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【写真について知っているいくつかのこと Vol.1】初めて写真を見た日を覚えていますか by KISHI Takeshi


みなさまこんにちは。カロワークスのKISHIです。

さて、突然ですが、あなたは初めて写真を見た日のことを覚えていますか?

…残念ながら私には明確に、この日、この時、この写真!という記憶はありません。私は1980年代生まれなのですが、物心ついたときにはすでに写真のプリントや、印刷物が身近にあり「これは写真だ!」と、とりたてて意識することもなくそれらを受容していたように思います。

一方で、初めて写真を“撮影”した頃の記憶はおぼろげに残っていて、父親が仕事で使った「写ルンです」の現像前の残り数コマを自由に撮らせてもらったり、小学校のバザーで500円で手に入れたコンパクトカメラ(*)にカラーネガフィルムを入れてスナップ撮影したり、ヨドバシカメラの上野店(**)で本体もフィルムも高価だったポラロイドカメラを買ってもらったり…。いくつかの断片的な思い出が蘇ってきます。

*…ソニーにカメラ事業を譲渡したコニカミノルタ…のさらに合併前のミノルタ製カメラでした。隔世の感…!
**…当時、ヨドバシカメラは都内では新宿と上野にしか店舗がありませんでした…。Akiba?マルチメディア?なにそれ!とこれまた隔世の感…。

noteの利用者の方は20代~40代の方が多いと聞いたことがありますが、みなさんの初めての写真体験は何でしたか?若い方は、ディスプレイとデジタルカメラ、もしくは携帯電話のカメラ機能という方もいらっしゃるかも知れませんね。

何だか昔話を語る老人のようになってしまいましたが、いま一度本題に立ち返ると、私の個人的な体験に限らず、現代に生きる多くの人にとって、写真を見たり、写真を撮影したりという経験は、日常の生活の中に深く根ざしているものではないだろうか、ということです。

文字や絵を書くのと同じように、写真を使って視覚的な情報のやりとりをし、それは特別な教育や訓練がなくとも簡単に行うことができる。それは、今や当たり前の事かもしれませんが、あらためて考えると、写真に関わる体験を共有できること、それ自体が驚くべきことではないでしょうか。

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数年前、母校の大学の先輩に写真関係の書籍や資料を譲って頂く機会がありました。

私はお仕事以外では、アナログの中型・大型カメラやネガフィルムも使うので、それらに関する詳しい情報を得ようとすると、1970~90年代頃に出版された写真関係の技術解説書(当時のメーカーの技術者や大学の研究者が執筆していた)は貴重で、それらを細々と集めていたのです。

譲って頂いたダンボール1箱分の本の中には、以前から探していた『フィルムの性能と処理技術』(笹井明,1976,写真工業出版社)や『コダック白黒ペーパーによる高品質プリントの引伸し 芸術,技術,科学』(Eastman Kodak company,1984,コダック・ナガセ株式会社)などなどもあり、歓喜で小躍りしていたのですが、ふと、箱の中に入っていたある本に目が止まりました。

その本は『科学からのメッセージ カラーフィルム』(1985,東京連合印刷株式会社)という40ページほどの薄い本で、表紙に書かれた解説から推察するに「身の回りの製品を通じて最先端の科学技術について理解を深めよう」との趣旨のもと企業の協力を得てつくられた「科学からのメッセージ」シリーズの中の一冊のようです。

ちなみにシリーズは他に「電池」「カラーテレビ」「クォーツ時計」「ラジカセ」「電子レンジ」「ビデオテープレコーダ」「冷蔵庫」「蛍光灯」…!
21世紀からやって来た未来人としては当時の“先端技術”のラインナップのレトロ感がたまりません。

いざ中身を開いてみると、全ページカラーの美麗な図版と、「銀や臭素(ハロゲン)の原子の模式図」などの硬派な内容…。一体、どんな読者を対象に作っているのだ…と思いながら、「序文」に目を通すと、思わずページをめくる手が止まりました。

少し長いのですが、その文章の一部を引用させて頂きます。

写真はすべての人に開かれている
写真を見るとき、私たちはそこに、今まで見ることができなかった世界のありさまを発見します。たとえそれがどんなになれ親しんだ光景であったとしても、見忘れていた何かをそこに見出すのです。私たちは世界がそういう姿をしていることを知り、何かを考えはじめます。
写真を撮るとき私たちはそこに、絵がうまく描けたときに感じるのとよく似た喜びを感じます。たとえそれがどんなになれ親しんだものであったとしても、記憶にはとどめきれない何かをそこにつかみとるのです。私たちは、世界がそういう姿をしていることを記録し、何かを表現し伝えはじめます。
かつて、自分の見た世界を表現し伝える手段は、文字や絵画しかなかった時代がありました。しかし、文字や絵画による記録や伝達は、決して簡単なことではありません。
けれども、人にはだれにでも、自分だけが見ることのできる大切な世界があり、美しい時間があります。その貴重な一瞬をとどめ、伝える可能性を、すべての人に対して開いているもの、それが写真なのです。
『科学からのメッセージ  カラーフィルム』(1985, 東京連合印刷株式会社)

残念ながら、この文章を書いた人物は定かではありません。
本自体にも執筆者の情報は記載されておらず、出版社名でサーチをかけても、このシリーズのほか数冊の情報がヒットするのみで、詳しい情報は得ることはできませんでした。

きわめて詩的な文章ですが、写真を見ること・写真を撮ることの体験の瑞々しさと、写真というメディアの可能性を、真摯に語りかけてくるような静かな重みを感じさせる言葉ではないでしょうか。

もちろん、科学や技術の発展が人間にもたらす影響については、さまざまな点から考慮する必要があり、進歩史観的な楽観だけでそれらを論じることはできないでしょう。しかし、30年以上前の過去からの「科学からのメッセージ」は、時を隔てた今だからこそ、より一層の奥行きを生み出しているように思えます。

この本が書かれてから現在に至るまでの数十年の間でさえも、写真や画像にかかわる技術・文化は大きく変化しました。そして、この先の数十年の間にも、それらがどのように変わっていくのか、未来のことは誰にも判りません。だからこそ、この「写真はすべての人に開かれている」という視点は、写真と人との関わりの「いま」を考えるうえで、重要なヒントであるように思えるのです。

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…と、随分と抽象的な話になってしまいましたね。翻って現実に戻るとしましょう。

このところ、自宅で家族と一緒に過ごす時間が増えたなぁーという方は多いことと思います。なかなか外出もできないので、いいかげん話題も尽きた…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな時、家族や親しい人と「初めての写真体験」についてお話してみてはいかがでしょう。

おじいちゃん・おばあちゃん世代、親世代、子供世代で、だいぶ違ったエピソードが聞けそうです。もしかすると、写真を見ること・撮ることは、今よりもずっと特別な体験であったかも知れません。また、小さいお子さんのいるご家庭では、いつ子供が「写真」という不思議なモノの存在に気付くのか、その反応をこっそり観察してみて頂きたいです…!

生まれて初めて写真を見た日を思い出すことは容易ではありませんが、「生まれて初めて写真を見る気持ち」を想像しながら、写真に目を向けてみると、今まで気づかなかった新たな発見に出会えるかも知れません。

ぜひぜひ、みなさんや、みなさんの周りの「初めての写真体験」も教えて頂けたら嬉しいです。それでは、また次回もこのnoteでお会いしましょう~。

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