。だが今の彼は、だらけた生活を送る巨漢の独身43歳だ。

そんなスミシーは、ある日突然、両親を事故で失ってしまう。
葬儀の後、スミシーは両親宛の郵便

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『設計者』 キム・オンス

『設計者』 キム・オンス

何と壮絶で、哀しく、かっこいい男だろう。

レセン(来世)という名を持つ主人公は、韓国の裏社会に生きる暗殺者。本書は、この暗殺者レセンを主人公にした連作短編集である。
飄々としてユーモラス、そしてハードボイルド。
ぐいぐいと読む者を引き込み、読後には熱い余韻を残す。

暗殺者、そして国家や企業から秘密裏の暗殺を請負う設計者。登場するのはいずれも計り知れない闇を抱えて孤独に生きる、裏社会の住人である

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