尾久守侑

精神科医/詩人. 詩集に『国境とJK』『ASAPさみしくないよ』『悪意Q47』(思潮社…

尾久守侑

精神科医/詩人. 詩集に『国境とJK』『ASAPさみしくないよ』『悪意Q47』(思潮社). 医書に『精神症状から身体疾患を見抜く』(金芳堂) , 『器質か心因か』(中外医学社). 『サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床』(金芳堂). 第9回エルスール財団新人賞

マガジン

  • 書籍『偽者論』ができるまで

    2022年8月発刊予定の書籍『偽者論』(金原出版)の製作過程で思いついたことなどを書いた記事をまとめます。

ウィジェット

最近の記事

『偽者論』刊行記念トークイベント@代官山蔦屋書店<Behind Sketch>

 「カムバ」期間などと称して先日発売になった『偽者論』の宣伝活動をしているわけだが、そうして宣伝をしているとどうしても自意識というのが邪魔をしてしまって、かえって十分に宣伝ができない、みたいなことが生じうる。  何が人に刺さるかなど分からないわけだから、なるべく多くの形態のコンテンツを配信すれば良さそうなものだが、自ずとそこは選択をしてしまうようなところがあって、例えば「はい!ということで今日はドッキリを仕掛けていきたいと思いますっ、いぇいいぇい!<パフパフという喇叭の音>

    • 二人で話す

       偽者論も今月末には刊行になるということで、刊行記念の対談を町屋良平さんと代官山蔦屋書店でやることになった。  対談、ということなので当然二人で喋るわけだけれども、想像してみると単に二人で喋るのとは違う緊張感があるなと思う。  誰かと二人で喋る、というシチュエーションは、日常的だが、細かく見ていくと、誰かと二人で喋る、と一口で言ってしまうその構造のなかにあらゆる要素があって、その諸要素が個人の中の様々な感覚と響き合っており、それが緊張を生んだり、逆に緊張を緩和させたりして

      • キングダム

         キングダム2という映画を観ようという話になって、それで友人と東宝ビルの前まで来たところで夕立になった。傘を持っていないので鞄で頭を抱えるようにして入り口まで走ったのだけれども、白いズボンがコンクリートではねた泥で茶色く染まっていて、急に何もかもやる気がなくなってしまった。  僅か十秒程度であったのに私も友人も着衣水泳をしたあとのように頭から身体から水を垂らして、周囲の人も同じようだった。こんなに濡れていては映画を観るには具合が悪いだろうとなって、私の家でキングダム1を観よ

        • バチェラー

           “「独身おじさん友達いない」問題が意外に深刻” という記事がネットで話題になっていて、咄嗟に自分のことを中傷されたのではないかと思って青ざめ、震えながら記事を読んだのだが、そういうわけでもなさそうだった。  中年になって、気づいたら友達と呼べる人がおらず、会社以外での知り合いがいなくなってしまった、という内容で、まずは新たな場に行って雑談から始めましょう、といった指南が書かれていて面白いのだが、なんとなくしっくりこない部分もあって、なにがしっくりこないのだろうと考えた。

        『偽者論』刊行記念トークイベント@代官山蔦屋書店<Behind Sketch>

        マガジン

        • 書籍『偽者論』ができるまで
          29本

        記事

          ナルシシズムはいま

           今週末に思春期青年期学会があって、そのテーマが「ナルシシズムはいま」なのだけれども、私の発表はあまりナルシシズムとは関係がなくて、内科外来における思春期診療を治療構造という視点から考えるというような内容である。  ナルシシズムといえば、先日のnoteで、突如自分のofficial instagramを開設し、その告知を自分の顔面のどアップの写真とともにしたことを思い出した。  ところでいま自分は、ただインスタの公開アカウントを開設しただけなのに「official」などと

          ナルシシズムはいま

          「疲れ」についての連想

           仕事をすると疲れるのだけれども、そもそもどうして疲れるのか、というのが意外によく分からない。  私の仕事は、ざっくりといえば患者さんに生じた医学的な問題に対して対処することなわけだが、肉体的には大したことはしていない。  というかほとんど何もしていない。座っているだけである。  入院中の患者さんを診察する時は、病棟と病棟の行き来で歩行をしたりはする。この距離も200kmとかあれば肉体的に疲れるだろうということは想像できるが、数mである。  しかし、不思議なことに、仕

          「疲れ」についての連想

          空縄自縛

           自縄自縛という言葉は、自分の行った言動により身動きが取れなくなることを言うが、なにかが実行・遂行できないときは、広い意味で自縄自縛に陥っていることが多いような気がする。  典型的な意味での自縄自縛といえば、例えば「毎日筋トレをしない人間は屑だ、人はおろか真核生物にもカウントできない古細菌だ」などとYouTubeで威勢よく配信し、トレーニング動画をアップロードしたものの、その二日後くらいに筋トレをすることが面倒になり、しかし、あんな大言壮語をしてしまったしなあと思って後悔す

          空縄自縛

          内面のプリズム

           友人の友人のそのまた友人の女性がメン地下という人に惑溺して借金を抱えているという話を聞いて、本来であればその女性を心配する場面であったがわたしはメン地下とは一体なんなのかということが気になってそれ以上話に集中することができなかった。  メン地下。素敵な男性が伊勢丹メンズ館の地下惣菜売り場でメンチカツなどを売っている光景が頭に浮かんでくるか?といえばそんなことはなく、だいたいの想像はついた。  つまり地上波放送には出現しないメンズアイドルをして、メン地下というのである。地

