巻き戻したい季節
罪の烙印。壊れた静寂。取り返しのつかない過去。
『もう一度、あの時間をやり直せたら…。』
そう思うのも、最初の経験があるから。その経験の上に、今の後悔がある。
そこで思い出すのが『ななみ・海岸物語』。中学生の頃、クラスの誰かが持っていたのを、皆で回し読みした作品だ。
これは、不思議な秘密を持つ温室を取り巻く物語。
ただの温室ではなく、タイムマシンの役を果たす。ただし、誰でもタイムトラベルが出来る訳ではない。
タイムトラベル出来る体質の人が、はたから見ると自然な形で温室にやって来る。例えば、犬の散歩や、風で飛ばされた帽子を拾いに来るなど。本人に自覚はなく、温室が、タイムトラベル出来る体質の人を引き寄せるのだ。
そこで行方不明になった人は、どこかの時代に紛れ込んだままになっている。戻る時代は選べないようだ。
因みにタイムトラベル出来ない人にとっては、普通の温室に過ぎない。
この物話に登場するある人物が、温室の特徴を知り、戻りたい日時に戻って失敗をやり直した後、現在に帰ってくるコツをつかむ。
偶然にもタイムトラベル出来る体質だったその人物は、都合の悪い過去を修正しては、現在に帰って来るという行動を何度も繰り返す。そして人生を成功に導こうとするが、中々思った通りに上手くいかない。
過去を修正しても、また別のトラブルが発生する。その度に過去に戻っては修正を繰り返すが、何らかの形で起きるトラブルを完全に消すことが出来ない。
そのうち、過去に滞在していられる時間がだんだん短くなっていく。頻繁に時間を行き来すると、制限時間が設けられるようになり、過去に戻った際は、決まった時刻までに温室に入らないと、現在に帰って来られなくなるのだ。
最後は時間との闘いに疲れ、結局人生は思うようにならない事に気づき、計算ずくに生きるのをやめ、自然に任せる事にする。
かなり前に読んだので、だいぶ記憶が怪しいが、上記のような描写があったのを覚えている。
『もう一度、あの時間をやり直せたら…。』
思い出すと、息苦しくなるくらい修正したい過去の出来事について考える時、何気なく浮かんでくるのが、この作品の舞台となっている不思議な温室。
『ななみ・海岸物語』は現在絶版のようだが、今読み返したら、きっと新しい発見があるに違いない。
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