みかんの恋は愛のうた 1.終わった恋(2)
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中学一年の夏だった。僕は何故か女子バスケ部と試合をすることがあった。この日、試合をすることになったのは、はっきりとした理由までは覚えたなかったが、女子バスケ部の大会が近いこともあって、練習試合の相手を探していたからだったと思う。
僕自身はバスケが好きで、中学では誰よりも得意だという自信もあった。身長は高くはなかったが、実際にバスケの授業では高身長の人にも負けなかった。
バスケが好きで楽しくて、どんな形であってもバスケの試合ができるのは嬉しかった。そんなに好きならバスケ部に入部すればいいのかもしれないが、僕らの中学には男子バスケ部がないのだ。
それでも、女子バスケ部と試合をするからには、メンバーが必要になってくるが、その点については問題なかった。
集められたメンバーは、普段から一緒にバスケをして遊ぶ仲間で児童養護施設の仲間でもあった。
「 この学校にさ、男子バスケ部を作ろうよ 」
そう言い出したのが、濱辺健一だった。皆んなからは健と呼ばれ、健の行動力が女子バスケ部の顧問の目に留まったおかげもあって、試合が出来るのだ。
ただ、意気込んで話す健だったが幾つかの問題もあって、それらを解決しなければならなかった。その中でも一番の問題は、僕を含め部員候補が全員、養護施設の入所者ばかりであることだ。
それぞれ家庭の事情により施設に入所しているのだが、施設には様々な規則やルールが存在し、その中の一つに部活動禁止という決まりがあった。
この部活動禁止は、どうしても変えることができず、結局、僕らは諦めるしかなかったのだった。
健はそれでも明るくて僕らのムードメーカーで、僕は健のそういう性格に助けられていたのかもしれない。
女子バスケ部との試合ではシューティングガードのポジションに健が入る。
「 今日は女子が相手でも、相手はバスケ部。全力で勝ちに行こう 」
気合いは十分である。そして、僕のポジションはポイントガード。試合中は司令塔でもあり、ゲームメイクを作る大事なポジションだ。
「 継一君はいつも通り、ゴール下の攻守を。相手が仕事しづらくなるように外に広げて。前半はボール入れていくんで 」
継一君は僕の周りで一番最初にバスケを始めた人でもあった。僕にとっても影響力のある人で何度もバスケの技術も全てを教えてくれた人だった。何度も勝負を挑んだが、バスケを始めたばかりの僕には全く歯が立たず、負けてばかりだった。それでも諦めずに挑戦したおかげで僕は上手くもなれた。
バスケの師匠でもある継一君はセンターのポジションだ。今日の女子バスケ部との試合で唯一の高校生でもある。
「 元樹は、継一君と中からどんどん攻めて。みの るも同じく二人の状況見ながら行こう」
元樹は小倉元樹。小学校六年生の時に施設に入ってきた同級生で、顔もイケメンでスポーツ万能。何をしても勝てない気がする程で、僕にとって本当にいいライバルでもあった。だからこそ、バスケは負けたくないと今日まで頑張ってこれたのかもしれない。
そして、みのるの本名は田崎実。このメンバーの中で唯一の知的障害ではあったが、素直でスポーツが大好きだ。健とみのるは、僕よりも学年が一つ上ではあったが、いつもタメ口で接していた。
「健は、俺と外から崩して相手を外に広げて行こう。前後半、関係なくバンバン決めて」
健にも指示を伝え、僕らは試合に挑んだのである。
一方、女子バスケ部はというと、部員は13名。今日の試合も練習試合とはいえ、レギュラーメンバーの3年生が出てくるようだった。
レギュラーメンバー以外の部員には、僕と同じ1年生も数人いるようで、その中には知った顔もいた。
そんな中、僕は一人の女子部員に目を奪われてしまった。あの子は誰だろう・・・そう思っていた時には、もう、一目惚れしていたと思う。その彼女は勿論、僕のことは知らないだろうし、私服だった僕が同級生だってことさえ分かっていないのかもしれない。
女子バスケ部も僕らのチームも、それぞれ軽くウォーミングアップを始める。10分程過ぎた頃、顧問の安部先生が声を掛けた。
「集合!」
その声で選手はコートの中央に整列する。
「今日は女子バスケ部のためにありがとう。女子だからとか気にせず、お互いに全力でお願いします」
安部先生は、そう伝えるとすぐに審判をする女子部員に声をかけた。いよいよ試合が始まるのだ。センターの継一君がセンターサークルに入る。そして、開始のホイッスルが体育館に響いた。
最初にボールを先取したのは僕らだった。みのるがすぐに僕へボールをパスする。すでに元樹が相手ゴールに向かって走っている。速攻のチャンスだ。しかし、僕は速攻はせずにドリブルで二人をかわし、ボールを運んでいく。女子バスケ部は元樹にパスすると警戒し続けているようで、守りを固めようとしているのが伝わってくる。
僕は敢えて元樹に近づき、更に相手を誘い出す。そして、一瞬の隙を見て、外にいる健にパスを出すと、落ち着いたフォームからスリーポイントを決めたのだった。
女子バスケ部も顧問の安部先生も、寄せ集めのチームとは思えないという顔で驚いている。そう、僕らは寄せ集めのただのバスケ好きの集まりではない。普段から僕らは年齢とか実力とか関係なく、ストリートバスケで鍛え抜いてきたのだ。一人一人の癖も動きも知り尽くしているからこそ、歯車さえ合えば最高のチームプレーができるのだった。それに、相手の動きがよく見えたのもストリートバスケで、格上の相手と戦ってきた経験の差だと思う。
そして、この日の僕は絶好調で、シュートが外れる気さえも全くなく、外からも中からも点を取る活躍をみせた。
試合はそのまま僕らが主導権を握り、試合が終わってみると、108対42と大差での勝利だった。
「こんなにやれるなら男子バスケ部を作るべきよ」
安部先生は興奮した様子で言った。
「君は、1年生?」
君とは、どうやら僕のことを指しているようだ。
「1年なんだよね?バスケはやってたの?」
「バスケはよく遊びでやってて、高校生とか年上の人とばっかりやってただけです」
そう答えた僕は今日の試合で、41得点も挙げていたのもあって注目されたのだったが、僕が活躍できたのは仲間のおかげでもあった。
僕に対してディフェンスを強くすれば、他の皆んなが動きやすくなってしまうし、そもそもがこのチームの一人一人のスキルが高いこともあって、僕だけを抑え込めば済むものでもなかったと思う。
それからは、安部先生と幾つか会話を交わした後、僕らは最高の形で試合を終えたのだった。
そして、僕らは挨拶をしてから体育館をあとにした。
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