『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第45話:復職初日の職場での過ごし方
3月23日午前9時11分
社内洗面所
同僚「あ、久しぶり!」
ボク「あ、おはよう」
同僚「誰からも、何も聞かされてないから心配してたよ」
ボク「はは……」
同僚「かなり長く休んでたけど、どうした?」
ボク「いや、まぁ……」
同僚「まぁ?」
ボク「実は、うつ病で休んでいて……」
同僚「え……」
ボク「あ、でも大丈夫だから」
同僚「そ、そう……」
復職時、うつ病で休んだことを社内やお客さんに報告するかどうか、とても悩みました。
自分だけでは答えがどうしても出なくて、主治医の先生に相談しました。
「それは、言わない方が良いですよ」
即答に驚きます。
「あなたのこの病気が治ったわけではないんですからね」
自分がうつ病という病気であることに改めて気付かされました。
でも、確かに言われてみれば、先生の言うことは正論です。
インフルエンザ中の人がインフルエンザだって公言するのと同じように、今のボクは復職しても、うつ病が治っているわけではないのですから。
実は、同じ質問を産業医の先生にもしたことがありますが、その回答に唖然としました。
「聞かれたら、答えない方がいいよ。自分で伝えたい、言わなきゃと思ったら話す、そんな感じでいいんじゃない?」
「いや、先生、“いいんじゃない”って……。そんなもんですかねぇ」
「そう。“聞かれたら”答えない。これ、かなり重要!」
その時、この先生が何を言っているのか、さっぱり分かりませんでした。
復職して一週間ぐらい経過すると、意外と休んでいた理由を聞かれることに驚きました。
女性で復職の場合は、産休や育休など予測が付くのか、あえて聞かれないようです。
また、身体的な病気、例えば、ガンだと目に見えてやせ細るので、聞かれにくいと思います。
ボクの場合は、至ってフツー。
見た目で言えば、ちょっと髪がヘンなぐらいです。
と言うのも、復職前日に、闘病の為か、かつてなく目立った白髪頭をやっすい床屋で染めたので、藤岡弘のような不自然なド黒髪で周りを驚かせしまいました。
このツッコミどころのせいで、逆に声を掛けやすい雰囲気を作ってしまったようです。(さすがに復職数日間はみんな引いていたようですが。)
そして、とうとうやってしまいます。
聞かれた相手に「うつ病で休んだ」と言ってしまったのです。
言われた相手の様子を見て、すぐに後悔しました。その瞬間、産業医の先生が言っていた意味が分かりました。
復職の初日のことはいまでも覚えています。早めに家を出たのですが、緊張なのか吐き気が止まらず、何度か途中下車。結局、ギリギリの出勤という最悪な出だしとなりました。
数ヶ月ぶりの職場はとても新鮮でした。懐かしく感じる一方、とてもドキドキします。
「今日からまたよろしくお願いします」
ボクの精一杯の声は小鳥のさえずりのようでした。
職場にいる人たちにあいさつを終え、朧気な記憶の自分の席に座ります。
ボクの机とパソコンの上は、ホコリを被っていました。
ちなみに、復職後は、元の部署、元の環境でした。
パワハラ上司もいれば、やっかいで面倒くさい文句ばっかり言っている同僚もいて、そこに戻す会社の判断については、主治医の先生と産業医の先生とは意見が分かれていました。
そのあたりはいつかどこかでまとめるとして、結論から言うと、ボクは休職前の環境に戻ったのでした。
席についてしばらくして、パワハラ上司からメッセージが届きました。
開くと、「話したいことがあるから会議室に」と。
既読になったことを確認した上司は、席を立ちました。
ついて来いっていう感じで。
会議室に着くと、上司は座って、腕組みをしていました。
上司の机を挟んだ間迎えに座ると、いきなり、持っていた手帳を机にたたきつけて、
「おまえ、分かってんのか!」
といきなりブチギレました。
心臓の鼓動が一気に高まり、立ち眩みしましたが、会議室の席に座っていたので、なんとか持ち耐えて、
「え、えっと。その、すみません」
と精一杯の声を出したものの、小声で返しました。
