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俳句マガジン 「ランタン」

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小生の処女句「ランタンはゆつくり灯る秋の雨」より。これから俳句を始める人や、句作に悩んでしまった人たちの、道を少しでも照らせたらと思う。
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#本紹介

【句集紹介】現代俳句文庫 茨木和生句集を読んで

・紹介 最近、奇をてらった言葉遣いの俳句に疑問を感じている自分がいる。初めのうちは「おお、こんな言葉も俳句になるのか!」「その視点の俳句は面白い!」などと感動した句たちが、同じ構文をぐるぐる回しただけの、ただの言葉遊びの羅列にしか見えなくなってきた。  もちろん、面白く感動するような、トリッキーな句もたくさんある。しかし、小生がかつて「俳句ってスゲー」と感動したものとは何かが決定的に違うような気がする。  そのもやもやしたものの正体は、今回紹介する茨木和生氏の句集を読んで

【句集紹介】聖樹 菊池洋勝句集を読んで

・紹介 小生が管理人をする「房州オンライン句会」に参加いただいている俳人菊池洋勝氏の句集紹介である。  いつもなら、句集についての紹介文や感想をここでつらつらと語るのだが、今回は短文でご容赦願いたい。洋勝氏の句を前に、小生の文章力では上っ面の薄っぺらいことしか書けそうにない。 呼吸器と同じコンセントに聖樹 菊池洋勝  この句は小生が俳句を初めて間もない頃、北大路翼氏編の「アウトロー俳句」にて知った氏の代表句だ。  言わずもがな、この句はまさしく「今を全力で生きている人

【句集紹介】未来一滴 乾佐伎句集を読んで

・紹介  俳句に比べて、短歌が若い人たちの間でポピュラーな理由の一つには、俵万智の「サラダ記念日」があると思っている。  「サラダ記念日」は市井の人々が短歌に感じていた、得体のしれない小難しさを破壊し尽くした。思ったことをあるがままに31音に託せばいい。短歌はそれでいいのだということを、あの恋に溢れた口語調の歌は示した。  それじゃあ、俳句はどうなのとなる。俳句にも優れた若い俳人が沢山いて、素晴らしい句集をたくさん出している。俳句愛好家たる小生はそれらの句を楽しんでいるが

【句集紹介】夕ごころ 芥川龍之介句集を読んで

・紹介 あまり知られていないが、芥川龍之介は俳句もすごい。 そして驚くことに、完成度はあまりにも高い。たった17音の俳句の中にも、芥川龍之介の文学らしさがしっかり刻み込まれている。  例えば、 死にたれど猶汗疹ある鬢の際 芥川龍之介  意味としては「死んでもなお、頭の側面の髪の際にあせもがあることだ」となろうが、どことなく『羅生門』にでてくる老婆を想起させられる。 水洟や鼻の先だけ暮れ残る 芥川龍之介  水洟は「みずはな」で鼻水のこと。哀愁溢れるこの句は処

【句集紹介】春のお辞儀 長嶋有句集を読んで

・紹介 長嶋有の「俳句は入門できる」が面白かったので、氏の句集を読んでみた。「俳句は入門できる」については、下記記事をご一読いただきたい。  この句集。とにかく「なんじゃこりゃ?」といった感想が常に付きまとう、珍しいタイプの句集だった。 例えば、 朝ハンバーグ昼ハンバーグ昼花火 長嶋有  意味不明である。朝も昼もハンバーグって何があったんだろうか。しかも季語に花火があるが、世にも珍しい昼花火である。これは俳句なんだろうか、川柳なんだろうか、ツイートなんだろうかという考

「俳句なんかやっている場合か!」って時こそ俳句を作ろう。俳句は入門できる(長嶋有著)を読んで

 芥川賞作家にして俳人の長嶋有の新書の紹介である。読了後のアウトプットと合わせて行いたい。  特に面白かったのは 初鮫は片足残しくれにけり 長嶋有  と言う句の紹介だ。安心して欲しい。この句は、フィクションである。「俳句とはわざわざ人が作って成立するものだ」という、至極当然のことに気が付いた著者が、その気付きに感動して句に残したものだという。辞世の句があるように、俳句は「そんな非常時に俳句なんかやっている場合か!」という時にでも、割と平気で詠まれていたりする。それが俳人

