カフェバグダッド

中東コラムニスト。エジプト、イランに在住9年。中東の奥深さを、文化、歴史を交えて紹介。…

カフェバグダッド

中東コラムニスト。エジプト、イランに在住9年。中東の奥深さを、文化、歴史を交えて紹介。「季刊アラブ」(日本アラブ協会発行)編集委員。ウェブストア https://cafebaghdad.booth.pm/ 執筆依頼などは、kubo3070★gmail.com (★→@)まで。

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2人の女性で描く激動のアフガニスタン現代史...「シマの唄」

主人公のひとり、シマは、天賦の音楽の才能と美声を持つアフガニスタン人女性。その親友で、アフガンの識字教育に意欲を燃やすソラヤ。この2人の苦渋に満ちた人生を通じてアフガン現代史を描いた映画。ソ連の影響力が拡大する中で政情不安が進行していく1970年代後半の情勢が、その後、現在まで続くアフガンの戦乱につながっていったかを、人々の生きざまを通じて知ることができる作品だ。 民族楽器ルバーブをかなで、イスラム神秘主義が底流にある歌を歌い、音楽家の道を進もうとしていたシマの人生は、比較

    • 独居老人問題扱うイラン映画『私の好きなケーキ』

      前半はコメディタッチ、なのだが、話が展開するにつれ、ほんわかとした題名に似つかわしくない、イランにも忍びよる高齢化社会の現実を投影したシリアス作品の色を濃くしていく。 夫を交通事故でなくし、一人娘は結婚して海外で暮らしている、庭付きの家にひとり暮らしの70歳の女性が主人公。同い年で、妻と離婚してやはりひとり暮らしのタクシー運転手を街のレストランで見初め、家に招き入れる。 その積極さに、違和感を感じる人もいるかも知れない。ただ、女性は街では、頭髪の露出を取り締まる「道徳警察

      • スロバキアの自然と少年群像...『大丈夫と約束して』

        スロバキアの映画をみるのは初めて。東京国際映画祭のコンペに出品された、カタリナ・グラマトヴァの長編デビュー作。 マクドナルドもない田舎で暮らす主人公の少年は、悪友とバイク遊びに明け暮れる。母と祖母の3人暮らしだが、母は出稼ぎ仕事のためだといってオーストリアに行ったままなかなか戻らない。祖母との仲は険悪。夢も希望も見いだせない状況で、ムラ社会で母についての悪い噂が浮上し、主人公も疑念を深めていく。 遠くスロバキアのお話しではあるが、貧困、犯罪など社会をとりまく状況は、日本も

        • 人生の活路をムエタイで...イラン映画「マイデゴル」

          逆境の中で、懸命に生きる女性を描くイラン映画は多い。特にイランの外で上映されるイラン映画にはそれが多い気がする。それは、イランのイスラム体制下の女性の人権状況に、国際的な関心が高いことと表裏一体なのだろう。 「マイデゴル」も、そうした作品群のひとつと位置付けられるのだが、さらにこの作品は、イラン国内で暮らすアフガニスタン難民問題、という要素も加わっている。 主人公の両親は、アフガニスタン生まれで戦火を逃れて隣国イランにやってきて、主人公が生まれた。イランで生まれながら、イ

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          コロンビア内戦を背景にした"西部劇"…「アディオス・アミーゴ」

          2024年の東京国際映画祭が始まった。福岡に巡業に行っていたこともあり、日程3日目からの参戦になった。最初に鑑賞したのは、コンペ出品作の南米コロンビア映画。 舞台は20世紀初頭、内戦下の渾沌とした世情にある同国。政府軍と反政府軍(革命軍)が入り乱れる山岳地帯で、利害で同盟し、対立する人々を笑いもまじえて描いている。 「マカロニ・ウェスタンのスタイル」が採用されているというが、登場する「小道具」は南米らしいものが多い。コロンビアという国を知るために直接役立つという感じの作品

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          甘美な記憶とともに迫るやるせない焦燥感…米映画『ドリーミン・ワイルド』

          過去を振り返るということは、少し色あせた甘美な記憶と一緒に、そこにつらなっている「悲しみ」「悔恨」といった痛みも俎上にあげることでもある。 一度、忘れ去られていたロックミュージシャンがネットでバズったのをきっかけにカムバックを果たすという、今風の夢のあるストーリーとして始まっていくこの作品は、むしろ、最初の想像とは違い、過去の痛恨の側面に焦点を当てる。人生は、だいたいが思うようにいかないのだ、という真理を突きつけられる。 10代でロックバンドを結成した兄弟。農場主だった父

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          中東関連はパレスチナ映画1作品…東京フィルメックス2024上映作品発表

          11月23日から12月1日まで東京・銀座で開催される映画祭「東京フィルメックス」の上映ラインナップが発表されたので、とりいそぎ、中東関連作品を紹介する。 今年は、パレスチナ関連映画1作品がコンペティションに出品される。以下のリンクはコンペ作品のリスト。 「ハッピー・ホリデーズ」という、イスラエル北部ハイファで暮らす、あるパレスチナ人家族を描いた物語。「それぞれの章が家族内の別の人物を中心に展開し、それぞれが相互に絡み合う構成」になっているという。 監督は、パレスチナ人のス

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          あらゆるものが商業化される現代を描くスリラー…「ドリーム・シナリオ」

          往年のハリウッドスター俳優、ニコラス・ケイジが主演のいっぷう変わったスリラー。いや、設定がかなりありえないものだけに、奇想天外なコメディーともいえるのかも知れない。さらに言えば、あらゆるものが商業化の対象となる現代を風刺してもいるので、ピリ辛風味でもある。 夢の中に表れて、人を苦しめる「夢魔」が、実在の人間だったら? 「夢魔」である人物は、人々の反撃の対象になってしまうことになるだろう。それはかなり悲惨な状況だといえる。 ニコラス・ケイジ演じる平凡な大学教授は、そんな状況

