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二人で話す

 偽者論も今月末には刊行になるということで、刊行記念の対談を町屋良平さんと代官山蔦屋書店でやることになった。

 対談、ということなので当然二人で喋るわけだけれども、想像してみると単に二人で喋るのとは違う緊張感があるなと思う。

 誰かと二人で喋る、というシチュエーションは、日常的だが、細かく見ていくと、誰かと二人で喋る、と一口で言ってしまうその構造のなかにあらゆる要素があって、その諸要素が個人の中の様々な感覚と響き合っており、それが緊張を生んだり、逆に緊張を緩和させたりしている。

 たとえば誰と喋るかは重要である。家族や恋人といった近しい人と話すときと、友人と話すときでは調子が違うだろうし、友人といっても親友から知人までグラデーションがあるだろう。全く見知らぬ人と話すときは尚更である。

 私の場合、というかこれは多くの人がそうだと思うのだが、関係が遠くなればなるほど演じるというか、真の自分の周りに防壁を築くような、ないしは鎧をまとって話すような感覚が生じてくる。

 もちろん、距離が遠い人にぶすっとした態度をとると感じの悪い人のようになってしまうので、そこには補正が入るのが一般的で、どこか感じのいい人役というモードが入りがちになってしまう。

 また、二人の会話が公開されるものなのか、というのも重要な構成要素である。

 誰も聞いていないという前提で話される会話なのか、誰かが聞き耳を立てていることを知ってする会話なのか、相手がひょっとして秘密録音をしているかもしれないと想像して行う会話なのか、あるいは対談のように聴衆がいてする会話なのか、などなど、公開という要素によってもチューニングは変わり、公開の圧が高ければ高いほど、少なくとも私の場合は演じる割合が高くなる傾向にある。

 この演じる、というのが私のいう偽者性と大きく繋がってくるのだが、では果たして今度の対談が対談用の謎キャラを私が演じながら本心と全く違うことを話し続け町屋さんが怪訝に思うような会になるかといえば、そうもならないと思う。

 というのはこの演じるという防衛は、私のなかで不自然にならないよう最適化されているのであって、演じながらも本心を言う、みたいなことが可能になっており、それは私と同じ感覚を持つ人にとっても同様なのだと思う。

 バチェロレッテ2という配信番組をこの間まで観ていて、そこに出てくる尾﨑さんという女性(バチェロレッテ)がやたらと「鎧をぬぐ」ということを言っていて、つまりは素のままで人と関わりたいという話なのだが、鎧は生きてくるなかで不可避に作られてきたものであって、それをチェンマイで2ヶ月過ごしたくらいで脱ぐのは難しいし、そもそも脱いだら危ないのではないか、ましてや配信番組で、とうっすら思わないでもなかったが、それを指摘した男性がいきなり脱落していたので、やはり素のままで人と関われていない感じというのは、ある種の人にとってかなり苦痛な感覚があるのだろうとその時はまるで他人事のように思った。

 さて、対談ですが、お相手がもともと仲良くさせていただいている町屋さんであることと、オンラインで配信はされるものの会場に入れる人数には限りがあるということで7万人とかを相手に話さなくて済むことを考えれば随分気楽で、良い感じでいろいろと議論を深めることができるのではないかと思う。

 また別の連想だが、二人で話す、ということは字義通り二人で話すことであって、その発話者が鎧を纏うだのなんだのということとはまた独立して、二人で話すことによる間主観的なものが必ず立ち上がる。それは細かく見れば、片方の発話とそれが纏う周辺の要素が、もう片方を刺激し、その刺激に対する反応が、また片方を刺激し、というやり取りの中で醸成されている。

 ここから連想するのは町屋さんの小説内の会話で、たとえば『1R1分34秒』(新潮社)ではウメキチとの会話から、『ほんのこども』(講談社)ではあべくんとの会話から、ただ会話文を書いただけではない、曰く言い難い、生きた動的な雰囲気がぐんぐんにこちらに迫ってくるような感覚を受け取った。これは実態を前にしない架空の人物同士の会話でも間主観的な何かが立ち上がりうるということで、それは町屋さんの小説ならではなのかもしれないし、まあこんなような話もぜひ当日してみたい。

 さて、対談テーマは“『偽者論』を巡る身体とパーソナリティのダイアログ ~物語としての私性~”ということで、偽者論を中心に、お互いの作品から話をしていくことになるのだと思うが、ひとつも意味の分からない専門的?な話や難解な概念を前提とした議論、などはそもそも私が全くできないので、タイトルがなんか物々しい感じがして万一参加を躊躇っている方がいれば全く心配しないでください。

 ということでもう一度貼っておきます。

 会場参加、オンライン参加どちらでも大丈夫ですが、会場参加には限りがあるのでぜひお早めにチケットをお買い求めください。

 『偽者論』予約開始になっています。

Amazonなどオンライン書店がまだ予約を受け付けていないようですが、受け付けになったらこちらからどうぞ。

楽天はすでに受け付けているようです!

 あれ、書影はまだですか、と思う人がいるかもしれませんが、まだなんですね。装幀、本当にすごいことになっていて驚愕しているのですが、そのあたりの話もまた後日できればと思っています。

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