【句集紹介】粹座(すいざ) 加藤郁乎句集を読んで

・紹介 読了後思わず拍手をした。この句集で描かれていたのは一人の江戸っ子の半生の物語だった。  タイトルにある通り、この句集は「粹=粋(いき)」をテーマにしている。江戸っ子の粋と言ったら、いなせで、偏屈で頑固と相場が決まっている。本書はそんな気質の主人公の若かりし日から老年へのドラマである。  一例を出すと、例えば嫁さん。江戸っ子は妻のことを褒めない。妻のことを二流呼ばわりしたり。料理に感謝をしなかったり。黙ってついてくればいいとさえいう。本書でもそんな言動が句から読み取

【句集紹介】鶏頭 正岡子規句集を読んで

・紹介 『柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺』で有名な正岡子規の俳句の紹介である。  ここでは本書の題でもある鶏頭に触れておこう。子規の句で鶏頭と言うと 鶏頭の十四五本もありぬべし が思い出される。後に「鶏頭論争」を巻き起こした句である。ちなみに鶏頭とはこんな花である。 鶏頭(ケイトウ)…夏から秋の季語。ニワトリの鶏冠に似ていることが由来。燃えるような朱色をしていて、庭などに好まれて植えられている。  句の意味としては、「鶏頭が14~15本咲いているに違いない」といった感

【句集紹介】彩 桂信子句集を読んで

・紹介 もう、とにかくすごい。17音でよくぞこれだけ妖しげで、淫靡で、しかしどこか悲しい世界を描き出せるものである。  桂信子の句は「間接照明」のようだ。暖色系の照明に柔らかく照らされ、中心以外の景はぼやける。そしてその光の当たらぬ余白より、仄かに甘美なにおいが漂ってくる。誤解を恐れずに言うと、全男子が一度は夢見る、妖しげな世界が描き出される。  あとがきにおいて「私は幼ないときから、原色よりも間色を好んだ」と言っている。もしかしたら、そういった趣向も、句に反映されていた

【句集紹介】吉野の花 原石鼎句集を読んで

・紹介原石鼎(はらせきてい)は大正期に活躍をした俳人の一人である。 秋風や模様のちがふ皿二つ 秋風に殺すと来る人もがな と言う句に代表されるように、小生は、 「秋風の俳人」 として石鼎のことを記憶している。(上の句は同じ柄の皿を買いそろえる余裕がないほどの貧困を。下の句は不倫駆け落ちをした際、相手の夫が、自分を殺すために、秋風とともにやってきたらいいな、という願望を詠んだ、かなりロックな句である) 虚子に師事し、ホトトギスの同人であったわけなのだが、作風は写生の匂

【句集紹介】告白 瀬戸優理子句集を読んで

・紹介今回紹介させていただくのは、小生が参加している俳句同人「ペガサス」の同人、瀬戸優理子さんの第一句集「告白」である。 小生、瀬戸さんとお会いしたことはないが、俳句同人誌ペガサス上でその句を何度も見ている。 北海道にお住まいということで、特に冬、そして初春の季語を使った句が印象的である。 また、瀬戸さん句には、ご家族のことを詠まれた句も多い。命の温かさや、情の深い句が沢山みられる。 そんな「優しく、穏やかな世界観」の句柄を厳選十句から感じてもらえたら幸いである。

【句集紹介】六十億本の回転する曲がった棒 関悦史句集を読んで

・紹介関悦史氏の俳句に出会ったのは、俳句を初めて間もない頃だった。 そこは、東北地方の鄙びた喫茶店。仕事の休憩にと、ふらりと立ち寄ったその店の雑誌コーナー。 地方紙とスポーツ紙。何年も前の少年ジャンプ数冊。これまた何年も前の週刊誌。そしてこの、「六十億本の回転する曲がった棒」 運ばれてきたコーヒーが冷めるまで、夢中になって読んだものだった。 今回はそんな句集を紹介をさせていただく。 とにかく度肝を抜かれる句の数々である。 厳選十句からそんな世界の一端でも感じてもら

【句集紹介】九州男児 徳吉洋二郎句集を読んで

・紹介小生が参加している俳句同人「ペガサス」の同人、徳吉洋二郎氏の第一句集である。この度は小生のために、ご恵贈いただき誠にありがとうございました。 ペガサス同人誌創刊の際の一句。 春はあけぼの「ペガサス」の翔びたたん は、特に小生の心に残っている句である。自由自在な発想と、諧謔味にあふれた言葉遣いが氏の特徴である。並木邑人先生もそんな氏の世界観を「徳吉ワールド」と称している。 厳選十句からそんな世界の一端でも感じてもらえたら幸甚である。 販売については「文學の森」よ