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洗顔してお風呂入って化粧水と乳液をつけた今日を皆で称え合いたい

何事も一度知ると知らなかった頃には戻れない

ドライバーを尊敬した日

18歳のころ、車の免許を取るために教習所に通っていた。

初めて運転する車は楽しさよりも恐怖が強く、免許を取るまでの2〜3ヶ月のあいだ、道路を走っている車を眺めながら「今までは何も感じていなかったけど、この人たちは全員試験をパスした人たちなんだな」とドライバー全員を尊敬していた。

それと同じ種類の尊敬が最近あった。お肌の手入れをしている人の偉大さを知ったのだ。

一旦話を聞いてほしい。私は顔に傷(のようなもの)があり皮膚科で治療を受けているのだが、先日病院に行くと「新しい傷ができかけてますよ」と言われた。一度できたものは治療しないかぎり一生治らないし、それを防ぐには傷の原因となるニキビ自体ができない肌にならないといけないらしい。

一応、洗顔と化粧水と乳液は毎日きちんとしていた。私がそのことを伝えると医師はにっこり笑い、

「男性もクレンジング、洗顔、化粧水、美容液、乳液、保湿クリーム、あとは顔面体操やフェイスパックまでしたほうがいいですね。多分女性はたいていしていると思いますよ、私も毎日していますし。化粧をしていなくても男性も角質や汚れを取るためにクレンジングをしたほうがいいですね」と言った。

えっ、そうなの?

無知の罪

その日から、私は頑張って手入れをすることにした。安い商品を教えてもらったが、それでも積み重なるとちゃんとお高い。なんとか自分で買い、ひとまず一回使い切るまでは頑張ろうと思った。さぼったら最終的に治療代のほうが高くつくし。

すると、すごいことが起きた。洗顔が急激にめんどくさくなったのだ。今までは洗顔→化粧水→乳液の3ステップでよかったのが、5〜6ステップに増えるだけでこんなにも違うものなのか。

あまりに面倒なものだから、私はいろいろな年齢層の5人の男友達に肌の手入れについて聞いてみた。5人中5人が、せいぜい化粧水と乳液までしかしていなかった。むしろメンズは化粧水と乳液をしている人のほうが少なかった。

びっくりした私は、今度は数人の女の子に同じ質問をしてみた。彼女たちは普通にクレンジング→洗顔→化粧水→美容液→乳液→保湿クリーム→目もと専用保湿クリームをしていた。顔面体操は少なかったけど、フェイスパックは定期的にしているようだったし、剥がすパックもしているようだった。

私は女友達たちに対し尊敬の念を抱くと同時にけっこうな罪悪感を抱いた。だってその上から化粧もしているのでしょう?

男女で括るのは良くないけれど、街ですれ違う女性たちに「無知で無自覚で傲慢で本当にすみませんでした」と謝りたい気分になった。単純な肌の手入れですら無知が過ぎたのだもの。

私はブルーベースやイエローベースは知っていたが、ブルベ・イエベと呼ぶことと自分のタイプは知らなかった。骨格診断は知っていたがどんなタイプがあるのか知らなかった。CICAがこれほどまでに人気だとも知らなかった。顔脱毛とシミ取りをしている人の割合の多さも知らなかったし眉毛の黄金比も知らなかった。とてつもなく反省した。

手入れをし始めて2週間後

それから2週間後の昨夜、私はとある恋仲になりたい女の子の家にお呼ばれしていた。やいのやいのあって泊まらせてもらうことになり、先にシャワーを使わせてもらった後、女の子がお風呂に入りにいった。

女の子に私の好意は伝えていたしこれはキャッキャウフフ路線なのでは? と思った瞬間、気が付いてしまった。女の子はこれからあの面倒なクレンジング→洗顔→化粧水→美容液→乳液→保湿クリームのステップを踏むのだ。本当はフェイスパックまでしたいかもしれないのに私が泊まることになったからできないのかもしれないし、もしかしたらすっぴん風メイクをして部屋に戻って来ることもあるのかもしれない。

そんな、努力にみちた肌に触れる権利が私にあるだろうか。否、あるはずがない。だって素手で触れるとせっかく手入れをした肌が汚れてしまうもの。

何かを知るということは、もう知らなかったころには戻れないということだ。不可逆なのだ。

この2週間、私は肌の手入れの大変さと偉大さを痛感した。キャッキャウフフしたい気持ちはなくはない。だがそれは肌の手入れの労力に比べると些末なものだ。ーー私は考えるのをやめ、女の子が貸してくれたお客用の簡易布団に潜り、そっと目を閉じた。

翌朝、私は先に寝ていたことをめちゃくちゃ怒られた。当然である。モテる男への道はまだ遠い。

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