見出し画像

【句集紹介】春のお辞儀 長嶋有句集を読んで

・紹介

 長嶋有の「俳句は入門できる」が面白かったので、氏の句集を読んでみた。「俳句は入門できる」については、下記記事をご一読いただきたい。

 この句集。とにかく「なんじゃこりゃ?」といった感想が常に付きまとう、珍しいタイプの句集だった。

例えば、

朝ハンバーグ昼ハンバーグ昼花火 長嶋有

 意味不明である。朝も昼もハンバーグって何があったんだろうか。しかも季語に花火があるが、世にも珍しい昼花火である。これは俳句なんだろうか、川柳なんだろうか、ツイートなんだろうかという考えがよぎる。

 しかし同時に恐ろしいほどの言葉の力を秘めている。もはや呪いといっても過言でないほどの魔力だ。意味は分からない。情景もよくわからない。だが頭から離れない。むしろ勝手にリフレインし続けて煩いぐらいである。

 これが、文章や言葉で生きている人の力なのだと思った。小手先のテクニックなど一笑に付す圧倒的な言葉の暴力である。芥川賞作家の力を、このわけのわからない17音でありありと見せつけられてしまった。

 俳句がエリートの文芸とみなされるようになったのは、明治以降のことだ。それまでは井原西鶴の矢数俳諧の例があるように、17音の世界はもっと自由だった。詩性や芸術性ばかりが俳句ではあるまい。こういった、「なんだかよくわからないが、ただただ面白い魅力的な俳句」というのも、あったっていいだろう。小生は中嶋有氏の俳句が大好きだ。

 そんな氏の独特の世界観を厳選10句より感じてもらえあたら嬉しい。(春1句・夏7句・無季2句という偏りのある選になってしまったがご容赦いただきたい)

・厳選10句

ポメラニアンすごい不倫の話きく
朝ハンバーグ昼ハンバーグ昼花火
夕飯はバームクーヘン夏休み
信玄とメカ信玄の散歩かな
初夏や少女パスタを平らげる
サンダルで走るの大変夏の星
人間大砲に笑顔で入り夏
ほうと聞く祖父の浮気や春炬燵
とりあえず裸の方を口説きけり
(やっぱりさっき踏んだのは蝉だった)

・作者略歴

長嶋有。1972年埼玉生まれ。小説家・俳人。「猛スピードで母は」で第126回芥川賞受賞。公開句会「東京マッハ」のメンバーの一人であり、俳句同人「傍点」を主催。2019年度の『NHK俳句』にて選者を担当した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!楽しんでいただけたら幸いです。また、小生の記事は全て投げ銭形式になっています。お気に入り記事がありましたら、是非よろしくお願いします。サポートやスキも、とても励みになります。応援よろしくお願いいたします!