『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第23話:妻の反応
12月15日 午後9時02分
自宅 リビング
妻「もう9時だ、ほら、寝よう」
子ども「ねえ、パパ、だいじょうぶ?」
妻「うん、大丈夫だよ、ね?」
ボク「うん、大丈夫」
子ども「ほんとうかなぁ?」
妻「ほらほら、寝て寝て! パパはお風呂入ってね」
子ども「じゃあ、おやすみなさーい」
妻「うん、おやすみ」
ボク「おやすみ」
子ども「ねえ、パパ、ほんとうにだいじょうぶ?」
パパ「はは、大丈夫だから、寝てね」
ボクは、子どもがいる前で、急に病名を言ってしまったようです。
しかし、子どもには、“うつ病”は“ガン”のように良く聞く病名ではなかったので、セーフでした。
でも、なんとなくボクの雰囲気がおかしいことに子どもは感づいたようです。
ベッドに寝に行ったものの、何度も起きては、ボクの様子を確認する為にリビングへやって来ます。
なかなか寝なかったので、最終的には妻に怒られるのですが、そのあたりは、その日に限ったことではない、いつもの日常風景でもありました。
その日以降も、妻はいつも通りに振る舞っていました。家族にとって、それが一番良かったように思います。
正直、逆の立場になった時、ボクは妻のように振る舞う自信はありませんし、できないと思います。
でも、もしかしたら、ずっといつものように振る舞っていた妻も、本当はとっても不安だったのではないかと今は思います。
うつ病になったボクは実際、変な行動をしていたようで、妻はそんなボクのことが気がかりだったのかもしれません。
この日から、働くことを止めたようで、なるべく家にいてくれました。
病気のボクはうれしかったのですが、妻にしてみると、毎日顔を合わせる同僚や友達もいないからグチ一つも言えない環境となり、顔を合わせるのは夫だけ。
しかも、その夫は、一体いつまでか分かりませんが、毎日家にいる状態です。
定年とか、認知症のようにある程度の年齢が来て、ずっと家にいるのであれば、まだ諦めることもできたでしょう。
でも、ボクの場合は、働き盛り。そんな人間が、顔色悪くボーッと昼間にスエットかパジャマで外出するのをご近所に見られているのですから、きっと世間体も悪かったと思います。
ボクはボクで、なんとかうつ病のことを妻に分かってほしくて、本を買ったり、図書館で借りてきたりしました。まず、自分自身で読むのですが、患者本人にとってもつらすぎる内容ばかりでした。
会社辞めちゃったり自殺したり、確かにそういう方ばかりではないでしょうが、自分の未来にそういった可能性があると思うだけで、当時はとても気が滅入りました。
気持ちが消沈しつつも、思春期のエロ本のようなもので、その情報を見たい気持ちは収まらず、調べてはガックリの繰り返しをしていました。
治療中、それは病気なのかもしれませんが、ボクは、家族に対して感情的になることが割とありました。
治療の初期、薬の量の調整中で、ボーッとすることが多かったある日のこと。
立ちくらみもあり、少し廊下でボーッとしていました。
そこに、トイレから出てきた子どもと遭遇。子どもはとても驚き、「おどろかせないで!」とボクに軽くパンチをしてきました。
その瞬間、怒りがこみ上げてしまいました。
「これはやばい!」
すぐに振り返って、子どもとの距離を開けます。それでも怒りが収まらず、
「もう!!!!!」
思いっきり、壁をぶん殴りました。
妻は鈍い音と、その直後の子どもの泣き声に驚いてやって来ました。
ボクはそのまま、寝室に逃げ込みました。
拳が痛いのか心が痛いのか分からないものの、痛すぎて泣き崩れました。(後日、手の痛みが治まらず、病院に行ったら拳にヒビが入っていました。)
薬の影響もしれませんが、感情をコントロールできないことは、非常に情けないです。
特に、怒りと悲しみのコントロールができないことがこんなにつらいとは。
その時の妻は子どもの前でもボクの前でもいつもの妻でした。
ボクは家族に心配かけてばかりなのに、妻はそういう不満を一言も出さず、ボクに、ただ一言だけ、声を掛けてくれました。
「誰にだって、調子が悪いことはあるよ。パパなら大丈夫!」
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