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【句集紹介】夕ごころ 芥川龍之介句集を読んで

・紹介

 あまり知られていないが、芥川龍之介は俳句もすごい。

そして驚くことに、完成度はあまりにも高い。たった17音の俳句の中にも、芥川龍之介の文学らしさがしっかり刻み込まれている。

 例えば、

死にたれど猶汗疹ある鬢の際 芥川龍之介

 意味としては「死んでもなお、頭の側面の髪の際にあせもがあることだ」となろうが、どことなく『羅生門』にでてくる老婆を想起させられる。

水洟や鼻の先だけ暮れ残る 芥川龍之介

 水洟は「みずはな」で鼻水のこと。哀愁溢れるこの句は処女作『鼻』を思う。

 ほかにも『トロッコ』や『河童』などの、彼の傑作小説を類想するような句が沢山ある。どの句からも一貫して格調高さを感じるが、やはり「自嘲」というか「冷めている」というか「狂っている」といった感じの、芥川龍之介らしさは健在だ。

 文豪で俳句を嗜んでいた人は多くいるが、その中でも芥川龍之介の句は際立っているように思う。厳選十句より、あまり知られていない彼の文芸を楽しんでいただければ幸いである。

・厳選10句

水さつと抜手ついついつーいつい
献上の刀試すや今朝の秋
星月夜岡につゝ立つ武者一騎
蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな
死にたれど猶汗疹ある鬢の際
青蛙おのれもペンキぬりたてか
曇天や蝮生き居る罎の中
木がらしや目刺にのこる海の色
木の枝の瓦にさはる暑さかな
水洟や鼻の先だけ暮れ残る


・作者略歴

 芥川龍之介。小説家。東京生まれ。別号澄江堂主人、我鬼。第三次、第四次の「新思潮」同人。「鼻」が夏目漱石に認められ、文壇出世作となる。歴史に材を取った理知的・技巧的作品で、抜群の才能を開花させた。致死量の睡眠薬を飲み自殺。著作「羅生門」「地獄変」「歯車」「或阿呆の一生」「西方の人」など。(精選版 日本国語大辞典引用)

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