【 Care’s World case 13 私の居場所が“誰かのために”へと繋がる 〜 You + Coffee 末吉裕子さん 〜 / -後編- 】
前編では、裕子さんが水頭症とダウン症を抱えるお子さんやご家族と向き合いながらの子育てや仕事などにおける葛藤について伺いました。
後編では、その変遷を経て活動を始めた『You + Coffee』 ついて深掘りながら、現在の心境を伺っていきます。
前編はこちら。
Care’s Worldについてはこちらから。
“私のために”が自然と“誰かのために”なる
裕子:数年前から、不定期ですが『You+Coffee』という名前で障害児のいる親が気軽に話ができる居場所づくりを行っています。元々は、不純な動機で「カフェをやりたい」からのスタートだったんです。
そんなとき、たまたまネットでモバイルコーヒー(※1)を知りました。固定費がかからないから気軽にスタートできること。あと、どこでも行けるからこそ、在宅でご家族を介護している親御さんたちに呼ばれたら会いに行けること。そして、コーヒーを淹れてる人の姿をみたら純粋に「楽しそう」と感じたこと。“誰かのために”ではなく、この活動が自分のためになると感じたからこそスタートできたと感じています。
知人から職人さんを紹介してもらい、家族も一緒にモバイルを作りました。完成後、まずは自宅前で第1回目を開催したのですが、まだコンセプトもどうやっていくかもフワフワな状態でした。すっごい緊張もしました。不安で星占いの先生に「いつに開催したらいいか?」と相談するぐらい(笑)。
裕子:まだコロナ渦真っ只中だったので近所の目は気になっていました。それでも、ありがたいことに声をかけてくださる方もいらっしゃって、友人宅のガレージやマルシェ、学生街など10箇所程で開催させてもらえました。時期は無理なく、私の体と気力がある時に。回数は数えていないですが、数十回は開催したと思います。
私なりのこだわりとして「コーヒー屋さんとして行く」わけではないこと。『You+Coffee』の活動趣旨に沿った場であることは大事にしています。活動をしていて印象に残ったのは、私のように子どもが障害児で周囲にそのことを相談できる・理解できる状態の人がいること。「よかった、理解してもらえた」と嬉しそうな表情で言ってもらえると、この場を開催している意義を感じます。「あ、社会に一歩戻るきっかけになっている」って。
その反面、18年経っても(次男さんが誕生してから)そのような場はないんだと痛感もしています。コーヒーをきっかけに当事者ではない方も足を運んでくれるので、私たちのような家庭環境のことを知ってもらうことも一つの役割と思うようになりました。
程良い距離感とバランスと
裕子:『You + Coffee』や当事者の方とお話するときに大事にしていることは経験則で考えを押し付けないことです。そこはとても意識しています。誰だって、よかれと思ったアドバイスを受け入れられないことはあると思うんです。だから、余計なアドバイスはしない。
そう思えるようになったのも障害という特性を持った次男を出産し、夫と長男・長女も含めた時間を過ごしてきたから。この家庭環境がなかったら、私はいつまでも狭い世界にいたかもしれない。出会わなかった人や場所も多かったかもしれない。そう感じています。
記憶がないくらい大変な日々ではあったけれど、一つ一つのことが困難であるからこそ、小さな喜びを拾えるようになりました。「わ!そんなこともできるようになったんだ!」「当たり前は決して当たり前じゃないんだ」って。
裕子:今『You + Coffee』のコンセプトを見直しているところです。当初は「支える人を支える」としていたのですが、ある日「すごいエゴだな…」と思ってしまって。「やってあげてるよ」感が出ていたなと。
まだ内省していて、うまく言語化できない状態です。でも、活動を続けていきます。だって、それが私のためであるし、必要だと思っているから。本当は実店舗がほしいんです。そうすれば「5分、ちょっと買い物に行きたい」だったり「友人とコーヒーを一杯飲みたい」と思った時に、障害児のお子さんがいても、お店で見守ることもできますし。
それが結果として、私の居場所になると思うんです。今までを振り返ると、私は何をするにも居場所がほしかった。だから、苦しくなったら「あ、これは違うぞ」と自分に言い聞かせて、程良いバランスで活動を続けていきたいと思います。
(終わり)
(前編はこちら)
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