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【句集紹介】未来一滴 乾佐伎句集を読んで

・紹介 

 俳句に比べて、短歌が若い人たちの間でポピュラーな理由の一つには、俵万智の「サラダ記念日」があると思っている。

 「サラダ記念日」は市井の人々が短歌に感じていた、得体のしれない小難しさを破壊し尽くした。思ったことをあるがままに31音に託せばいい。短歌はそれでいいのだということを、あの恋に溢れた口語調の歌は示した。

 それじゃあ、俳句はどうなのとなる。俳句にも優れた若い俳人が沢山いて、素晴らしい句集をたくさん出している。俳句愛好家たる小生はそれらの句を楽しんでいるが、俳句に馴染みのない小生の妻に言わせれば、そんな佳句も「よくわからない」の一言で終わる。

 それは俳句が短歌に比べて、音数が14音も少ないことに由来する。少ないがゆえにストレートに気持ちを謳いあげることが難しい。どうしても思いを何かに仮託するという手段を取らざるを得なくなる。だから、そういった表現手段に慣れていないと、名句佳句を前にしても「何のことかわからない」と言った感想になるのはまあ、至極当然である。 

 故に、俳句界からは俵万智は生まれない。生まれるわけがないのだと小生は思っていた。しかし、それは浅慮だった。小生は見つけたのである。俳句界の俵万智を。

浴衣着て君の前では女の子 乾佐伎 

 平易な言葉で、口語調で、俳句らしさを失わず、そして恋である。この句をはじめ佐伎さんの句には、美しき女性がいる。若く美しく普遍的な女性の姿がそこにはある。小生はこの句集を読んで、俳句界にもこのような人がいたのかと驚愕した。そして、改めてたった17音の文芸の奥深さを思い知った。

 厳選10句では、小生が特に気に入った句を載せている。興味のある方は是非本書を読んでほしい。一読の価値は絶対にある。


・厳選10句

好きという一語でできた銀河系
新雪を踏みしめて鳴る恋の音
雪だるま思い出だけになっている
風車大きい声で良い返事
パンジーはさよならがない街に咲く
桜全部散っても幸せは残る
春いちご優しいふりをしてるだけ
さよならのコーヒー未来は一滴から
浴衣着て君の前では女の子
君は笑い私の羊はよく眠る

・作者略歴

乾佐伎(いぬいさき)。1990年東京都生まれ埼玉県育ち。早稲田大学社会科学部社会科学科卒業。俳誌「吟遊」、文芸誌「コールサック」、「世界俳句協会」各会員、ふらんす堂句会などに参加。(未来一滴の略歴より転載)



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