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『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第19話:家族にうつのことを告げるリハーサル

12月15日 午後6時55分
電車内 6号車


ボク「………………」

ボク(帰ってすぐ、言うか……)

ボク(いや、それだと子どももいるしなぁ)

ボク(じゃあ、子どもが寝たら、言うか……)

ボク(でも、このままだと夕飯、喉を通らないだろうから、バレるか)

ボク(うーん、どうしよう)

ボク(そもそも、どうやって切り出すか……)

ボク(このパンフレットには、そういう具体的なこと、ぜんぜん書いてないしなぁ)

ボク(はぁ……)

ボク(どうしよ、もうすぐ家に着く……)

ボク「………………」




本人ですら、いまだに受け止められていない状態でした。

「家族はなおらさ、ボクが“うつ病”だということを受入れられるはずがない」、

そう思っていました。

帰りの電車の中で、病院でもらったうつ病のパンフレットをカバンから取り出します。

その表紙を他の人に見られないようにサッと折り返して、何度も読み返しました。

そこには、次の内容が記載されています。

 ・うつ病の症状について(精神症状と身体症状の変化)
 ・治療方法について(薬物治療とその副作用)
 ・回復のステップ
 ・復帰に向けてのステップ

改めて読み返すと、ゾッとします。

かわいらしいイラストがあっても、淡々と書かれたその内容に下腹部がスーッとしながらズキズキします。(男性しか分からないかもしれませんが、チンチンをギュッとされた感じです。)

これをそのまま家族に見せてしまうと、ボクと同じように、いや、きっとそれ以上に恐怖を感じるでしょう。

薬の副作用とか、回復まで数年を要するとか、自分が見ても驚きですし。


「いまはまだ、病気を告知されただけ。治療のスタートラインに立ってもいないのに……」

うつ病と診断された直後、最も難しいのは、家族に病気を告げることです。

パンフレットを何度読んでも家族に告げる実例やヒントすら記載されていなかったので、両足で挟んでいたカバンを持ち上げ、その中に一旦入れました。

続いて、スマホで調べます。すると次のような流れが多いことを知りました。

 1)家族が変化に気付き、本人に病院へ行くことを勧めるか、付き添って病院へ行く
 2)その後、診断の結果を一緒に聞くか、本人から聞く

考えたら、今日一日で、しかも自分一人でその全てを終えてしまっています。

さらに、家族に報告する場合、石から告知されたら“間髪入れずに家族に報告”するのが理想のようです。

これも、ボクの場合はもう数時間が経過しています。

診断されたら、そのまますぐに妻に報告すべきでした。

でも、いまさら過去に戻ることもできません。

こうなったら、帰宅後、速やかに家族に報告するしかありません。


一旦、スマホで調べるのはやめて、頭の中でいろいろとシミュレーションをします。

妻「おかえり!」
ボク「うつ病になっちゃっただいま!」
……ダジャレを入れてみたけど、うーん、ストレート過ぎるか。

ボク「あー、疲れたぁ。だって、今日はうつ病になっちゃったんだもん」
妻「え?」
……これもいきなり過ぎるかぁ。

妻「どう、今日の料理、おいしい?」
ボク「あ、この盛りつけ、大丈夫? 味がとなりのおかずに移っちゃわない? うつちゃわない? うつになっちゃわない? ……というか、うつになっちゃったや」
………………。
 
いろいろ考えても、どれもピンと来ません。

……と、その時でした。

急に涙が出てきました。そして、涙は全く止まる気配がありません。

電車の中で、結構混んでいるのに、どうして。











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