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【句集紹介】粹座(すいざ) 加藤郁乎句集を読んで

・紹介

 読了後思わず拍手をした。この句集で描かれていたのは一人の江戸っ子の半生の物語だった。

 タイトルにある通り、この句集は「粹=粋(いき)」をテーマにしている。江戸っ子の粋と言ったら、いなせで、偏屈で頑固と相場が決まっている。本書はそんな気質の主人公の若かりし日から老年へのドラマである。

 一例を出すと、例えば嫁さん。江戸っ子は妻のことを褒めない。妻のことを二流呼ばわりしたり。料理に感謝をしなかったり。黙ってついてくればいいとさえいう。本書でもそんな言動が句から読み取れる。

 しかし句集の最後のを締めくくる一句は

連れ添うて宝なりけり秋扇

 ずっと心の中では感謝していたのであろう。この句を読むとポリポリ頭を書いて、はにかんでいる老年の男が見えてくる。しかし、それを直接奥さんに伝えることはしない。なぜなら男は根っからの江戸っ子だから。なんという美しい光景であろうか。(奥さんはたまったものではないだろうが)

 絶滅危惧種「江戸っ子」の人生を俳句という粋な文芸で楽しんでいただければ幸いである。


・厳選10句

かげろふを二階にはこび女とす
身にしむやゑぐいちぎりの如来肌
粋殻やむかし霰の居酒かな
同雲にわりゃぁめし喰ふ積もり哉
しづり雪二流の人と遂げにけり
白団扇しらふにはこび飲み直す
湯奴に上手も下々もなかりけり
かよひ妻歌仙に似たり春の川
鳥雲に入るや黙つてついてこい
連れ添うて宝なりけり秋扇

・作者略歴

加藤郁乎(かとういくや)1929-2012。昭和後期から平成時代の俳人、詩人。
昭和4年1月3日生まれ。俳人の父加藤紫舟(ししゅう)の影響で「黎明」に新芸術俳句を発表。のち吉田一穂に師事して詩作をはじめる。稲垣足穂、西東三鬼、西脇順三郎の作品にしたしみ、昭和34年第1句集「球体感覚」を発表。41年詩集「形而情学」で室生犀星詩人賞。平成10年句集「初昔」で日本文芸大賞。23年句集「晩節」で山本健吉文学賞。江戸俳諧の研究でも知られた。平成24年5月16日死去。83歳。東京出身。早大卒。号は郁山人、四雨。著作に「エジプト詩篇」「坐職の読むや」など。(デジタル版 日本人名大辞典+Plus引用)

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