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『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第32話:精神障害者保健福祉手帳の申請
6月17日午後6時18分
××クリニック診察室
先生「そういえば、自立支援と一緒に、精神障害者福祉手帳も検討されてはいかがですか?」
ボク「福祉手帳……ですか?」
先生「“自立支援医療”は医療費負担が減り、福祉手帳は税控除等が受けられるものです」
ボク「税金ですか?」
先生「そう、障害者控除ですね」
ボク「ちょ、ちょっと待ってください!ボクは、その……障害者、なんですか?」
先生「一応、そういうネーミングなだけで、あまり深く考えなくても大丈夫ですよ」
ボク「し、しかし……」
先生「申請しても通るがどうか分かりませんので、自立支援と一緒に申請してみては?」
ボク「はぁ」
先生「この申請には、申請書と診断書が必要で、あの人のスケジュールは……、うーん、診断書は再来週に出来ますので、それまで時間ください」
ボク「あの人? え、先生が書くんじゃないんですか?」
先生「まぁ、そういうね、専門家がいるんですよ」
「どうせ通らないだろう」と思っていたのですが、申請して二~三ヶ月後、審査が通って、“精神障害者福祉手帳”を取得しました。
この時点でボクは、障害者となったわけですが、なんともいえない気持ちでした。(家族、特に両親が知ったらきっと悲しむかな、とか。)
さて、この手帳で、税控除を受けることもできますが、それ以外にも日常的に使えるサービスで控除(減額)してもらうことができます。
治療中の収入が著しく減少していたので、とても助かりました。
具体的には、次のサービスが対象となっていました。(発行元によって、異なるかもしれません。)
・携帯料金タクシー代映画の料金
結構、ITに疎いので格安通信サービスではなく、大手3大キャリアの1つに結構な金額を払っていたので、ホント、助かりました。
ただし、減額してもらうには、この福祉手帳の提示が必要となるし、手続きは窓口のみで、さらにこういう手続きに慣れているショップの人はほぼいなく、ものすごく苦労しました。
そうそう、ある日、体調が悪く、タクシーに乗りました。
高齢のドライバーさんで、運転が荒く、車内はタバコ臭く、ますます体調が悪くなりました。
「あの、このあたりでいいです」
「え、こんな途中でいいの?」
ブッキラボウなドライバーさんはボクが目的地の途中で降りると言い出したことで、機嫌が悪くなったのかもしれません。
「あ、そういえば、これで割引お願いします」
福祉手帳を見せると、ドライバーさん、さらに顔が険しくなりました。
「え、アンタ、見た感じ障害者に見えないけど?」
あからさまに怪しまれました。
「あの……ボクのは、その……精神障害の福祉手帳なので」
と手帳を指差しました。
「あ、精神異常者の方ね」
ようやく、一割引の差額をもらいました。
うつ病になって初めて感じた差別でした。
この他にも、ボクは、うつ病になって、いろいろ差別を受けているなぁと感じることがあります。
インターネットや本にあるような、“うつ病患者に世間や会社が寛大”なんて、そんな甘っちょろいことは一切ありませんでした。
この経験以降、ボクは福祉手帳を使うことはなくなりました。
会社にも福祉手帳のことは一切話していません。いや、話すことができませんでした。
なので、先生からの話にもあった税控除を受けるかどうか、とても迷いました。
年末調整で、障害者控除を受けるかどうか。これを受けるということは、ボクが障害者であるということが会社にバレてしまいます。
バレるのを恐れて、12月の年末調整は見送って、最後のチャンスである確定申告まで悩み抜きました。
しかし、結局、税控除の申請をしませんでした。
それは、さっきのタクシードライバーのように、社内で差別を受けることがとても怖かったからです。
うつ病になって社会に出ると、いろんなことがあります。
そして、それは不意打ちで、こちらは全く心の準備をしていない時にやってきます。
そんなことに遭遇すると、治療で、少しずつ膨らませた綿あめのような心を急に押しつぶされたような、そんな感覚になります。
きちんと通院して、継続して薬を飲んで治療をしていることのメリットはこういう不測の事態に対処できるところにあるのかなって感じます。
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