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『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第18話:薬を処方される
12月15日 午後6時26分
某薬局 待合室
薬剤師「新しく処方されたお薬ですねー?」
ボク「あ、はい」
薬剤師「では、順番に説明しまーす」
ボク(もう少し小さな声で言ってくれればいいのに)
薬剤師「この薬は、精神安定剤なのでー、あ、いま気分が安定していないんですかー?」
ボク「はぁ(周りに聞こえてるっつーの)」
薬剤師「で、こちらがー、睡眠導入剤。寝れないとかー?」
ボク「……まぁ」
薬剤師「説明は以上でーす、何か質問ありますかー?」
ボク「……よーく分かりました。何もないでーす(……ふぅ)」
病院に一番近い調剤薬局は、耳鼻科と内科、あと介護施設もその近辺にあったようで、いつも混雑していました。
ボクの薬を担当してくれる薬剤師は、若い女性で、
「お、かわいいじゃん!」
と思ったのも束の間、話し方が松野明美もしくは平野レミのような感じで、まぁ、強烈な大声で、すごかったです。
身振りを含めた伝え方が老人向けのテンションで、ハキハキと大きな声で説明しやがって……いや、してくれたので、聞き漏らすことはなかったのですが、それが周りに聞こえており、
「この人は、精神病のひとでーす」
というアピールをされているようで、とても落ち着きませんでした。
「あ、そうだそうだ、お薬手帳、持ってますー?」
「あ、いや、ないです……」
「え? え? ないんですかー? ですよねー? じゃあ、差し上げますよ。はいはいはいっと、どっちのがいいですかー?」
「え……」
出されたのは、二つでした。
・大きなハートが一つだけあるクマ柄の赤い手帳
・小さいハートがいっぱいのクマ柄の赤い手帳
こんなかわいい手帳を、常に携帯するのは、ちょっと恥ずかしすぎます。
「あの、もっとフツーのはないんですか?」
「え? え? フツーのクマですー?」
「(あ、“クマ”は外せないんだ……)じゃあ、こっちのでいいです」
「はい、じゃあ、このクマちゃん! 仲良くしてあげてくださいねー!」
“お薬手帳”なんて、今まではジャマなものとしか考えていなかったのですが、この日から肌身離さず持つようになりました。
そして、この薬をもらった瞬間から、花粉症でもカゼ引いても、何かにつけて薬が新しく処方されると、うつ病であることを伝え、いま飲んでいる薬を説明しないといけなくなります。
処方される薬の種類はどうってことなかったのですが、その量に驚きました。
どっさり入った袋を見て、改めて、自分がこれほど病んでいるのかと思い知りました。
最後にミネラルウォーターのプレゼントを受け取って、調剤薬局を出ます。(ミネラルウォーターは毎回もらえたので、薬をこれで飲んでねっていう意味のようです。)
外はすっかり暗くなっていました。
「はぁ……」
駅までの道、ふと空を見ると、星空になっていました。星を見るのは何十年ぶりだったかもしれません。
「なんかのマンガにあった死兆星は……見えないか、はは……」
近いうちに死が訪れる者にのみ見えると伝えられている死兆星。あのとき、本当に見えなかったのか、もしかしたら、ビルの光で見えていなかっただけなのかもしれません。
とても疲れた一日でした。
ただ、本番はこれから。
家に帰ったら、家族に“うつ病”になったことを伝えなければいけません。
我が家の家庭崩壊のはじまりです。
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