Teaching Kitchen Research Conference体験記(3)~カンファレンスからの気づき・インサイト~
キャンサースキャンで新規事業開発を担当している古谷です。
前回の記事ではカンファレンスの目的や概要をお伝えしましました。
最終回の本記事では私自身が得た気づきやインサイトをまとめてみました。
1.Teaching Kitchenの3軸での進化:
”①ターゲット”、”②アプローチ”、”③方法論”
元々のTeaching Kitchenは、”生活習慣病の成人患者”に対して”、”直接、料理教室を主としたプログラム”を、”リアルな場で提供する”ものでした。
一方、様々な実践例のプレゼンテーションを聞く中で、3軸で進化している印象を強く持ちました。
①ターゲットの進化:
生活習慣病の成人患者⇒家族・女性・子どもなど
Teaching Kitchenのターゲットとして実際に料理教室などのプログラムに参加するのは、糖尿病などの成人患者が主体でしたが、患者と共に暮らす家族全体に対するもの、女性にフォーカスしたもの、子どもなど、ターゲットの広がりが見られました。
例えば、Cincinnati Hills Christian Academyという学校では、アントレプレナー教育の一環として、生徒自らがキッチンを新設するところから取り組みがスタートしました。
具体的にこのキッチンでは、以下のような3つの実践的な教育プログラムが提供されています。
②アプローチの進化:
患者本人⇒医師や医学生の巻き込み
後述しますが、アメリカの医学生向けカリキュラムにおいて、栄養学や食事に関する内容は極めて短時間しかないのが実態です。そのため、医師になって患者に食生活をアドバイスするのが非常に難しいという課題があります。
そこで、Teaching Kitchenのプログラムを医師や医学生に提供することで、
医師の患者指導スキルを向上させる取り組みが見られました。
例えば、ダートマス大学では、87名の医学生に対して料理教室などのプログラムを提供し、学生から”患者さんに対して、栄養・料理・健康のことを伝える自信が得られた”というコメントが得られたようです。
③方法論の進化:
対面⇒オンラインでのプログラム提供
非常に顕著だったのがこの変化で、コロナ禍を受けてほぼ全ての研究でオンライン料理教室がデフォルトになっていました。
実際、David Eisenberg氏による基調講演でも、「(コロナ禍を受けた)2021年のデジタル転換はTKのゲームチェンジャーである」として、重要なトピックとして説明されました。
例えば、ノースウェスタン大学の研究では、参加者用のwebマイページが用意され、栄養学レクチャー用の動画コンテンツなどが提供されています。
2.食事・栄養関連の健康危機へのアメリカ政府の対策強化のトレンド
アメリカの国家戦略 "National Strategy on Hunger, Nutrition and Health"
アメリカのバイデン大統領は2022年9月に”National Strategy on Hunger, Nutrition, and Health”という国家戦略を発表し、1963年以来53年ぶりとなる対策会議を開催しました。
掲げられた目標は、米国で2030年までに飢餓を撲滅し、食に関連する病気を減らすことです。そのために、2030年までに官民合わせて80億ドルを投じる計画が示されました。
具体的に国家戦略の冒頭では、食事・栄養関連の健康危機に対する強い憂慮が表明されています。
政府への働きかけを通じた医師への食事・栄養関連のトレーニング強化を命じる下院決議の制定の成功
こうした政府の動きを背景として、医師への食事・栄養関連のトレーニング強化を命じる下院決議が制定されています。
食事・栄養関連の健康問題が巨大化する中、アメリカの4年間の学部医学教育において食事・栄養に関する内容はわずか19時間(これは全講義時間の1%未満)しか費やされていません。そのため、学部を卒業した医師は、いざ患者に対して食事・栄養の指導をしようにも、適切な対応ができないという点が
本下院決議がアプローチする課題意識です。
この下院決議が制定された背景には、今回のカンファレンスにも登壇したHarvard Law Schoolのディレクター、Emily Broad Leibらの法学者などによる政府への働きかけがありました。
Teaching Kitchenのような新しい動きを定着させていくためには、こうした法学者などとのコラボレーションなども行いながら、少しずつ政治のルールメイキングに関与していくことが重要であるという点に、個人的には非常に強い印象を受けました。
以上全3回に渡るTeaching Kitchen Reseach Conferenceの参加体験記でした。
我々、キャンサースキャンも日本版Teaching Kitchenプログラム開発の共同研究を一層ドライブして参ります。
ご参考)Teaching Kitchenの日本での取り組み概要はこちら
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