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          文学フリマをからめた旅の効用…札幌の独立系書店のイベント参加など

          文学フリマ札幌への参加は、昨年に続いて2回目になる。出店者の数はどんどん増えていて、ZINE・同人誌の熱は津軽海峡を越えて伝わっていることがうかがえる。北海道の分厚い文学風土を考えると、それも驚くことでもない、ともいえるのだが。 カフェバグダッド の「看板ZINE」である「日本で食べられる中東料理ガイドブック」には、残念ながら北海道の店は紹介されていない。 そもそも北海道には、私が知る限り、中東料理レストランは、札幌にトルコ料理店がひとつあるだけだ。 そんなこともあって

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          東京国際映画祭2024まで1か月...中東映画のラインナップは

          2024年の東京国際映画祭(TIFF)は、10月28日~11月6日の日程で開催される。9月25日、出品作品を発表する記者会見が、映画祭の主会場でもある東京・日比谷のミッドタウンで開かれた。主なフォロー対象の中東関連映画のラインナップを紹介したい。 コンペティション部門「士官候補生」(アディルハン・イェルジャノフ監督) 市山尚三プログラムディレクターも話していたが、今年の映画祭は中国など東アジアの作品が多いのが特徴だ。コンペ部門でいうと、いわゆる中東の作品はゼロ。イスラム圏

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          文学フリマ大阪紀行…岐阜にはじまり奈良で終わる

          東京以外で開催される文学フリマには、いつも滞在を前後に延長して、開催地周辺の物見遊山もしている。イベントに参加してZINEを売ってトンボ帰りでは、もったいない気がするからだ。とはいえ、これだけ長旅になったのは初めてのこと。 今回の文学フリマ大阪(9月8日開催)では、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、奈良県を1週間かけて回った。車を運転して移動し、大都市にはほとんど足を踏み入れず、いわゆる郊外のような場所を訪ねた。個々の街での体験は、改めて詳しく記すこともあるかも知れないが、ま

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          秋は文学フリマの季節…大阪、札幌、福岡へと巡業します

          年々、夏の暑さが厳しさを増すような気がして、秋が待ち遠しく感じるようになっている。9月の天候はどんな感じなのか、気にはなるが、来週から巡業のシーズンに入る。文学フリマへの出店が続くのだ。 まず、9月8日の日曜日には、大阪で。 文学フリマ詳細情報⤵ https://bunfree.net/event/osaka12/ 1昨年(9月25日)、昨年(9月10日)に続いて3回目。会場は天満橋駅近くのOMMホール。出店と並んで、いちも楽しみにしているのが、関西圏の中東料理などのレ

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          欧州在住のクルド人社会の現実描いたトルコ映画…「二番目の妻」

          日本に暮らすクルド人たちへのヘイトスピーチがますます醜悪さを増している。そうした言動を取る人たちは、いったいどれだけクルド人について知っているというのだろうか。故郷を離れてくらす彼らがおかれている状況、彼らの心情について、少しでも考えることがあるのだろうか。SNSに口汚い言葉を書き連ねる時間があるなら、ぜひ、鑑賞してもらいたい映画を紹介したい。2020年に開催されたイスラーム映画祭で上映された作品「二番目の妻」だ。ただ、今のところ日本語版はなく、トルコ語やフランス語版でしかみ

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          イラクの少数派ヤジーディ、女性たちの戦い…「バハールの涙」

          イラクの宗教的少数派ヤジーディが、ISの奇襲攻撃を受け、多くが殺害されたり、拉致され監禁される惨事が起きてから、この8月で10年がたった。10年という時間は短いようで長く、その後、中東では、パレスチナ・ガザでの惨劇などが発生し、ISが犯した数々の蛮行は、特に、現地から遠く離れた日本では、すでに歴史の彼方にかすんでしまっている感も否めない。 そうした歴史を少しでも思い返してもらいたい、という気持ちから、2019年に日本で公開されたヤジーディの女性が主役の映画「バハールの涙」を

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          自爆攻撃にかりたてる「絶望」描く…パレスチナ映画「パラダイスナウ」

           イスラエルによるガザ攻撃が延々と続いている2024年の夏。肉親・親戚・友人を失ったパレスチナ人の絶望感の大きさは計り知れないものがある。イスラエルがガザ空爆の根拠にするパレスチナ武装組織による「テロ」については、なぜ彼らがそうした攻撃をするのか、についてよく考える必要がある。2007年春に日本で公開された「パラダイスナウ」という映画は、まさにその点を描いた作品だ。以下は、2007年4月9日に、当時のカフェバグダッド・ブログに書いた映画評。今、改めて注目されるべき作品だと思う

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          朝鮮半島の土俗的精神世界とホラー・エンタメの融合…韓国映画「憑依」

          韓国映画は、昔よくみていたが、長くごぶさただった。韓国映画に限らず、ホラーとか、オカルト系もほとんどみることがない。だから、この「憑依」を見て、いろいろと新鮮に感じることも多く、飽きずに楽しむことができた。普段は、中東地域に関連した、特に社会派系作品をもっぱら鑑賞しているのだが、こうした国もジャンルも違う作品もたまにはいい。気持ちも、映画をみる視点も変わる。 祈祷師の家系の医師で、除霊と称した儀式で金を稼いでいるチョン博士(主人公)を、韓国映画スターのカン・ドンウォンが演じ

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