「何ヶ月か、しらねーけどさ、その間、みんなにどれだけ迷惑かけたか、分かってんのかよ!」
「すみません」
「急に、今日から休むなんて、常識ねーだろ! 社会人としても人間としてもダメだろーが!」
「すみません」
「今日だって、まず、みんなより誰よりも早く出社すべきだし、オレはいいよ、だけど、部署のみんなには頭下げるべきじゃねーのかよ!」
「すみません」
「いいか、オレは先に戻るから、3分後に席に戻ってこい! それで、みんなに謝れ!いいか!」
「すみません」
「ふざけるなよ!」
そういって、上司は手帳をまた机にたたきつけてから、会議室を出ていきました。
「う……」
ものすごく血の気が引いて、すぐにトイレに行って吐きました。
涙も止まりません。
体内のすべての物が体外に排出する感じでした。
フラフラの状態で、3分という期限に間に合うように、洗面所で顔を洗って、鏡を見ると、顔色が真っ青でした。
もう1分も残り時間はないので、急いで戻ります。
「みなさん、急に休んでしまい申し訳ありませんでした。そして、そのお詫びも出社時にすぐできず、また出社もギリギリで本当に申し訳ありませんでした。」
そういって、頭を下げたまま横目で上司を見ると、彼は満足気で、少し笑っていました。
「まぁ、いろいろあったんだろうけど、今日からはこれ以上迷惑をかけないように、な」
そういうと、パソコンに向かって仕事をはじめ、周りも、それに合わせていつもの仕事に戻ります。
ボクだけ、取り残されて、数分、その場で頭を下げたまま。
「おい、席に戻れよ」
上司の許可を得て、席に戻ったそのタイミングで、総務の担当者がフロアに入ってきました。
様子を見に来てくれたみたいで、
「ちょっと、会議室に来れる?」
「いや、許可を取らないと……」
「許可? あ、総務権限で彼を少し借りますけど、いいですよね?」
上司にそういうと、
「ほら、いこっか」
ボクを会議室に連れて行ってくれました。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「もう、なんか分からなくなって……」
「上司になんか言われた?」
「はぁ」
「やっぱ、そっか。さっき来たんだけど、二人ともいなったからなんかあるかなって思ってさ。それで、さっき、そっちのフロアに行ったら、ずっと頭下げていたからビックリしたよ」
「うつ病で休んだ場合、まず謝罪からスタートしなければいけなかったんでしょうか?」
「え? 謝罪? なんで?」
「いや、なんでか分からないんですけど」
「うーん」
「あ、いいです。もう済んだことですから」
「詳しく話せる?」
「え、でも、今の部署でやっていかないといけないですから、もういいです」
「私の立場で言うのはあれだけど、あの上司と二人で話す場合は、スマホで録音しておくと、なにかの役に立つかも」
「はぁ」
「とにかく、なにかあったらすぐにチャットでもいいから、連絡してね」
復職後、しばらくは事務作業を中心に、電話も出ず、資料作成だけをしていました。(うつ病患者をお客様の前に出さないという会社の判断は正しかったと思います。)
しかし、いつもなら、サッと仕上げていた資料作成も、なかなかできません。
休職中はパソコンをあまり使っていなかったので、その日の午前中は、パソコンの操作もおぼつかないような状態でした。
初日からしばらくの間、継続的にミスをしたのが“日付”です。
作成資料の中には日付を記入するものが多くあったのですが、その年号を休む前の“去年”にしていたのです。
「自分の時間は止まったままなのに、この職場の時間はずっと動いていたんだな」
と、感慨深くなりながら修正をしていました。(このように、いちいち立ち止まっていろんなことを考えてしまい、仕事への集中はとても散漫した状態でした。)
そして、その日は通院があったので、定刻で帰りました。
かなり疲れていたようで、その日の夜はもう8時ぐらいには寝て、家族にはイビキで迷惑かけていたようです。
夢で上司に叱責される姿がフラッシュバックして、うなされていたようですが。
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