          内面のプリズム

          小説『天気予報士エミリ』が「群像」7月号に掲載されています

           何をしたわけでもないのに6月も2週目に入ってしまって、このようにして何をしたわけでもないのに1年は終わっていくのだなと考えていたらかえってぼんやりして、何かをするために気を張っている状態と、そうではなくてぼんやりしている今の状態のどっちが正気なのだろうかと考えていた。  ふだんは気を張って生きているような気がするのだが、ふとしたときにぼんやりすると、やはりこちらが本当なのではないかという気がして、生活の勝手が解らなくなるように思う。  さて、とはいえ何かをした結果、だか

          小説『天気予報士エミリ』が「群像」7月号に掲載されています

          定番スタイル、予測不能スタイル

           今クールの連続ドラマは「金田一少年の事件簿」と「明日、私は誰かのカノジョ」しか視聴していないのだが、どちらも面白い。  「金田一少年の事件簿」の面白さは、その定番性にある、とでも言えばいいのか。つまり、金田一少年が謎のツアーに紛れ込み、人が殺され、その謎をジッちゃんの名にかけて解き明かす、という一連の流れがあり、CM前の「ジッちゃんの名にかけて!」のところで視聴者である我々は最大の快感を感じ、「あ〜おもしれ〜」と思うのである。  大きな流れとしては今述べた通りだが、もっ

          定番スタイル、予測不能スタイル

          倍速視聴するZ世代

           Z世代と呼ばれる若者が映画やアニメを倍速視聴することが少し前にネットで話題になっていて、とはいえ私は自分がZ世代に該当するかどうかということばかり考えていた。私はZ世代には該当せず、Y世代と呼ばれるらしい。  とはいえ、私がY世代であるという話題を書くよりも、倍速視聴について書いたほうがnoteとしてはおもろいのではないかという打算が働いて、結局倍速視聴について書くに至った。  さて、本題だが、倍速視聴をするなんて、最近の若者は一体何を考えているのだ!  と、怒鳴って

          倍速視聴するZ世代

          表情管理してますか?

           せっかくだから写真でも撮りましょうなどと言われて集合写真を撮る機会がしばしばあるが、ではまた!などと解散した後グループラインに送られてきた写真の中の自分は想像とは全く違ったふうに映っているのがふつうである。  具体的には、まあ思っていたより変に映っているのである。自分では、横浜流星みたいな美しい顔をしてカメラに収まったはずなのに、実際には地味なモブっぽい男がキモい表情で映っているばかりであり、これのどこが私なのだ!と怒鳴りたくなる。  しかし怒鳴っても仕方ないのは真実の

          表情管理してますか?

          超自我とフワちゃん

           およそ1ヶ月の間このnoteを更新しておらず、Twitterもほぼ何も呟いていなかったため、尾久は長い病にかかって再起不能なのだという噂や、大韓民国に渡って練習生としてダンスレッスンを受けているという噂、西麻布で若手俳優でもないのに若手俳優のふりをして毎晩酒を鯨飲し、女性関係で揉めて事務所から謹慎を言い渡されているという噂、など様々な憶測がネット上で飛び交っているのではないかと不安になってネットを見ることができなかった。嘘である。  実際のところ、自宅と病院を往復するほか

          超自我とフワちゃん

          推しの分裂、推しの増殖

           「DD」って皆さんご存知ですか?  などとちょっと掴みを工夫したnoteかのように始めても、「知らねえよ!バカ!」と突然暴言を吐いて立ち去る人や、「あー、面白くなさそう」と思って立ち去る人、「そういえば今週のミステリと言う勿れをまだ見てなかった。TVerで配信が終わってしまうから早く見ないと」といって立ち去る人が続出し、結局誰も見ていない状態になってしまうので、変な工夫をしなければよかったのだが、もう仕方ない。もう一度述べよう。  「DD」って皆さんご存知ですか?  

          推しの分裂、推しの増殖

          有事とヨントン

           世でとんでもないことが起きていると、平生はほぼ関心が向いていない話題であるのにも関わらず、つい激しく情報を収集して最悪の事態をいつまでも空想したり、剥き出しの感情や言葉に触れ、さらにそれに反応した人々の感情や言葉に接することになるので消耗してしまいがちである。  今回も事が起こって間もなく微量の消耗感を身体が感知したため、比較的殺伐としやすいTwitterなどのSNSから離れ、あまり殺伐感のないTikTokなどを閲するように努めた。  TikTokといえば、音楽に合わせ

          有事とヨントン

          もう一度レッドオーシャン

           2月に入ってから調子が変わってきている感覚があって、簡単にいえば引きこもりのようになっている。  しかし、実際に行動として家に引きこもっていたり、オンラインで仕事をしていることの比喩として引きこもり、という言葉を使っているわけではない。  世間との精神・心理的なネットワークを絶っているような状態をして、引きこもりと言っているのである。  たとえばSNS、とくにTwitterはほとんどみていないし、呟く回数も極端に減った。みているのはENHYPENとKep1erの公式ア

          もう一度レッドオーシャン